スティーヴン・スピルバーグ『The Post』
邦題『ペンタゴン・ペーパーズ』はちょっとミスリーディングでして、原題『The Post』、すなわち、ワシントン・ポスト紙の奮戦記とした方が、話としてはシックリ来ます。
内容の中心に、国防総省の、仏領インドシナ、すなわち、ヴェトナム戦争の機密文書の曝露。という大事件があるのは確かなのですけども、この作品は、首都を中心に発行していたとはいえ、それほど多くの部数などない、日本でいえば、神奈川新聞くらいの地方紙が、当時のニクソン政権を揺るがした(この辺はもう史実なのでネタバレとは言えないので書いてしまいます)。という驚異的な出来事を描いているんですね。
ホワイトハウス主導で強権を振るった、ニクソン大統領には、今でも批判がが強いです。
実は、私がスピルバーグの映画をちゃんと見たのは、多分、『インディー・ジョーンズ 最後の聖戦』だったと思うのでもう、30年くらいマトモに彼の作品を見てないんです。
どんな映画を撮っていたかは、ある程度は知ってますが、見たいと思った作品が一作もありませんでした。
なので、私のスピルバーグ映画は、相変わらず、ものすごい流麗なカメラワーク、独特のメリハリの効いた発色の画面、そして、ジョン・ウィリアムズのオーケストラが鳴り響いているという、あの映画なのです。
あと、スピルバーグとその舎弟たちの映画には、ある頑ななテーゼがあって、「1960-70年代がなくて、1950年代に一挙に1980年代が接続すれば、アメリカは幸せなのである」というのが、私はたまらなくイヤなのです。
私はその時代の映画にアメリカの宝物がたくさんあると思っているので、そういう点でも、スピルバーグの考え方には共感できなかった。
また、『シンドラーのリスト』という、実にいやらしい作品が実に不快で、心底スピルバーグがキライになりました。
しかし、今回は、スピルバーグがこれまで描いてこなかった、まさに、1960-70年代を撮った。という点が、私をザワつかせたんですね。
コレは何かがかわったんだな。と。
で、実際に見て驚いたんですね。
イーストウッド作品が持っているような落ち着きぶりと地に足のついた演出が、全編に横溢しているではありませんか。
この映画を撮りたくなった動機は、恐らくは現政権への明らかな反感なのだと思いますけども、そういうものを超えた、言論の自由を守ること、ひいては正義についての普遍的なドラマを力こぶを込めて撮るのではなく、実に落ち着いたトーンで、ワシントン・ポストの人々の奮戦を描いていることに、大変感銘を受けました。
大新聞ニューヨーク・ポストのスクープから、ペンタゴン・ペーパーズの存在が明るみになりました。
社主と編集長の、それぞれ「正義」を描く。
ニクソン大統領という、非常に強権的な(現大統領は狂犬的ですが)圧力に屈せず、この闘争に勝利したことで世界にその名を轟かせたワシントン・ポスト紙は、マスコミが模範とすべき姿なのでしょう。
会社を守るべきか言論の自由を守るべきか。
ニューヨーク・タイムスが政府の差し止め要求に屈する事はすべてのマスコミの敗北と考える、トム・ハンクス。
連邦裁判所の判決!
スピルバーグを久々に再評価できました。
ラストシーンがなかなか笑えるので必見です。
実際のニクソン大統領の辞任を伝えるワシントン紙。