全然作風が違うんで驚きました。

エリック・ロメール『獅子座』

 

ロメールの長編第1作。

 

日本での商業公開は1990年。

日仏学院がフィルムを所有していて、時折公開していたようです。

にしても、幻に近い作品であったのは間違いありません。

他のヌーヴェル・ヴァーグ作品のように商業的に成功しなかったため、ロメールはしばらく苦境に陥り、なかなか長編が作れなくなりました(短編は作ってました)。

この辺が、ゴダールトリュフォー、マルたちとちょっと違いますね。

主人公のピエールは、伯母さんが亡くなって、工場やら農場やら、莫大な財産を相続する事になりました。

 

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友人のジャン=フランソワが仕事で世界じゅうを出張してしまっているのも不幸の始まり。

 

後のロメール作品と比べてなんともギラギラと生々しい展開です。

白黒映像が素晴らしいですね。

画面の雰囲気が後の作品と比べても若々しく、アクティブですね。

音楽はベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番を執拗に、あたかもサンプリングをループするように使っていて、ちょっと挑発的です。

 

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職探しをするけれども。 。

 

こういう所は、後に名声を得るようになってからのロメールからはほとんどなくなってしまいました。

恐らくは商業的な失敗によっていろいろ考え直すところがあったのでしょうけども、それは監督ロメールにはプラスだったと思われます。

ピエールはヘタクソなヴァイオリンを弾き、ライフルを唐突にぶっ放したり、パッと見るとゴダール作品のようなやんちゃなシーンが多く、まるで、無邪気に遊んでいるようですね。

突然、億万長者となって、有頂天です。

が、実際の遺言では、従兄に遺産が全て相続され、彼には全くお金は入ってこず、一挙に困窮することに。

 

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後のロメール作品を見ると、ヌーヴェル・ヴァーグ出身というのは、あんまり見えてこず、あくまで自分の世界を探求している人に見えますが、本作を見ると、たしかに彼はヌーヴェル・ヴァーグ出身です。

○月○日。とストーリーの時間軸を挿入するのは、すでに本作で見えますね。

6月22日から8月22日までのピエールが零落していく顛末を描いているのですが、こういう題材自体が後の作風とはまるで違います。

ろくすっぽ働かず、自称音楽家なんぞをしているからこうなるわけですが(笑)、流石のピエールも職に就こうとしますが、みなヴァカンス中で不在だったりします。

とことんついてない様子です。

このピエールを一定の距離を保ちながら淡々と撮り続けます。

ヴァカンスを楽しむ側を描いていくのがロメールなのですが、零落して、だんだん風貌もホームレスになっていく男を描くというのは、なかなかエグいです。

しかも、サントラが無伴奏ヴァイオリンのみ!

しかし、そんな彼の運命が!

というところまでにしておきましょう。

まだまだ監督としては粗っぽく素人っぽいですが(ヌーヴェル・ヴァーグの監督は現場で鍛え上げたような経験が乏しい人ばかりなのですが)、やはり才能の片鱗を感じさせる作品でした。

 

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