S・クレイグ・ザラー『Drugged Across Concrete』
いやー、面白かった!
ストーリーのメインは身もふたもない、金塊の取り合いです。
しかも、人気など全くない場所で、停職中の刑事2人とその金塊を銀行から強奪したグループとです。
ここに至るまでをなんと、約170分もの時間をかけているんですね。
ある意味、エーリヒ・フォン・シュトロハイムの超大作『グリード』のテーマに先祖返りしています。
しかし、問題はなぜ、誰もいないようなところで金塊の取り合いになったのか。ですよね。
これを実に淡々としかし、レンガを一つずつ積み上げていくように実に周到に進んでいくんです。
この時間感覚、間合いのすごさですよね。
ベテラン刑事のブレットはかなり歳下のトニーとコンビを組んで仕事をしてますが、ブレッドの捜査手法は相当に荒っぽく、すでに何度も停職処分を食らっています。
凄腕だが、手法の荒っぽさが問題視されるコンビ。BLMにより、実際にこういう手法が社会問題化してますね。
元相棒は警部にまで出世しているのに、ブレットは定年間際なのに現場の刑事です。
そんな彼の妻は難病にかかっていていて医療費がかかります。
安月給では生活が苦しいのでした。
検挙率はとても高いのですが、前述の理由で、出世もできず昇給もありません。
そして、またしても6週間の停職を受けてしまいます。
そんな彼が経済的な危機を解決するための方法が、麻薬の売人から金を強奪するという事なんです(笑)。
ある意味、一線を超えためちゃくちゃなんですね。
このブレットを演じるのが、メル・ギブソンなのですが、悪徳刑事どころか、悪そのものであり、ここから邦題『ブルータル・ジャスティス』が全く意味不明なのがわかりませんでしょうか(笑)。
誰なんですか、この邦題を考えた人。
メルギブはハリウッドでは「お騒がせキャラ」となりつつありますが、なかなかどうしていい味が出ています。
相棒のトニーも結婚のためにカネが必要であり、ヤバいと思いながらもブレットの危険な計画にズルズルと参加していきます。
張り込みしながらの食事シーンは必見!
と、話しの経緯をつらつらと書いてみましたが、これでは本作の魅力など、10%も伝わらないんですよ、困ったことに。
とにかくですね、独特の空気感と言いますか、間合いと言いましょうか、そこがなんとも素晴らしいんですよね。
金塊の奪い合い。という、どうしようもない出来事に収斂していく話しなのにもかかわらず、画面は興奮が決して高まりません。
全体を通して、非常に体温が低いです。
バイオレンスシーンが相当にドギツイのですが、実は全体を通して、10分くらいでしょう。
しかし、それも低体温というか、淡々と描くんですね。
何のタメもなく、エグいバイオレンスが描かれます。
しかし、むしろ、キャメラはかなり引いた状態で見せるんですね。
軍事用の兵器ですよ(笑)。
ドッキリ感とかそういうものとしてバイオレンスが表現されてないんです。
むしろ、本作のコワさはずっと通奏低音のように漂う不穏な空気感が一貫して維持されている事で、それが、登場人物の何ということのない会話の間合いなどによって、なんとも知れないグルーヴが生み出されています。
トニーにはフトしたタイミングで「アンチョビ!」というクセがあるのですが、この特に何の説明もなく出てくる「アンチョビ!」がいいんですね。
ブレットが何かにつけてパーセントで表現するのと相まって、不穏な空気なのに、ふとユーモアが立ち上がる。
こういった会話の間合いと編集によって、そんなに動きの多くない映画にもかかわらず、ダレた感じが全くしないのがすごいですね。
敢えて近いモノは何だろう。と考えると、恐らくは北野武作品という事になるのでしょうけども、北野武監督は、もっと手際よく90分ほどでまとめてしまうところを、この監督は敢えてこの長尺で見せている、このタイム感覚こそが本作のキモだと思います。
実は、本作は映画会社側から本作は長すぎるので、カットして120分くらいにしろ!と言われたそうなのですが、ザラー監督は断ったそうです。
本作を短くカットしてしまうと、せっかく作り上げたタイム感覚や雰囲気がすべて壊れてしまい、意味を失ってしまいます。
それにしても、ものすごい才能が現れたものですね。
劇中に使われる音楽のセンスがこれまた抜群で、なんと、この作品のために監督自ら作曲したのだそうです。
監督がミュージシャンとしても活躍しているという事を知り、納得しました。
「ショットガン・サファリ」の曲はサントラが欲しくなってしまいました。
レオーネ、タランティーノ、北野武が好物な方には超オススメです!
この映画を紹介してくれた、TBSラジオ『ライムスター宇多丸のアフター6ジャンクション』の金曜日の「ムーヴィーウォッチメン」のコーナーに感謝です!
非常に丹念に作られたB級映画の傑作です。