川島雄三の大傑作!必見です!!
川島雄三『喜劇とんかつ一代』
タイトルの豚のドアップからしてもう面白いです!
いやー、コレはもう最高でした!
平凡なタイトルからは想像もつかないような大傑作です。
登場人物の人間関係がやたらと複雑ですが、見ていてそれで訳がわからなくなってはきません。
近いものを言うと、ジャン・ルノワール『ゲームの規則』とかロバート・オルトトマン『M⭐︎A⭐︎S⭐︎H』みたいに登場人物が多くてせわしないドタバタ喜劇です。
川島雄三というと、『幕末太陽伝』がつとに有名で、コレも登場人物がとても多い、ドタバタ喜劇ですが、こちらは居直り佐平次を演じるフランキー堺の驚異的なバイタリティ(しかし、彼は結核を患っているという設定です)であり、彼が物語を掻き回す中心になります。
それ故に物語として、整理されやすいですし、今見てもすごいテンポですけども、見やすいです。
が、本作は一応主役はとんかつ屋「とんQ」の主人を演じる森繁久彌だと思いますが、彼を中心に見た、登場人物たちの複雑な人間関係がこのお話の面白さになっているので、文章にするとどうしても煩わしいですが、少々お付き合いを。
コレを事前に読んでおくと、映画が見やすくなりますので(笑)。
「とんQ」の主人、森繁久彌は、上野動物園の近くにあるフランス料理店「青龍軒」(上野精養軒をもじったギャグでしょうが、フランス料理店というよりは中華料理店なのがすでにおかしいです・(笑))のシェフを演じる加東大介が、いずれシェフを継がせようとしているほど腕のある料理人でしたが、ある事を理由に店を辞め、とんかつ屋を開業します。
スティールでスンマソン!森繁久彌、淡島千景、芸者役の水谷八重子(メロンという名前です・笑)
更に厄介な事に、淡島千景演じる奥さんは加東大介の妹なんです。
で、この家に転がり込んでいるのが、加東大介の息子のフランキーのなのですが、彼はフランス料理をやるのがイヤで3年前に家を飛び出しています。
フランキーには恋人がいまして、コレが団令子なのですが、彼の父親は森繁久彌のとんかつ屋さんに豚肉を精肉し、卸している業者なんです(山茶花究が演じてるいます)。
スティールですが、メインキャストがズラッと出ているので、お得なスティールです!
コレ以外にも、フランキー堺の母違いの兄が三木のり平(クロレラ研究をしてます)、日本文化を研究している(?)フランス人を岡田真澄、フランキー界が上手いこと秘書になった不動産会社の社長の増田喜頓などなど、とにかく可笑しいひとつばかりが出てくるんですね(笑)
クロレラ研究を自宅で行う、三木のり平。1964東京大会の前なんですね(笑)
で、昔の日本映画がお好きなだと、このキャスティング、森繁久彌主演の『社長シリーズ』のメインキャストがかなり重複してますよね?
本作を制作したのは、東京映画という、東宝の子会社でして、実は、『社長シリーズ』を作っていたのは、この会社でした。
なので、本作のキャスティングがかなり重複しているんです。
と、前置きが相当長くてなってしまいましたが(笑)、この社長シリーズのメインキャストをうまく流用して、川島雄三は、完全に自分の世界に作り変えてしまったのが、本作であり、川島の代表作の一つと言っても大袈裟ではない傑作です。
という事は映画史に残る作品なんですよね。
冒頭の「豚供養」からして、もうおかしく、森繁久彌と加東大介の頑固くらべ、フランキー堺の、植木等とも違う巧みな世渡り、三木のり平のクロレラを初めとする奇天烈な発明を使ったギャグなどなど、とにかく、ノンストップで展開する、現代の『フィガロの結婚』とも言えるお話です。
ホントにあるのかどうか知りませんが、冒頭の豚供養のシーンで森繁と加東の確執が明らかにされます。
私、見ていてつくづく思うのは、コメディというのは、ホントに難しいと思うんです。
東宝のゴジラや若大将と並ぶドル箱シリーズであった、『社長シリーズ』は、現在の私にはちょっとたタルいんです。
同時に、子供の頃に衝撃を受けまくっていた、フジテレビの伝説的な番組『オレたち!ひょうきん族』の面白さを、現在の若い人に伝えるのは、とても難しいと思います。
総じてフジテレビのお笑い番組は、時代との結びつきが強すぎて、10年経つともうくすんだような感じになり、当時に感じたキレはもうないんですね。
コレは『社長シリーズ』にも同じ事が言えるのでしょうが、こちらは、ノスタルジーで見ることができる側面があります。
川島雄三作品は当時の風俗をふんだん入っているのですが(川島は大変な新しもの好きでした)、そういう部分はやはりくすんで見えますけども、肝心の話しや演出が今もってものすごいスピードとパワーを感じてしまいます。
コレは川島が、時代と寝ていない。という事を意味するのだと思います。
結婚狂想曲と頑固オヤジの意地の張り合い。というのは、古今東西どこにでもあり、恐らくは人類の歴史というのは、この2つでできているのではないかとすら言えるわけですが(笑)、ココを話の骨格にシッカリとすえ、それを映画を見る人が混乱しないギリギリのBPMと編集を設定して見せる。という方針が明確なのだと思います。
森繁、加東、淡島の確執と意地の張り合いが話しをややこしくしております。
こういう事は作風はまるで違いますけども、エルンスト・ルビッチやビリー・ワイルダーにも言えるでしょう。
兎にも角にも、全盛期を迎えての突然の死は余りにも残念ですが、遺された作品群は異様なまでに充実している、川島雄三の最後から2番目のタフガキならぬ傑作を是非ともご覧ください!
ラストはいい感じで全部丸くおさまり、ミュージカルになって終わります!ギャフン!