S. クレイグ・ザラー『Brawl in Cell Block 99』
いやはやすごい。すばらしい。そして、ひどいバイオレンス(笑)
彼の作った長編3作はいずれも通奏低音のように緊迫感を漂わせつつ、それは決して高揚していく事がありません。
いずれもかなりのバイオレンスシーンがあるにもかかわらず。です。
どこか醒めているんです。
北野武作品のの暴力をとことんまでやって、しかもやりすぎちゃってちょっと笑えるところにまでいってしまっているというか。
あと、音楽がめちゃいい。
ザラー監督はミュージシャンでもあり、サントラの曲を自作するくらいでして、本作でもカーステからやたらといい音楽が流れます。
ダウナーでオフビートな絵なのに(笑)
要するに好きな方にはたまらないけども、ダメなひとはダメみたいな監督です。
本作はリストラの結果、ヤクの運び屋になってしまった、ブラッドリー・トーマスを演じる、ヴィンス・ヴォーンの、アホみたいに屈強な男の、想像の遥かに斜め上を行く生き様を刻印した、異色作品です。
ヴィンス・ヴォーンが奥さんの車を破壊するシーンは必見です!
ヴォーンは次回作で、なんと、メル・ギブソンの相棒の刑事役という大躍進をとげます。
設定として、元プロボクサーという設定なので(体格からしてヘヴィ級です。この階級のボクサーのパンチは殺人兵器ですよね、実際)、とにかく滅法腕っぷりがすごい。というか、笑ってしまうほどすごんですよね(笑)
先日DVDで見て驚嘆した、『ベイビーわるきゅーれ』のアクションと真逆の美学で、むしろ、おっさんたちのかなり鈍い動きをそのまま活かした演出でリアリズム志向なんですね。
『ベイビーわるきゅーれ』のすごさは、ジョン・ウーやジャッキー・チェンのような、演舞に昇華されるような演出のすごさに圧倒されるんですが、本作は、とにかく、デカいおっさんの速度まんまなんです。
しかも、全くカッコよく撮ろうとしてないんです。
が、それが逆説的にカッコいい。というの所に、ザラー監督の演出は至っている所が、やはり非凡と言わざるをえないんです。
おっさんたちの鈍い動きまんまのバイオレンスの生々しさ!
邦題がポンコツなのは、何となく脱獄モノを思わせるB級映画っぽいんですけども、実際の内容はむしろ真逆である事なんですよね。
原題にある、「第99房」を目指して、受刑者として潜入していくんです。
あり得ないシチュエーションをこれほどまでに淡々と見せる人はなかなかありませんよね。
詳しくはココでは書きませんが、予想を遥かに超えるぶっ飛んだ刑務所描写は、お笑いウルトラクイズを見ているような感覚に襲われ、もはや、笑ってしまいますが、ザラー監督は、そういう、ほとんどマンガのような展開に唐突に以降しても、特に、ババーンできないサントラも何もなく、同じ空気感で淡々と異様なんです。
拳銃を突きつける刑務所なんて、アメリカのどこにもないと思います(笑)
この描き方は、ザラー作品に一貫したものがあります。
この何とも知れない、新しい感覚を切り拓いでいるザラー作品は、その残酷描写にどうしても好き嫌いが極端に出てしまいますが、そこを乗り越えた先に、ザラー作品の魅力があると思います。
実は漢気映画でもあるのです!