犯行計画の緻密性は規模に反比例する。

マーティン・スコシージ『グッドフェローズ

 

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2023年に3時間半を超える大作を発表するなど、未だに創作意欲の衰える事のないスコシージですが、その新作にも通じる、司法取引を行なった人物から見た犯罪組織の全容を描いた作品です。


どちらもデニーロが巨大な犯罪の主犯格なんですけども、本作ははアイルランド系のギャングの、とりわけ、窃盗を得意とする、ジミー・コンウェイという悪漢ですが、主人公は、この彼の犯罪をFBIに証言したヘンリー・ヒルという、コンウェイの手下を主人公とした作品です。

 

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ヘンリー・ヒルが逮捕され、FBIと司法取引をした結果、ジミー・コンウェイの数え切れない犯罪が明らかとなりました。


このヒルの役を演じるのがレイ・リオッタなのですが、今回見直して一番素晴らしいと思ったのは、このリオッタです。


コンウェイの組には、ジョー・ペシ演じる凶暴な武闘派がいるのですが(冒頭シーンで見せる容赦なさがすごいです)、彼が仲間と酒を飲んでいる時に、延々とつまらない話をするんですよ。


で、彼は酒の席でキレると、暴れ出して、人を瞬殺するような男であることをみんな知ってるので、ひな壇にいるお笑い芸人のように、みんな作り笑いがすごいんです(笑)


組長のデニーロですら、ノルんです。


全員の顔のイヤイヤ付き合ってる感じがすごいんですが(笑)、組の序列がそれほど高くないヘンリーは、「ぎゃははははははは!」と不必要に空気を読めずにデカい作り笑いをするんですね(アメリカでも「空気読む」ってあるんだなあ。と実感しました・笑)。

 

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この表情(笑)


すると、ジョー・ペシが「なんだ、ヘンリー、何がそんなにおかしいんだ?」というと、ヘンリーは「アンタは最高におかしいよ」と返すんです。


そうしますと、「あ?おかしいって、オレのどこがおかしいんだ?」とペシがグイグイっとヘンリーに食い込んでくるんですね。


場の雰囲気が一挙に悪くなる。

 

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「い、いや、その、ほら」みたいにヘンリー・ヒルはシドモモドロになってくると、「んだよ、マジになってんじゃねーよ!なにビビってんだよ!」と絶妙にペシが場を和ませる。


この時の「にいさん」を喜ばせなきゃならない、やくざの「タテ社会」ぶりが、レイ・リオッタの薄っぺらい阿諛追従から見事に浮き上がるんですよね。


ペシのヤバさにはついつい目がいきますし(事実、ペシの演技は生涯最高のモノであり、アカデミー助演男優賞は当然だと思います)、この太く短くしか生きられない男を見事に演じてあるのですが、それを見事に際立たせているのは、リオッタの見事な小物演技なんですよね。

 

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ペシが演じるキャラクターは、恐らくは、実際のジミー・コンウェイから分離して創作されたものだと思われます。コンウェイは恐ろしく凶暴だったそうです。


本作のクオリティを高めているのは、決して派手ではない、レイ・リオッタのリアルなやくざの生活感です。

 

この辺りがマフィア映画をシチリア島からの移民の壮大な歴史的絵巻にまでしてしまった、『ゴッドファーザー』とは対照的です。


フルトハンザ航空の旅客機が運ぶ現金を強奪するという、実際にあったトンデモ事件がお話のメインになるわけなんですけども、新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と酷似するのは、実につまらない事で犯行が露見してしまうところですね。

 

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コンウェイは捜査が自分に及ぶのを食い止めるため、犯行グループを次々と粛清する事で食い止めるのですが、実はヘンリーが組織に言わずにコッソリ行っているコカインの密売がDEAの捜査によって追い詰められていました。


このヘンリーが麻薬密売容疑で逮捕される1日が実に素晴らしく、ここだけで1つの秀逸な1つの映画になっておりまして、本作の白眉といってよいです。


本作にしても、『キラーズ〜』にしても、悪党というのは、実はデカい犯罪になればなるほど、それに反比例して段取りとか計画が雑になっていくんですよ(笑)


ジミー・コンウェイにしても、当初はトラックを襲撃してタバコを奪い、それを横流しするという、セコい事をやっていたわけですけども、トラックの運転手には事前に「襲撃するからよろしく」と連絡をし、トラック業界そのものもマフィアが押さえているので、荷物がなくなっても問題視せず、警官もちゃんと買収されているという、なんだか、どこかの国で長期政権を担当している政党に余りにも似ている、丸ごとの腐敗ぶりが見えてくるんですが(笑)、旅客機が運ぶ大金を強奪する時は、なんでそんなアホみたいな奴を仲間に入れるの?という、初めから死亡フラグがビンビンに立っている人が犯行グループにいるんですよね(笑)


ココから、仲間を次々と殺害して証拠の隠滅に向かうわけですが、別件の麻薬密売も、結局、ホントにつまらないところから決定な証拠が出てきて、ヘンリーは逮捕してされます(笑)


『キラーズ〜』でも、レオナルド・ディカプリオが雇った殺人実行犯が余りにもアホで、そこからとんでもない犯罪が芋蔓式に明るみになるという構図が実は同じなんでね。


まあ、何と言いますかコレも某国の(以下省略)。


どうして人間というものは、過去から学ぼうとしないのか。というお話しでございました。必見。

 

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