フィリップ・ド・ブロカ『まぼろしの市街戦』
1966年に発表された、フランス映画史に残る怪作/快作。
なんという美しいくカラー撮影、美術!
そして、ラストシーンのとてつもないアイロニーと反骨精神。
イギリス軍に追いまくられて敗走するドイツ軍は、フランスの小さな町にありったけの爆薬を残して、イギリス軍が占領した頃に大爆発するような仕掛けを作って逃げ出します。
この事を知った住民は、慌てて逃げ出すのですが、住民の一人がイギリスへの内通活動をしていて、そのことをモールス信号で送っている途中でドイツ軍に見つかり、射殺されてしまいます。
イギリス軍の指揮官は、フランス語に堪能な通信兵のブランピックに街に潜入させ、爆破を解除する事を命令します。
アラン・ベイツ演じる、ブランピック伍長は、奇妙な町に潜入する事となります。
住民が逃げ出してしまった町に取り残されている精神病院の患者たち(後でわかりますが、自分たちの意思で町に残っています)が町に飛び出して、それぞれが床屋、将軍、司教、公爵、売春婦などなどにコスプレして、非現実な空間を作り出して楽しんでいました。
イノセントでピースフルに振舞う精神疾患者たちですが。
そんな事を知らないブランピックは、彼ら彼女らに「ハートのキング」として祭り上げられ、即位
即位式やら何からかにやらという、祝祭に飲み込まれてしまい、肝心の大爆発の解除ができなくなってしまうんですね。
そんな事を知らないブランピックは、彼ら彼女らに「ハートのキング」として祭り上げられ、即位式やら何からかにやらという、祝祭に飲み込まれてしまい、肝心の大爆発の解除ができなくなってしまうんですね。
ここまでが、本作の前段階です。
この爆弾が大爆発するまで。と、『うる星やつら』の友引高校の面々のような乱痴気騒ぎが続くのですけども、ブランピックは、この精神疾患者たちに愛着が出てきてしまい、なんとか全員を救いたいという思いとなっていくのですが、さて。
ブランピックはよく気絶します(笑)。
ここから先は是非とも実際に見ていただきたいのですが、その、精神疾患者たちが町を占領してカーニバル状態(決してアナーキーに振舞うことはなく、どこまでもピースフルに楽しんでいる点はとても重要です)になっているという事と、戦争という極限状況が同時進行する。という、他に似ているとしたら、ロバート・オルトマン『M★A★S★H』くらいしか思いつかないような設定が、すでにユニークな作品ですが、それを名優たちの、あえてのオーバーアクト(実際、精神疾患者たちは狂っているから、こんな事をやっているわけではない事がだんだんとわかってきます)、まるで、ルノアールやロートレックの絵画から飛びだしてきたような美しい衣装とジョルジュ・ドリュリューのとびきり素晴らしい音楽が渾然一体となっているすごさですね。
戦争という狂気を「精神疾患者」という、社会的に弱い立場から見る。という視点を握りこぶしを込めて見せるのではなく、華麗でコミカルに、しかし、その根底には強烈な一撃があるという点が、本作を傑作にまで高めているのだと思います。
売春婦のコスプレをしたコクリコ役のジュヌヴィエーヴ・ビュジョルトの妖精のような美しさは無上。
かなり戯画化されたイギリス軍とドイツ軍は、ほとんどモンティパイソンのようなおかしさです。
イギリス軍の3バカトリオ
今回上映された4Kデジタルリマスター版は、日本で公開されたものとラストシーンが違うのですが、言いたいことの基本は変わりません。
昨今、渋谷でのハロウィンでの狼藉行為が社会問題化しておりますが、祝祭が社会とってどういう意味を持つのかを考える上でも、重要な作品であるし、精神疾患者という括りが社会的にどういう意味なのか?という事を強烈に揺さぶってくる作品でもあります。
ちなみにたった一度だけテレビで放映されたのですが、この時の声優の豪華さは目を見張ります。
美術、衣装も素晴らしい。
これは現行のDVDで見ることができますので、是非とも。