市川崑『犬神家の一族』
『エヴァンゲリオン』でも使われた、おなじみの文字組みです。
コレほど、もうすっかり見た気になってしまう古典は現在ないでしょうね(古典というのは、そういうモンですけど)。
しかし、実際に見てみると、あのスケキヨ。と認知されている、あの不気味なマスクをした男は、実はスケキヨではない(正確にはスケキヨであったりなかったりしている)事がわかったり、猿蔵と珠世の関係が、その後、富野由悠季『ザブングル』のファットマンとエルチにそのまんま引用されているとか、戦争のドサクサで巨万の富を築いた、かなりロクでもない一族であった事などなど(あと、あの『エヴァンゲリオン』にそのまんま引用された有名な遺体発見シーンなどなど)、やはり、発見も多く、日本のさまざまなカルチャーに引用されまくった、日本映画の金字塔ですね。
『ゴールデンカムイ』の「頭巾ちゃん」こと、ヴァシリーは、明らかに「スケキヨ」から着想を得ています(映画を見ないと、コレは分からないですが)。
説明不要の引用ですね。
意外と指摘されていない、珠世、猿蔵とエルチ、ファットマン。
この出立ちは、後の金田一耕助を決定づけました。石坂浩二もTBSのスターから映画スターになりました。
古典的名作。とされる映画はたくさんありますけども、後世の引用度の高さ、見てないのにあたかも見た気になってしまう感の高さから言えば、黒澤明や溝口健二、小津安二郎という日本映画の三傑を遥かに超えるポップさをたたえており、その点において、リドリー・スコット『ブレードランナー』と並ぶ現在における古典の双璧かもしれません。
市川崑は、1960年代に大映に於いて文芸の傑作を次々と撮りまくり、増村保造と並ぶ大映の看板でしたが、経営の悪化に伴い大映は1971年に倒産し、市川監督もフリーランスとなります。
ありし日の市川崑。
そんな彼の一大方針転換となったのが、本作ですね。
犬神家の遺産をめぐる連続殺人事件は、グッチ家の転落を描いた『ハウス・オブ・グッチ』よりも遥かにゲスで(笑)、ベタなまでに醜く、そして何より面白いです。
犬神佐兵衛の莫大な遺産の相続は、特異なものであった!
犬神家の人々!
市川監督は、あの華麗なテクニックを駆使し、エンタメ作品を嬉々として作っている事が伝わってきます。
東宝の監督時代は、『プーサン』などの喜劇を撮ることを得意としていたので、フットワークが軽い監督でしたから、横溝正史の映画化は、本人もノリノリだったと思われ、それは映像からも伝わってきます。
この大成功が、角川春樹、そして、角川映画を世に知らしめられることとなり、クビをかしげるような珍作もありながらも、市川崑はこの金田一耕助シリーズの映画を撮る事となり、大林宣彦、相米慎二などに自由に作品を撮らせる事にもなりました。
また、横溝正史の小説が再び脚光を浴びる事となり、再び執筆活動を活発にさせるキッカケともなったんですね。
その後、リメイクが何度も作られますが(なんと、市川崑自らも石坂浩二主演でリメイクを撮っています)、やはり、本作が決定的です。
大野雄二の音楽も大変素晴らしいですね。