音楽使い方がヌーヴェル・ヴァーグとはまるで違う!

パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、二つの心』

 

f:id:mclean_chance:20191015225448j:image

ズーラとヴィクトル。


映像を見て驚きましたね。


まるで、1960年代のポーランド映画みたいで。


ロマン・ポランスキとか、アンジェイ・ワイダの若い頃の作品を思い出しました。


絵作りは明らかに意識していると思います。


しかも、ストーリーもヌーヴェル・ヴァーグっぽい恋愛劇です。

 

f:id:mclean_chance:20191015225615j:image

シャープなのに独特の野暮ったさがあるのがポーランド映画の独特な魅力です。

 


特定の誰かを模倣している感じではないんですが、使っている音楽がルイ・マル〜ポランスキを思い起こさせますけども、使い方が根本的に違いますね。


ココが単なるレトロ趣味で本作を作っているのではない、バヴリコフスキ監督のオリジナリティです。

 

f:id:mclean_chance:20191015225736j:image

ズーラが所属している民俗舞踊団の場面は必見です。

 


そのオリジナリティとは 、何よりも音楽が最優先している映画なんですね。


というか、音楽に合わせた断章に近いです。


実際、あるエピソードが終わるとブラックアウトを繰り返す構成になっており、そのたびに出てくる音楽が民俗音楽、ジャズ、ロックンロール、ラテンと絶妙に変わっていきます。

 

f:id:mclean_chance:20191015225834j:image

歌だけでなく、ダンスシーンが素晴らしいです!

 


かつてのルイ・マルやポランスキらがモダンジャズを使ったのは、当時一番ヒップな音楽だったから使ったんであって、それ以上でも以下でもないんですね。


しかし、本作は主人公ズーラのエモーションの動きと一番シンクロしているのは、映像以上に音楽なのです。


東西冷戦が一番激しかった頃のお話しですから、一応、それによ困難や葛藤があるんですけども、それは、「すごく行くのが困難な『二つの世界』程度の意味しか持っておらず、問題は、ズーラとヴィクトルが愛を確かめあっている事なのですね。

 

f:id:mclean_chance:20191015225934j:image

モニカ・ヴィッティのようでもあり、ジャンヌ・モローのようでもある、主演のヨアンナ・クリークが素晴らしいです。

 


そういう意味で、本作はかなりファンタジックで、リアリスティックさはあんまりないんです。


だからこそ、敢えて白黒で撮影し、あたかも60年代のポーランド映画のようなノスタルジックにしているんですね。


そうする事で、「ワイダみたいは、ポーランドの苦悩を描いている映画ではないんですよ」と暗に示しているのであり、音楽が映像を動かすという事をミュージカル映画ではなく成し遂げているんですね。

 

f:id:mclean_chance:20191015230212j:image


敢えて言えば、この映画が一番近いのは、デイヴィッド・リンチなのかもしれません。


外面は全く似てませんけども。


オッ、もっと盛り上がっていくのかな?と思わせておいて、スッと終わってしまうのも実に見事ですし、腹にもたれなくていい感じです。

 

f:id:mclean_chance:20191015230730j:image

 

 

残念ながら、現在のポーランド映画の事情が全くわからず、この監督がどういうキャリアなのかわからないんですけども(ネットでササっと見て知ったかぶるのもなんですし)、この監督は今後も素晴らしい映画を撮ってくれる予感がしますね。


冷戦を扱った映画はたくさんありますけども、冷戦を単なる背景にして、監督の思うがままに絵を描いて観客に見せた。というあり方はとてもユニークですし、ポーランドがようやく新しい時代を迎えた事が映画から伺えました。

 

f:id:mclean_chance:20191015230231j:image