森田芳光『そろばんずく』
森田作品の中でも破天荒さではトップクラスです。
『それから』で、なんと、夏目漱石の文学世界にまで突入してしまった直後に発表された、森田芳光の痛快作。
ト社とラ社というライバル関係にある広告代理店の対立を軸に描かれるかなりクセの強いコメディですが、森田芳光のフィルモグラフィの中でも1,2を争う森田色が濃厚であり、見る者をかなり選んでしまう作品ですね。
例えば、大林宣彦『HOUSE』『ねらわれた学園』という初期の傑作がありますが、人によっては、「コイツはふざけているのか!」と怒ってしまう方もいるように、本作を見て、「は?」と思ってしまったりする人は出てくると言いますか。
主演は当時、お笑いタレントとして、人気急上昇中のとんねるずが務めて、それぞれ、春日野(石橋貴明)、時津風(木梨憲武)という、相撲部屋の名前から取った名前になってますが(笑)、森田演出は、『の・ようなもの』の志ん魚々ちゃんと同じく、何の演技もさせず、そのまんまのとんねるずが森田ワールドで飛び回っております。
そして、それがバブル経済に突入していく当時の日本の躁病感を見事に表現していますね。
春日野と時津風が勤めているト社のライバル関係にある、ラ社の実権を握るのが、アメリカ帰りの天神です。
腰巾着を演じる渡辺徹とともに小林薫が素晴らしいです!やって〜、やって〜、やりまくれ〜!
この小林薫演じる天神の風貌がものすごく、日焼けサロン通っている現首相か掟ポルシェの扮装をしているようにしか見えないんです(笑)
ラ社の社内研修で行われる、「セックス体操」のバカバカしさと、新興宗教が駆使する身体性が、オウム真理教の出現を予言しているようで、よくよく考えるとコワくもあります。
ラ社の謎の研修、セックス体操!
とんねるずの2人の異様なまでに平板で内面がないというか、ほとんど虚無なのでは。と思わせるような存在感とちょうどコインの裏表のようです。
その荒唐無稽とも思える展開は、見る人によって評価が分かれるでしょうけども、私は、そこにこそ積極的な評価を与えたいんですね。
初めての大役を得た、安田成美の体当たりの演技も素晴らしいです!
どこか都会の喧騒を愛しつつもどこか冷めたような眼差しで東京を見ている森田監督は、敢えて、ギャグマンガとしか思えないような話しの中で、とんねるずたちを暴れ回らせる事で、異様なまでに狂騒する広告代理店の世界を批判的に見ているのでしょうね。
長きにわたる、日本の経済の低迷の原因を考える上でも、そこで醸成された様々な文化的社会的問題を考察する上でも見逃せない作品です。
『ときめきに死す』を合わせてご覧ください。
まさかの『スーパーマリオ』です(笑)