ベニー・ブーム『All Eyez on Me』
2PACそっくりな役者さんが善戦してはいますが。
ヒップホップ史上、最もレコードを売ったラッパー、2PACの生涯を描いた作品。
NWAを描いた『Straight Outta Compton』の続編とも言える内容で(NWAのメンバーだった、Dr.Dreが、2PACを見出し、彼のアルバムをプロデュースしています。『Straight~』でもほんの少し2PACは出演してます)、ヒップホップというジャンルのパブリックイメージを良くも悪くもつける結果となった、その痛ましくも短い生涯が、とうとう映画となったわけです。
結論から言えば、「早いよバカヤロウ!」(by 鬼瓦権蔵@アルプス工業)でした。
まずですね、1990年代のヒップホップカルチャーは、今見るとまだイタいんですよ。
そこが致命的です。
あと、20年は寝かせるべきでしたね。
さらに言えば、関係者がまだ現役ですし、みな若いですよね?
何しろ、約20年前に2PACは何者かに射殺されているわけですが(犯人は未だに不明です)、亡くなった時、わずか25歳です。
あの銃撃で死なずに生きていたら、まだ、50歳にもなってません。
関係者は、今でも音楽業界で現役だったりしますから、突っ込んだ内容にはなりようがないです。
クリント・イーストウッドの痛恨作『バード』がよくないのは、主人公である、天才アルティストのチャーリー・パーカーの未亡人である、チャン・パーカーが必要以上に作品に干渉してきたからです。
最近、内縁の妻に射殺されたジャズトランペッターのリー・モーガンのドキュメンタリーが公開されましたけども、アレも内縁の妻が亡くなる数ヶ月前に、証言を残していたという奇跡があったので成立しているんですが、ヒップホップ史上最大の大ネタといってよい、いわゆる「東西抗争」の1つのクライマックスでもある、2PACの射殺事件は、モーガンとは比べものにならないほどに関係者も多く、その経済的社会的なインパクトの度合いの違いがあまりにも違いすぎます。
若くして非業の死を遂げたサム・クックも未だに満足な伝記映画ですらなかったはずで(そろそろソニー・ピクチャーズでやりそうな気はします)、そういう意味でも、「早いよ、バカヤロウ!」なのであります。
2PACを語る上で重要である、ブラックパンサー党や、ロサンジェレスで目撃せざるを得なかった厳しい現実、デス・ロウ・レコードとの接触やビギー、スヌープドックといった同時代に活躍したラッパーとの関係などなどの重要な部分への掘り下げがめちゃ浅く、その程度の事は、昔、雑誌で読みましたよ?程度の事を特に何のヒネリもなく映像化されても、別に何の感慨もないのです。
同じミュージシャンの伝記映画だったら、ティナ・ターナーのほうがずっとよかったです。
主演の役作りの凄さもありましたが、アイク・ターナーを演じるウォーレンス・ウィシュバーンの極悪非道ぶりが見事でしたけども、そういう役者の演技や存在感みたいなものが、実在の人物に明らかに負けていました。
明らかにアイスキューブやDr.ドレーをキレイに描きすぎている『Straight Outta Compton』も、役者陣が魅力的だったので、面白かったんですけど、そこが明らかに弱かったですね。
ヒップホップ最大の大ネタなのですから、もっと大事に映画化して欲しかったですねえ。残念。
タイトルにもなった、2PACの二枚組の大作。ヒップホップ史上初めての二枚組アルバムにして、全米第1位という金字塔の作品です。