しかも、またしても、アメリカ人が主人公なんですね。
カリフォルニアからやってきた、ちょっとおのぼりさんの女性と、ロンドンでかなりのクラスに所属している、公認会計士と結婚してしまったことで起こる、様々なギャップが原因となる夫婦間の齟齬。が、テーマなのですが、こういう風に文書にしてしまうと、この映画の魅力はほとんど伝ってこないのが、とてもザンネンであります。
英国の映画の魅力を伝える、巧みなボキャブラリーを身につけたいものですが、このキャロル・リードの語り口のうまさが、全編にわたって爆発していて、こんなチャーミングで可愛らしい映画を遺作に撮った彼の評価は、私の中でかなり上昇しました。
私立探偵、公認会計士とその妻。というと、なんだか、グリーナウェイの映画のタイトルみたいですが(笑)、実質的に重要な登場人物はコレだけでありまして、この、なんとも言いようのない三角関係?が、このお話を推進していくのですけども、トポル(イスラエル出身の舞台を中心に活躍している名優ですね。セリフ回しが明らかに映画俳優ではないです)が演じる、まるで妖精か何かみたいな私立探偵の存在感が見事としか言いようがないですね。
ちょっと『シラノ・ド・ベルジュラック』のような感じです。
小柄で痩せっぽちのショートヘアーのミア・ファーロウの、ちょっとサイケっぽいおのぼりさんぶりがまたいいですね。
この子の惚れっぽさが話をややこしくしているだけな感じがまたなんとも。
こういう辺りにリード監督のうまさが光りますね。
前半のトポルの探偵としての報告と後半のファーロウの証言が全然違っているというおかしさ。
公認会計士演じる、チャールズ・ジェイストンは、いかにも頑固で保守な英国の上流階級(要するに、やな奴ですが・笑)ですけども、ラストがちょっとイイですよ。
ある意味、シェイクスピアからの伝統の、「身分相応の結婚のが幸せよ」というメッセージが本編にも貫かれているのですが(実際、映画の中で、フランコ・ゼフィレッリ『ロメオとジュリエット』を見ているシーンが出てきます)、それを最後の作品としたのも素晴らしいですね。
ロンドン観光名所映画としても秀逸。
ジョン・バリーの音楽もよろしゅうございます。
この作品は、劇場公開されてから、ほとんど見る機会がなかったようで、幻の作品になってしまっていたようですが、今では、普通にDVDでレンタルされてますので、マニアだけが楽しむにはもったいない素晴らしさですので、是非ともご覧ください。