川島雄三『イチかバチか』
本作の公開前に亡くなった川島雄三。享年45歳。
川島雄三の遺作にして、なんと社会派。
本作の公開の直前に自宅で急死してしまいました。
もともと、難病のALSを抱えながら映画監督をしていたんですよね。
しかし、そういうものを微塵も感じさせないバイタリティを遺作に於いても封じ込める事に成功しており、決して長生きとは言えませんが、川島雄三の監督人生は、多くの傑作を残す事ができ、幸福だったのではないでしょうか。
本作は主役が前半と後半では交代してしまいます。
ココが相変わらず斬新ですよね(笑)
前半は大阪出身で裸一貫で製鉄会社を作り上げた、伴淳三郎。
後半は愛知県の架空の小都市の市長のハナ肇です。
めちゃ面白いコメディアンが主演を交代するという、コレまたおかしい。
だいたいにして、東北弁のイントネーションが生涯抜ける事のなかった伴淳三郎に大阪人の役をやらせているのがどう考えても無茶なのですが(笑)、前半のおかしさはこの社長のドケチぶりを、伴淳三が強引にヘッドハンティングして側近にしてしまう、高島忠夫(お若い方は知らないかもですか、俳優の高島兄弟のお父さんです。議題の気配り精神と関西の富裕層出身という、物腰の柔らかさを活かした司会業か成功してしまい、司会業がメインになってしまいました。ホントは大変歌やダンスの上手い方でした)の目を通しての、伴淳三郎の「ドケチのセオリー」を垣間見るというお話です。
後半はの伴淳が計画する製鉄所の移転計画をいち早く察知した市長のハナ肇の強引な勧誘となぜそこまでして頑張るの?が明らかになっていきます。
とにかくですね、本作の見どころは、当時、東映、そして、渡辺プロの大スターであったクレイジーキャッツのリーダーたるハナ肇の圧倒的な存在感ですよね。
ある意味、お笑い世界の世代交代にもなっているとも言えます。
伴淳は本作から2年後の1965年に、内田吐夢監督の『飢餓海峡』で、函館の刑事役で、見事な演技を披露し、シリアス路線を見出しましたが、もしかすると、ココでのハナの凄まじさに、自らがお笑いとしてはオールドスクールになっている事を痛感させられたのかもしれません。
その意味で本作は結構残酷なモノが刻印されてしまっている側面があるのですが、そういうモノを吹き飛ばしてしまうほどハナ肇が素晴らしいです。
クレイジーで活動しつつ、ハナは単独で山田洋次作品の主演をつとめたりするようになっていくのですが、本作は案外そういう契機になった作品なのかもしれません。
また、前半と後半ではテイストがガラッと変わってしまい、なんと、架空の小都市である「東三市」の市議会の利権問題がクローズアップされてくる、実は多くの自治体に今でもギロギロと存在する、利権の構造を食い破らんがために孤軍奮闘する市長のハナという構図になっていき、ラストはドタバタしつつも一挙にシリアスなテイストに持っていくのですが、しかしながら、川島雄三はダンディズムの人なので、呆気ないほどにスパッと終わらせてしまいます。
ココから先は現実の政治問題としてやってくだいネ。という川島監督一流のダンディズムでありましょう。
このような登場人物も多く。錯綜したドラマを90分で仕上げてしまう川島雄三は最後まで素晴らしい監督でしたね。
最近、ようやくDVDになりましたので、容易に見ることができるようになりました。
また、川島雄三は根強い人気がありますから、名画座で上映してくれるかもしれませんので、それを待つのも手でしょう。
使える画像がほとんど転がってるないので、殺風景になってしまい、スンマソン!