マーティン・マクドナー『スリービルボード』
町外れの誰も見ないような広告板でした。
なんとなくショービズの内幕描いた作品みたいなタイトルですけども、ビルボードの本来の意味、野外に建てられている大きな広告板の事で、それが、それがミーズリー州の小さな町で3つの掲示板に出された広告がもたらした出来事を描いた作品です。
さて、その広告板どんな広告だったのかというと、
「逮捕はまだ?」
「ウィロビー署長は何してる?」
「娘はレイプされて殺された」
という、恐ろしくドギツい広告であり、
出したのは、娘を殺された挙句、遺体を焼かれた母親のミルドレッドでした。
レイプ犯を見つけようとするミルドレッドを演じる、フランシス・マクドーマンド。
名指しで署長をディス!
地元の警察官は激怒し、中でも、ディクソンという、アホな警官の怒りは並々ならぬものが。
「黒人を拷問してるのか?」とのディスりに激怒するディクソン。そりゃ怒るでしょう(笑)。
広告を出した母親ミルドレッドを演じるフランシス・マクドーマンドは、ラーメン専門店の気合の入ったお兄さんみたい作務衣にバンダナみたいな格好で(笑)、ほとんどクリント・イーストウッドばりの「正義は我にあり!」という人で、警官たちにも住民にも喧嘩上等であります。
思い切り名指しされてディスられた署長は、実はものすごくいい人で、当然ですが、娘さんの捜査は手抜きどころかすべてキチンと行った上で、確実な証拠が何一つ出てこない事でお手上げになってしまった事をミルドレッドに伝えるのですが、「んなもん関係ねえ。ちゃんと捜査しな!」と、ロッキンママなのでした。
あまりに過激すぎるミルドレッドを心配する署長。ウディ・ハレルソンが好演してます。
しかし、ココで1つの問題が判明します。
署長は膵臓癌を患っていて、それほど余命がなかったのです。
「んなもん知ってる。でも、出さないとやんないしょ」と、異様な覚悟でこの暴挙に出ていたんですね。
ココから、小さな街中では、ギクシャクしたものが少しずつマクドーマンドの周囲で起き始めました。
コレ、どうすんの?どうなんの?と、思って見てますと、なんと、署長が休みの日に家族サービスをした日の夜に、銃で頭を打ち抜いて死んでしまうのです!
家庭ではホントにいいお父さんのウィロビー。
ココから、話がガラッと動き始めるんですね。
実は、家族にガンの症状があったする事で介護が大変になる事で迷惑をかけたくなかったので、署長はかなり用意周到に準備をして自殺していたんですが、これを誤解したディクソンは怒りを爆発させて、広告会社のお兄ちゃんを二階から投げ飛ばしてしまいます。
コレを、ちょうど、後任でやってきた黒人の署長が目撃してまして(警察署の向かいに広告会社があるんですね・笑)、ディクソンを解雇します。
前半は、ミルドレッドとウィロビー署長の話しでしたけども、後半は、元警官のディクソンとミルドレッドのお話しになっていきます。
と、このようにあらすじだけを書いてしまうと、なんだかシリアスな話だなあ。という印象がものすごく残ってしまうのですが、実際に見ると、実は、かなり笑えるシーンやセリフが多く、映画館で見ていると何度も笑い声が聞こえてきました。
マクドーマンド演じるミルドレッドがディクソンに対して、「今日も黒人を拷問してるのか?」とかを平然と聞いたり、「オレは署長の味方」みたいな事を言い出した歯医者を、あの歯医者さんが使っている歯に穴を開ける機械で親指の爪に穴を開けてしまったり、クルマに缶をぶつけてきた高校生のに金的を食らわしたりと、キャラハン刑事も真っ青なぶっ飛びキャラを演じていて、実に清々しいですし、合間、合間にスッと挿入される会話のトボけたおかしさがホントに絶妙なんです。
ミルドレッドのエジキとなる歯医者さん(笑)。
ママと一緒に住んでいるディクソン。
見どころは、そのどこかトンチンカンなミルドレッドとディクソンの微妙な認識のズレだったり、おっちょこちょいが起こしてしまう、しかし、ソレ、ヤバくないか?の連続なのですが、コレは見てのお楽しみに。
ディクソンを役のサム・ロックウェルはホントに、無知でどうしようもない、しかし、善良な白人警官を見事に演じてました。
アカデミー賞受賞は納得です。
全く予測もできない方向に物語がドンドンと転がり、スッと終わります。
この終わり方がまたうまいですよね。
何というか、一級の短編小説を一気に読んでしまったような爽快感がありました。
それぞれの人物の行動の是非を問うとか、そういう事ではなく、まずは、どうなるの?どうなるの?とハラハラしながら見るのがよいでしょう。
本年度アカデミー賞で脚本賞逃したのが不思議としか思えないほどに見事な脚本でしたけども、マーティン・マクドナーは、もともと劇作家としてイギリスで大変高い評価を受けている方であったんですね。
本年のベスト5入りは確実であろう傑作です。