川島雄三の余りにも早すぎた怪作!必見!

川島雄三『グラマ島の誘惑』

 


噂にはすごいと聞いてましたが、ここまですごい作品だったとは。というのが、見終わった後の率直な感想です。


1959年にこんなものすごい映画を撮っていた、川島雄三には、改めて畏敬の念を持ちましたね。


皇族の将校か乗っている軍船が故障のために、太平洋上の島、グラマ島に漂着したのですが、事もあろうに、彼らとその部下、従軍慰安婦、戦死未亡人、従軍記者を残して、兵士たちが軍船で島を脱出してしまいました。


しかも、その船はアメリカの戦闘機に撃沈されてしまい、彼ら彼女らはグラマ島に完全に取り残され、日本に帰る術を失ってしまった。という、ほとんどSFのような極端な設定なんですね(笑)


しかも、この皇族の兄弟が森繁久彌フランキー堺なんですよ(笑)

 

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グラマ島に取り残された2人の皇族。

 


『社長シリーズ』の面白い2人なんですよね。


まあ、悪い映画ですよ、どう考えても(笑)


兄弟の部下が桂小金治ですしね(笑)


当然の如く、ハッキリとは示されませんけども、森繁久彌演じる香椎宮為久は、恐らく、昭和天皇の仕種をかなりマネしているように思います。


見ていてハラハラしますね、ホントに(笑)


弟の為永は比較的マトモな思考の持ち主ですが、兄ともども浮世離れしているのは同じです。


コレだけでも現在はBS,CS等でも放映が困難なのですけども、更に困難にさせるのは、従軍慰安婦に沖縄出身者がおり、しかも、知的障害がある役なんですね。


コレを、なんと、宮城まり子が演じていますね。

 

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白黒でスンマソン!宣材用の写真ですね。

 


彼女は敬虔なクリスチャンとして、大変な人気がありながら、1960年代末には芸能活動を一切辞めてしまい、「ねむの木学園」の創立、運営に生涯を捧げた人です。


また、お話の途中でグラマ島の原住民と称する男が出てくるですが、コレを三橋美智也が演じてまして、まあ、要するに、アダモちゃんなんですね。

 

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まさか、三橋美智也が「アダモちゃん」とは。。

 


という、二重にも三重にも物議を醸しすぎる設定は今日ではテレビでの放映はほぼ不可能であると思います。


しかし、コレが『鬼滅の刃』のケタ外れの大ヒットによって、東宝に大変な収益が入ったためなのでしょう、東宝が入手困難だったり、初DVD化のソフトをかなり発売してくれまして、その中に本作があったんですね。


よって、ようやく、容易に見ることが可能となったんです。


さて。


この、女性だらけとなった島なのですが、森繁親王は、いつものライフスタイルを一向に変える事なく、慰安婦たちを召使いにしてこき使うんですね。

 

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それを本人はなんとも思わない。

 

しかも、事もあろうに子供まで作ってしまうんですね(笑)。


もうギリギリですよ、コレは。


従軍記者の2人は、何の疑いもなく皇族よ2人を給仕する姿をおかしいと思い、一切関与しようとしません。


慰安婦の1人を演じる、轟夕起子(!)が、帝国軍人のマチズモ剥き出しのキャラである、桂小金治と同棲生活のような事をしたり、非常に歪な社会が形成されていくのを、あえてリアリティ薄いコメディタッチで描いているのが、かえって異様でして、今村昌平『神々の深き欲望』の先駆のようなものを見ているような感じですね。


また、戦争未亡人役が八千草薫であるのも唖然としますね(笑)


しかし、本作はこういうブラックユーもたっぷりな島の生活を、描く事に主眼があるのではなく、問題は後半なのです。


どう森繁やフランキーたちが生還したのかの説明は一切省きますが、この作品は、戦後、すなわち、この映画が撮られた1959年の現在を描いているところに実は核心があります。


当時は米ソの冷戦が、核兵器の開発競争という、不毛な方向に発展し、それはやがて、「キューバ危機」にまで発展してしまうのですが(コレが21世紀になっても未だに続くアメリカのキューバへの敵視政策の原因です)、日本においても、1954年にアメリカ軍の太平洋上での水爆実験の際に、遠洋マグロ漁のために出港していた、第五福竜丸の乗組員が知らずに水爆実験によって生じた放射線を大量に浴びてしまったという事件がありました外交問題にまで発展しましたが(アメリカ政府は賠償金を払った事で一切の責任を負わない事を日本政府と合意しました)。


本多猪四郎ゴジラ』が制作された背景ともなった、第五福竜丸事件ですが、川島雄三もまた、この事件を踏まえて本作を作ったと思われます。

 

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言わずと知れた、『ゴジ』の第1作です。

 


スタンリー・キューブリックの凍りつくような傑作、『博士の異常な愛情』が公開されたのが1964年ですけども、それよりも5年前に、こんな破壊力満点の映画を作っていた川島雄三は、やはり、恐るべき監督と言えます。

 

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