クリント・イーストウッド『サリー』
機長と副機長。トム・ハンクスは、なぜか事故とかトラブルに巻き込まれる役が多いですね。
邦題『ハドソン川の奇跡』は、内容を誤って伝えていると思うので、原題『Sully』(主人公のサレンバーガー機長の事です)をそのまま音写しました。
これは、2009年の1月15日に実際に起こったUSエアラインの旅客機がエンジントラブルで、止むを得ずハドソン川な不時着水し、乗員乗客155人が全員無事であったという、思わず、「奇跡だ!」と言いたくなってしまう事件に基づきます(この事については後述)。
ニューヨークのラガーディア空港からノースキャロライナ州のシャーロットまでの便なのですが、離陸して間も無く、鳥の群れが激突してしまい、なんと、2つあったエンジンのどちらもが故障してしまいます。
ラガーディア空港にも戻れず、隣のニュージャージー州の空港に着陸する事も出来ず、サレンバーガー機長と副機長は、ハドソン川に着水するしかないと判断し、これをホントに成し遂げてしまいます。
離陸から着水までのたったの数分の出来事なので、それでは映画は持ちません。
映画はここから先を問題とします。
役所が、機長の判断はホントに正しかったのか、根掘り葉掘りが始まるんですね。
機長と副機長の調査員たちへの答弁は全くブレることはなく、コレしか乗客を救う方法はなかった。と述べますが、調査員たちは、シミューレートしてみると、空港に戻る事もニュージャージー州の空港にも着陸できたのであり、しかも、片方のエンジンはまだ生きていたのでは?という疑義を挟んできます。
サレンバーガーと副機長が実際に経験した事と役所の調査の結果には大幅に乖離があるんですね。
でも、2人はアメリカ映画よろしく激昂したり、暴れたりもしません。
マスコミの取材攻勢を受けるサリー。
映画は、イーストウッド独特の、熱中しない、かと言って突き放しているわけでもない、絶妙な温度で描くんですね。
サレンバーガーと副機長は、ホテルと審査会の行き来の生活にならざるを得ず(別に監禁されているわけではないです)、睡眠もなかなかとれなかったり、飛行機が墜落する悪夢を見たりします。
しかも、テレビはやれ「英雄」だの、「実は冒険行為なのでは?」などと騒ぐのですが、当の本人たちはごくごく普通のパイロットなんですね。
この映画の面白いところは、着水シーンが最大の山場としてのインパクトになってないんです。
とてもコワイですが、むやみやたらと怖がらせてはいません。
むしろヤマ場は公聴会です。
もうコレはオチを皆さん知っているのでネタバレではないと思いますが、2人の冷静な反論によって一切の疑惑は晴れまして、判断は間違っていなかった事が明らかになります。
ある意味、こういうの題材はドキュメンタリーで十分なのではないのか?と思ってしまうのですが、イーストウッド監督は、巧みな構成力と決して技巧的はないのですが、見事としか言いようのない、編集によって、劇的に盛り上げるわけでもなく、かなり淡々とした調子なのに一切ダレることない映画に仕上げるんですね。
しかも、たったの90分ほどの映画で、どちらかと言うと比較的長い映画作る事が多いイーストウッドとしてもかなり異色です。
大感動!奇跡!とかではなく、プロがそれぞれ最善を尽くした結果なのだ。とイーストウッドは静かに語っているのですね。
このような、名もなきプロ意識を持った人々の集まりがアメリカ市民なのではないのか?と。
つまり、コレは奇跡ではないんですね。
公開中なので、あんまり写真ないのです!スンマソン!!
こちら、ホンモノのサレンバーガー機長。カッコイイ!