座頭市シリーズ史上、最も凄惨な傑作!

勝新太郎『新座頭市物語 折れた杖』

 

 

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『顔役』に続き、勝新太郎が監督、主演した、おなじみ座頭市


『顔役』のあまりの凝りっぷり、ナチュラルな壊れっぷり(故に愛さざるを得ないのですが)への酷評に反省したのか(?)、勝新太郎最大の当たり役である座頭市に取り組みました。


結論から言えば、ココでの評価が高く、フジテレビでのテレビドラマ版座頭市シリーズが制作させるキッカケとなった作品であり、要するに成功作です。


さすがに自身が苦心して作り上げたキャラクターを破壊するほど勝は愚かではなく、彼もともと全体の枠組みがしっかりとした作品ですので『顔役』ほどの無茶がないです。


しかし、その安定された土台を基に勝新太郎は何をしているのか?という事なのですが、大映でのシリーズでは抑えられているバイオレンスの凄さとヤクザが支配している下総の漁村の凄惨さが描かれています。


多分ですが、直接の影響はマカロニ・ウェスタンなのでしょうけども、セルジオ・レオーネなのか何なのかはよくわかりませんが、映画館で勝新は見て思ったのでしょう、自身の座頭市は生温いと。


とは言え、座頭市大映の鉄板プログラム・ピクチャーなのであり、勝のやりたいた放題の方向に持っていく事は不可能です。


しかし、勝プロダクションとして大映から独立して作られた座頭市は、まさに「オレの座頭市」であり、タイトルからわかるように、第1作の設定に戻し、パラレルワールド、すなわち、リブート版座頭市です。


なんと言っても冒頭の絶望感からしてすごいです。


ボロボロの釣り橋を渡っている市を見上げるような特異なショットで始まるのですが、その橋を三味線を弾きながら渡るおばあさんがいるんです(そんな橋を盲人が渡っているのも、三味線弾きながら渡るのもいずれも奇妙なのですが)。


市は「三味線の音はいいですね」と橋をすれ違う直前に言います。


おばあさんは「按摩さん。もしよければコレを」とお金を渡そうと市に手を伸ばした瞬間、画面からスッと消えます。

 

何が起きたのかというと、おばあさんは足を踏み外してしまったんですね。


で、橋にしがみついているショットになります。


しかし、市は盲目ですから、助ける事ができません。

 

おばあさんは転落死します。

 

座頭市シリーズの市はどんどん超人的なキャラクターになっていきましたが、本作はそれを敢えてリセットし、彼がハンディキャップを持っている事を、かなり残酷ですが、衝撃的な表現で観客に見せます。


そして、コレが今回の事件に巻き込まれていくキッカケにもなっているんですね。

 

このおばあさんの三味線が偶然橋の上に残り、結果として、市は遺言と遺品の両方を得てしまい、おばあさんの断片的な話と三味線を頼りに娘を探す事になるんです。

 

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で、やってきた漁師町がなんとも凄惨でして、悪逆非道なやくざの支配に耐えかねて首を吊って死んでいる男を発見した人々の悲鳴が聞こえるようなところなんですよ(笑)。


その悲鳴にあわせてタイトルがバーンと出てきてですね、もう救いがなさすぎなのですね(笑)。


あまりにも酷すぎて笑ってしまうほどです。


しかし、このゲットーのどうしようもなさ、市が盲目であるという事のハンディキャップを本作ほど容赦なく描いた作品はちょっと見当たりません。


座頭市の筋書きは、ご覧になっている方にはもうおわかりだと思いますが、この極悪なヤクザと市が戦う展開にになっていくわけですけども、このヤクザたちの描写のドギツさですよね。


市が盲目である事をヤクザたちが揶揄する場面は大映版でもしばしば描かれるのですが、せいぜい、「この按摩!」というくらいなんですよ。


しかし、この作品ではゲットーのダーティダズンまんまに「めくら!」を連発してます。

 

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小池朝雄の面目躍如たる非道な親分。テレビドラマ版でも何度も悪役で出演してます。

 


ラスボスの小池朝雄などは、「この、どメクラが!」とすら言ってます。


とにかく、エゲツなさが尋常ではありません。


それは、極悪一家を市が全滅させても(座頭市はほぼコレで終わるので、ネタバレではありません)、何のカタルシスも得られないほどで、市は一体何のためにこんな事をやっているかすらだんだんと判然としなくなってきます。


その凄さは、サイレント期の阪東妻三郎主演の大傑作『雄呂血』のラストシーンすら彷彿とさせます。

 

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ここまで狂気じみた座頭市はないのでは。


この狂気すら感じる異様さは全作の中でも抜きん出ていると思います。


映画俳優としての勝新太郎の最高傑作は、間違いなくコレだと思います。


勝新太郎の凄さを知るにはまずは本作をご覧になる事をオススメします。

 

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マカロニ・ウェスタンすら超えてしまったのかもしれません。