ジャン・ヴィゴ『アタラント号』
奇しくも山中貞雄と同じ年齢で亡くなっている、ジャン・ヴィゴ。
長編映画をたったの1本だけ遺して、わずか29 歳の若さで亡くなったジャン・ヴィゴの傑作。
2017年に娘のリュス・ヴィゴらの協力によって4K修復が行われ、それを見ることのできる幸福ですね。
ヴィゴも喜んでいるのではないでしょうか。
1934年の映画ですので、サイレントからトーキーへの移行期ですから、ところどころサイレント映画的な手法が出てきたり、今の編集だと場面のつながり方が不自然に感じるところがあるにも関わらず、本作は未だに魅力的な作品ですね。
スタジオ撮影がまだ普通だった時代に、ロケーション撮影を大胆に導入し、カメラは自在に動き回り、時にものすごいローアングル、俯瞰撮影などの斬新な手法の導入(飛行機からの撮影すら行なっています)。
基本が屋外撮影というのは、当時はとても珍しかったんです。
ななんと、飛行機(多分、セスナ機でしょう)から撮影してます!
そして。遂には劇映画では初めてと思われる水中撮影!
カメラをガラスの箱に入れて撮影したそうです。スコリモフスキ『早春』はコレをやったのかな?
荒削りではあるものの、次々と大胆なアイディアに果敢に挑戦する様は、まさにヌーヴェルヴァーグの先駆をなすものです。
実際、トリュフォーはこの映画を熱狂的なファンだったようです(彼が当時見たのは、映画会社が勝手に編集して短縮した版と思います)。
本作の筋書きはものすごくシンプルですが、本作の魅力は、輸送船アタラント号の水夫、ジュールを演じる、ミシェル・シモンの怪演と、アタラント号に住みついていて、絶妙なタイミングで登場人物たちに絡んでくるネコちゃんたちです。
ミシェル・シモンのキャラ造形と彼のガラクタだらけの部屋はクストリッツァにすごく影響を与えているような気がします。
野性爆弾のくっきーのような風貌で、喋り方が殿山泰司(フランス語で話しているのに、だんだん日本語みたいに聞こえてきます)としか思えない、かなりアクの強いキャラでして(笑)、ストーリーの中心を動かしているアタラント号の船長とその夫婦の結婚と家出(というか、船出?)と出戻りは、実はそんなに面白くなくて、本筋ではかミシェル・シモンがとにかく面白いんです。
奥さんが出て行ってからの船長の奇行はなかなかの見どころですけどね(笑)。
一応、アタラント号船長と奥さんの話しではあります。船長が後のマーロン・ブランドーを彷彿とさせます。
まあ、とにかくこの愛嬌満点の演技は、フランス映画の至宝レベルでして、彼の名演で本作の価値のかなりの部分が決まってしまっていると言っても過言ではありません。
とにかく、ネコちゃんがかわいい!
しかし、それを演出しているのはヴィゴなのですから、29歳でこれだけの演出ができていた彼がその後も生き続けたら、どれほど素晴らしい映画を撮ったのだろう!と思えてなりませんが。。
今見ても余りにも瑞々しい感性に満ち満ちた作品。