大林宣彦『さびしんぼう』
まさに大林作品にとってのジャン=ピエール・レオーである、尾美としのり。
なんと、1人4役の富田靖子。
主人公尾美としのりは、明らかに大林宣彦自身の分身でありますが(アントワーヌ・ドワネルですよね)、舞台こそ彼の故郷である尾道ですけども、彼の生きた時代ではなく、あくまでも現代にしています。
現在も名脇役として活躍する(宮藤官九郎脚本のドラマ、『あまちゃん』や『監獄のお姫様』でもいい味を出してました)、尾美が高校生役なのですから、もうこの映画も随分昔の映画になってしまった事に驚きますが、まるでキャメラと音楽が踊っているような大林演出は余りにもうまくて、真底驚きますね。
おバカな男の子たちを撮らせても天下一品!
ファンタジーというものの本質を掴んでいるので、どんなに飛び跳ねても揺らがないものがあります。
佐校長室のオウムの「雨にも負けず」をマッシュアップするおかしさ、浦辺粂子のとぼけた味わいなどなど、所々に配置されるギャグとともに大林監督の暖かい目線がいいですね。
佐藤允が校長先生なのも(笑)。
本作のお約束となるシーン。
当時、フジカラーのCMに出ていた樹木希林をお正月のシーンに使ったり、その娘役の小林聡子とのからみで、尾美としのりが階段から転げそうになったりするシーンはちょっとニヤリとさせられます(『転校生』の階段から2人が転げ落ちるシーンを踏まえているわけです)。
まさかフジカラーのCMのパロディ。
「さびしんぼう」を演じる富田靖子の圧倒的な可愛らしさと天真爛漫さは、本作を切ないファンタジーにするのに貢献しています。
チャップリンのような、フェリーニ『道』のジェルソミーナのような存在の「さびしんぼう」の素晴らしさ。
富田は近所の女子高生役も演じています。
これ以降、富田は今ひとつパッとしませんが、故に本作が光り輝くのです。
この「さびしんぼう」とは一体何なのかは見てのお楽しみですが、大林監督は、「恋をすると誰しも『さびしんぼう』である」といっている哲学を具現化した存在です。
父親役の小林稔侍がいい味を出してます。
ショパンの「別れの曲」がシツコイぐらいいろんな変奏で使われるのもうまいですねえ。
とにかく前半のコミカル、後半の切なさが一挙に進んでいくうまさには舌を巻きました。
未だに創作意欲が衰える事を知らない大林宣彦の美しい青春映画です。
大林ファンタジーの1つの到達点でしょう。