オリベル・ラシェ『SIRĀT』

この親子の人探しが映画のスタートになります。
映画を見た。というよりも体験した。というのが適切な映画ですね。
カンヌで賞取りました。というのがウリなわけですけども、いわゆる、ゲージツ映画感は表面上あんまりしないように作ってます。
ただ、カンヌ受賞作はやっぱりアート作品ですので、よくよく見ますとちゃんとアートです。
「ネタバレさせんな!」的な圧がすごいですけども、あらすじ説明しても、「えっ、それ、おもしれえの?」というくらいにシンプルなので(それこそ、『さるかに合戦』級です)、監督の演出のほとんどは、「どう見せるのか」に心血を注いでおりますので、バレていようといまいと、見てみないとその面白さはわからないと思います。

で、冒頭の「体験する」につながるんですけども、ラシェ監督の演出意図は、映画館という空間で体験することで、初めて感得できるもので、たとえば、自宅に100インチのミニシアターがあるという環境で、配信やDVDで鑑賞しても、多分、感銘度は落ちると思います。

スマホ&ヘッドフォンで見たら、「なんじゃコレ。ただのB級映画じゃないか。おもろない」になるでしょうね。
この映画は、まずは、「映画館で体験する」という、今どき古風な鑑賞を要求する映画である事が、ある意味、コンセプチュアル・アートなところなのかもしれません。
しかし、映画それ自体は、特に後半部のかなり不条理な、しかしながら、ホントにそういう状況に追い込まれている人々が現在進行形で存在しているという、SF(凄絶に不条理)作品となってきます。
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『恐怖の報酬』、ミケランジェロ・アントニオーニ『砂丘』、ジョージ・ミラー『マッドマックス 怒りのデスロード』、ミシェル・フランコ『ニューオーダー』という、どれも歴史的重要作でありながら、普通は同じカテゴリーに入る事は考えられないものが、なぜか矛盾なく同居しているポップ感覚、そして、冒頭のレイヴシーンだけでなく、全編にわたって使われる秀逸なサントラは、モロッコと思しき北アフリカの砂漠地帯の映像(実際に撮影はモロッコで行ったようです。しかし、作中はどこなのか特定してません)は、見事なまでにマッチしていて、この音を体験するためにも、映画館鑑賞は必須です。
本作はある種のロードムービーであり、しかしながら、同時進行で、ヨーロッパや北アフリカで戦争が起こっているらしく、どこか、アンドレイ・タルコフスキーの遺作、『サクリファイス』を思わせる、終末的な世界なのですが、この作品は北欧の小島の話ですけども、コチラは、北アフリカの砂漠地帯です。

セッティングされたスピーカーの山と、その背後に巨大な岩が映る冒頭シーンは、否応なく、本作のテーマを表現しています。
「スピーカーの山」と「岩山」という、人工物の自然そのものの対比です。
本作は一貫して、自然と人工物、そして、生と死が対比的に表現されます。
舞台としての砂漠地帯は、ほぼ死の世界てあり、否応なしに登場人物たちの生を際立たせます。

レイヴを砂漠地帯で行う。という事自体、ヨーロッパのある程度の経済的地位を持った人々が日々の生活で失われがちな人間が持っている「野生」を、「死」に近い場所で踊るという事で取り戻そうという行為ですが、それ自体への批判も、遊牧民の少年と登場人物たちが出会うシーンで描かれます。
また、タイトルである、「シラート」については冒頭で説明がある通りで、ある選択をしてしまった登場人物たちが受ける、かなりの報いがストーリーのメインになってくるのですけども、では、そうではない方を選択した、多くの人々は助かったのか?とは一切言ってません。
私は、救われているとは思えず、彼ら彼女らもまた、相当な受難の道になった事想像されます。
それは、ラストシーンにも言えていて、私には、全くの救われているように思えなかったですね。
線路の先が全くわからないまま、というか、砂漠しか見えない映像で終わるあの最後のショットは、更なる悲劇の到来しか見えてこない。
メキシコと思しき国に「新秩序」の誕生と「反逆者」の絞首刑のシーンで終わる、ミシェル・フランコ『ニューオーダー』と同じものに思えてなりません。

NATO軍がチラチラとできますが、それが意味するところはあまり明らかになりません。
本作は極端な、言ってしまえば、「予算の潤沢なATG映画」にも見えますし、「低予算のSF映画」にも見える、面白い体験でしたが、その極端さゆえに、ある意味、いろんな現実的事象が当てはまる。すなわち、あの不条理は誰にでも当てはまりうるし、それは実際、現在進行形の出来事である事を言わんとしていたのではないでしょうか。
ゆえに、見るだけとか聞くだけでは足りなくて、体験しなくてはならない。そういう事なのではないでしょうか。
上映館はさほど多くなく、もう、上映が終わっていてもおかしくない7月の中旬の平日でも結構なお客さんがコンスタントに入っているというのは、その辺の事情が口コミレベルで着実に広がっているのかもしれません。












































