猟奇的な事件をある種のユーモアを交えて描く傑作!

 

奉俊昊(ボン・ジュノ)『殺人の追憶


1980年代から90年代にかけて、実際に起こった連続殺人を元に作られた衝撃作。


シリアルキラーものそれ自体は、アメリカなどで既に多く作られてきたので、それ自体は目新しさはないのですが、その描き方がとても新鮮であり、見るものを唸らせる、奉監督の実力を知るには最適な作品です。


静かな村で女性が連続して同じ出口で殺害されたのを、地元の警察が捜査するのですが、その捜査のあまりの杜撰さ、非科学的な手法、拷問による自白の重視をかなりコミカルに描いていますが、よくよく考えると、かなり酷い捜査であり、韓国の黒歴史そのものを、殺人の異様さ以前に描いているのが興味深いですね。

 

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2番目の殺人事件からストーリーが始まります。

 


奉監督は、朴槿恵政権のブラックリストに載っていて、危険人物としてマークされ続けていた事が後に判明しますが、彼の作品には必ず韓国社会の持つ様々な問題をシッカリと包み隠さずに描いている(しかも、必ず独特ブラックユーモアを交えます)ところが、保守派から危険視されていたようで、そのような反骨精神を持って映画を現在も撮っている人です。


しかし、奉監督は、それを非常に優れたエンターテインメントとして見せており、シリアスな社会派映画には絶対になりません。


彼のどこかシュールで素っ頓狂な部分だけで撮られた長編デビュー作品『ほえる犬は噛まないからして、決して一筋縄ではいかない、かなりの曲者で、本作でも、主人公の地元の刑事を演じる、今や韓国を代表する俳優となった、ソン・ガンホ(宋康昊)は、初めはコテコテのダメ刑事なのですが、ソウルからやってきた、腕利きの刑事がやってきたのを、最初は毛嫌いしてしつつも、次第に彼の手腕を見直し、次第に捜査に本格的に取り組んでいく姿を見事に演じております。

 

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ソウルから派遣された刑事の捜査が、地元刑事たちを奮い立たせます。

 


この映画の独特なところは最初の容疑者とされるペク・グァンホが知的障害を持っている事で、当初はこのグァンホを犯人と決めつけて、ソン・ガンホと相棒が、自白を強要したり、証拠の捏造すらしてしまうのですが、調子に乗って、デタラメな現場検証をテレビなどのマスコミのいる前で行った時、焼肉店を経営するグァンホの父親が「息子は殺人なんてできない!」と叫び始めると、グァンホ

「とうちゃん!オレ、やってないよ!!」と騒ぎ始めてしまい、いい加減な操作が明るみになってしまう事です。

 

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知的障害がある青年が容疑者とされるという設定は『母なる証明』でも継承されました。

 

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刑事課長も更迭されるという大失態です。

 


よくよく考えると、かなり酷いのですが、ココを独特のユーモアで表現できてしまうのが、奉監督の並々ならぬ所であり、このシリアスな場面ほど側から見ていると実に滑稽であるというのは、力量が遺憾なく発揮されるところです。

 

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また、彼が一貫して描くのは、韓国社会に色濃くある、様々な格差です。

 


ソウルから来た、大卒の刑事と短大卒と高卒の地元刑事という形でも端的に示されてますね。

 


オチはすでにわかっているように、迷宮化してしまうのですが、それが分かっていてもドシンと主人公を打ちのめす事実は決して劇的にではなく、極めて静かに示される事で見るものに瞬間的な衝撃ではなく、ジワジワとそして確実に見る者のココロの中に沁みていきます。

 

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この一体どう気持ちを落とし込んだらわからないような終わり方は、『母なる証明』で更に深められていきますね。

 


コレまた必見の作品です。

 

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※2019年にようやく連続殺人事件の容疑者が逮捕されました。