レミ・シャイエ『カラミテイ』
コレは驚きました!
とにかく、何の予備知識もなしに映画館に行くことをオススメしたい。
なので、見たい人はコレは見てから読んでくださいね。
いいですかな?
では、続けます。
フランスとデンマークの合作映画の西部劇しかも、アニメ作品。というもので、まず、コレがハードル高いです。
日本人はジブリがディズニーしか、デカい興行収入はないものと決めこんでいるフシがあり、この映画の宣伝も、あんまり頑張ってませんし、東京都ですら公開している映画館が少ないですね。
いやいや。
この作品、めちゃくちゃ、西部劇なんですよね。
本場のアメリカ以上、そして、実写作品以上に西部劇でして、ストーリーにフレンチなアレンジはむしろないです。
が、絵作りがたまげるんです。
日本のアニメの美学である、ドンドン背景も作画も動画めちゃ細かくなっていくという、マキシマミズムを線画で追求していく美学と完全に真逆でして、まず、線が人物にも背景もにもなくて、色による境界のみで表現するんです。
この空気や雰囲気までもを掴み取る映像美!
昔、プレイステーションのゲームで『パラッパラッパー』というのがありましたけども、あれがもっと精工でリアリズムになったようなデザインなんですね。
この日本人好みではない絵作りが、難関かもですねえ。
しかしですね、この映画の背景の、ほとんどポスト印象派の、アンリ・ルソーとかの影響を受けた色使いで、アメリカの中西部の大平原の広大さと澄み切った空気感を表現している場面をワンシーンでも見たら、間違えなく圧倒されるでしょうね。
全編西部劇を実写で見ているような構図!アニメ見ている事を忘れてしまいます。
とにかく、全シーンが絵画のように美しく、ほとんど実写のキャメラワークと構図でアニメーションが進行しているいくのには、正直、度肝を抜かれました。
フランスのアニメーションの技師は、もう、とんでもない水準です。
やっぱりですね、19-20世紀にかけての絵画の積み重ねがフランスのアート、ファッション、デザイン、そして、映画に遺憾なく発揮されていて、そのセンスは未だに世界のトップクラスなんですなあ。
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の絵も驚くべきものがありますが、センス・オブ・ワンダーが違うんですよねえ。。
テレンス・マリックの奇跡の傑作『天国の日々』の美しさと言ったら、映画史に残るものですが、それをちょっと思い起こさせる驚異的な美しさなんですけども、もっと驚くのは、先ほどの手法で描かれたアニメーションが実に絶妙にマッチしているんですね。
キャラクターと背景がここまで見事に溶け合っている作品は、ちょっと思いつかないですね。
さて。
肝心のお話しですが、コレがまた良くできてまして。
まず、主人公の選び方が絶妙ですね。
19世紀中頃から20世紀初頭に実在した、「カラミティ・ジェーン」と呼ばれた女性のお話しでして、ワイアット・アープやビリー・ザ・キッドほどの西部劇の大スターとして使われてはいないのですが、ハリウッド映画でも何回か登場してくるようなキャラクターなんです。
お父さんが大怪我をしてしまう事が、「カラミティ」を生み出す原因となります。
なぜ、彼女か有名なのかと言いますと、晩年に自伝を書いて出版し、一般にかなり流布したところが大きいんですが、この自伝は大変問題がありまして、後で色々な研究者が事実関係を調べていきますと、相当なホラ話しとものすごく話しを盛っていたり、事実関係が明らかにおかしかったりするところが満載でして(笑)、実像がよくわからない人ではあるんですね。
コレが実在のカラミティー・ジェインこと、マーサ・ジェイン・キャナリ。
そういうところが、日本の講談で有名な河内山宗俊なんかに似てます。
河内山宗俊も、江戸時代の家斉の時代に実在した、江戸城に勤務していた人物で、かなりの悪党だったようなのですけも、逮捕されて裁判を受ける前に死んでしまった事で、後の人々が勝手な妄想を膨らませて、いつの間にか、義賊みたいな人物に改変されてしまいました。
天才山中貞雄の現存する作品に『河内山宗俊』がありますが、コレも講談の内容に基づいた映画で、大変な傑作です。
この映画は、アニメーションという事で、見る対象が小学校高学年くらいを想定した作りですので、カラミテイ・ジェーンの年齢が12歳くらいになっているんですね。
つまり、「カラミテイ・ジェーンはいかにして誕生したのか?」という映画になっているところが巧みであり、大人が見ても全く遜色ないというか、些かも子ども騙しな所が一切ないところに、私は監督や制作スタッフの志の高さを感じました。
できるだけ映画館でご覧になる事をオススメします。