前作と合わせて一作の頓知バイオレンスホラー!

ロド・サヤゲス『Don’t Breathe 2』


高畑勲の伝説的名作、『アルプスの少女ハイジ』(以下、『ハイジ』)のとりわけ第一部とも言える「アルムおんじ編」は、メインキャラクターが、主人公のハイジ、そして祖父のアルムおんじ、羊飼いのペーターしかいない、極端にミニマルな作品でした。

 

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本作の主人公となぜか共通の多い、アルムおんじ。


高畑監督は、さすがに、これで一話約は25分のアニメがもたないと思い、おんじの飼っているセント・バーナードのヨーゼフ、子やぎのゆきちゃん、小鳥のピッチーという動物を巧みに使ってましたが、それでも大変なミニマリズムです。


実はですね、この続編の冒頭は見事なまでに『ハイジ』なんですよ。


舞台はまたしてもスッカリ荒廃しきったデトロイト


100万ドルをかっぱらわれた、元ネイヴィー・シールズの盲目のじいさん、愛犬シャドウ、そして、なぜか女の子と暮らしています。

 

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フェニックスという少女は一体何者なのか。

 


周囲には人が住んでおらず、ほぼゴーストタウンであり、隔絶した生活をしています(厳密に言うと女の子はそうでないですが)。

 

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「盲目のボルボ西郷」は奇妙ながらも幸せな生活をしておりました。


家族構成がハイジと全く同じであり、じいさんには過去に何やらいわくありげ。


しかも、じいさんが学校教育を拒絶しているのも同じです。


『ハイジ』では、山の下にある、デルフリ村の牧師がおんじの不信心ぶりとハイジを学校に行かせようとしない事を心配して、ワザワザ山の上までやって来て、おんじは渋々ハイジをペーターも行っている学校に行かせるようになります。


実は、実際のアメリカでも、義務教育を拒絶している人々はわずかですが、数パーセントいるようなんです。


その理由のほとんどは、学校教育では聖書に基づかない教育を行なっているから。というものでして、つまり、そのほとんどが宗教保守の人々なんですね。


ここまで徹底した宗教保守はアメリカでもさすがに少数派ですが、宗教保守が白人の中に結構多い事は、ブッシュJr.政権(2001-2009)、トランプ政権(2017-2021)(ともに共和党)が証明していますよね。


『ハイジ』では、宗教の問題は意識的に避けており、本作でもその問題は出てきませんけども、外観上、宗教保守の生活や価値観とほぼ同じであり、恐らく、意図的にそのようなシチュエーションを作っているのではないかと思います。


とですね、ロド・サヤゲスとフェデ・アルバレス(第1作目の監督です)が果たして『ハイジ』を意識して脚本を書いたのかは定かではありませんが(笑)、本作の序盤は、「デトロイトおんじ」(笑)と女の子、わんこの「幸せな生活」が展開していくんですね。


しかし、前作見た人はおかしいと思うわけです。


アレッ?なんなのこの子は?


デトロイトおんじには、家族なんていたっけ?というか、家族が欲しくて相当無茶な事をしていなかったっけ?という素朴な疑問が湧き起こります。


で、この素朴な疑問がこの話のテーマであり、この映画の特徴ですが、一挙にお話しのテイストがかなりドギツいバイオレンス映画に変貌します。

 

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前作は、アホなティーンたちがデトロイトおんじの実態を知らずに空き巣として侵入してしまった事で、酷い目に遭ってしまうという、これまた、実は襲撃した方が被害者になっていくという、劇的な価値観のひっくり返しが面白い作品でしたが、今回も、そこが見せ所です。

 

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盲目のジョン・マクレーンでもありますね!

 


主人公は怪物的に強いじいさんであり、それは本作でも全く変わりませんけども、盲目であるという事が、前作は襲撃する若者たちにむしろディスアドバンテージになっていましたが、今回は主人公が不意にガチ襲撃を受けますので(なぜ襲撃されるのかは、映画館で!)、盲目である事の不利がむしろ全面に出てきまして、立場がここでも逆転していて、前作と本作がちょうど鏡のような関係になっているのも、脚本の書いている2人がそれぞれ監督しているという、あり方からも伺えます。


ただ、デトロイトおんじが怪物的に強い事だけを見せてしまうと、『座頭市』のようになってしまいまして、コレはコレで面白い訳ですが、盲目で相手を銃撃できるというのは、一体どういう事なのか、そして、それはどうやって可能なのか?に非常にこだわって描いているのは、アクションというものをまた新しく更新しているのだと思います。


続編にありがちな、製作費を5倍にしました!的な見せ方を一切しないのも見事です。

 


恐らく、更に続編が制作されるものと思いますが、また、新しい映画的な快楽を開拓してくれる事を期待します!

 

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彼に真の幸せは訪れるのでしょうか。