音楽使い方がヌーヴェル・ヴァーグとはまるで違う!
パヴェウ・パヴリコフスキ『COLD WAR あの歌、二つの心』
ズーラとヴィクトル。
映像を見て驚きましたね。
まるで、1960年代のポーランド映画みたいで。
ロマン・ポランスキとか、アンジェイ・ワイダの若い頃の作品を思い出しました。
絵作りは明らかに意識していると思います。
しかも、ストーリーもヌーヴェル・ヴァーグっぽい恋愛劇です。
シャープなのに独特の野暮ったさがあるのがポーランド映画の独特な魅力です。
特定の誰かを模倣している感じではないんですが、使っている音楽がルイ・マル〜ポランスキを思い起こさせますけども、使い方が根本的に違いますね。
ココが単なるレトロ趣味で本作を作っているのではない、バヴリコフスキ監督のオリジナリティです。
ズーラが所属している民俗舞踊団の場面は必見です。
そのオリジナリティとは 、何よりも音楽が最優先している映画なんですね。
というか、音楽に合わせた断章に近いです。
実際、あるエピソードが終わるとブラックアウトを繰り返す構成になっており、そのたびに出てくる音楽が民俗音楽、ジャズ、ロックンロール、ラテンと絶妙に変わっていきます。
歌だけでなく、ダンスシーンが素晴らしいです!
かつてのルイ・マルやポランスキらがモダンジャズを使ったのは、当時一番ヒップな音楽だったから使ったんであって、それ以上でも以下でもないんですね。
しかし、本作は主人公ズーラのエモーションの動きと一番シンクロしているのは、映像以上に音楽なのです。
東西冷戦が一番激しかった頃のお話しですから、一応、それによ困難や葛藤があるんですけども、それは、「すごく行くのが困難な『二つの世界』程度の意味しか持っておらず、問題は、ズーラとヴィクトルが愛を確かめあっている事なのですね。
モニカ・ヴィッティのようでもあり、ジャンヌ・モローのようでもある、主演のヨアンナ・クリークが素晴らしいです。
そういう意味で、本作はかなりファンタジックで、リアリスティックさはあんまりないんです。
だからこそ、敢えて白黒で撮影し、あたかも60年代のポーランド映画のようなノスタルジックにしているんですね。
そうする事で、「ワイダみたいは、ポーランドの苦悩を描いている映画ではないんですよ」と暗に示しているのであり、音楽が映像を動かすという事をミュージカル映画ではなく成し遂げているんですね。
敢えて言えば、この映画が一番近いのは、デイヴィッド・リンチなのかもしれません。
外面は全く似てませんけども。
オッ、もっと盛り上がっていくのかな?と思わせておいて、スッと終わってしまうのも実に見事ですし、腹にもたれなくていい感じです。
残念ながら、現在のポーランド映画の事情が全くわからず、この監督がどういうキャリアなのかわからないんですけども(ネットでササっと見て知ったかぶるのもなんですし)、この監督は今後も素晴らしい映画を撮ってくれる予感がしますね。
冷戦を扱った映画はたくさんありますけども、冷戦を単なる背景にして、監督の思うがままに絵を描いて観客に見せた。というあり方はとてもユニークですし、ポーランドがようやく新しい時代を迎えた事が映画から伺えました。