ウィリアム・フリードキン『恐怖の報酬 完全版』
いやー、大感激しました!
本年見た映画でコレがでベスト。
コレまで、監督の意図された形での上映はなかったので、新作とみなします。
ニトログリセリンの爆風を使って、油井で発生した火災(反政府テロの犯行に変わってます)を収束させるためにトラックでニトロを運ぶ。という、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーのオリジナルのプロットこそありますが、もう全く別物の作品になっていて(原題もSorcerer になってます。なんと、マイルス・デイヴィス『ソーサラー』から取られたのだそうです)、リメイク。などという、安易なものではありません。
反政府テロリストの攻撃で爆発してしまう油井!
なので、本作の邦題は、間違ってはいませんが、全く違うタイトルにしてもよかった気はします。
イヴ・モンタン主演のオリジナルも大変な傑作で、前半の吹き溜まりのような南米の街のウダウダ、ダラダラとした描写が今見るとちょっと冗長とはいえ、ニトログリセリンを運ぶ展開に映ったらもう無類に面白いので、是非とご覧いただきたいのですけど、オリジナルの持っているドライで突き放した感じの演出に対して、フリードキン版は、圧倒的にドロドロで凄絶、そして、フリードキンならではの非情で骨太さが漲っており、1970年代の、テロが横行する世相をうまく取り込んだ作品に変貌していて、それでいながら120分にスッキリと言いたいことを絞り込んでいるところが見事なんですよね。
見終わると、もっと長い映画を見ていたんではないの?というくらい濃密で、心底驚きます。
マフィアのボスの弟を撃ってしまった嫌疑をかけらてしまうロイ・シャイダー。
冗漫で長く感じるんのではなく、中身が濃すぎて長く感じるんですね。
面白いのは、ドライバーとなる4人が、どうして南米の奥地にまで来ざるをえなかったのか。が、最初に展開するんですけど、1人は殺し屋、1人は反PLOのテロリスト、1人はパリの銀行家、そして、最後がアメリカのアイリッシュ・ギャングです。
みな、それぞれに犯罪や嫌疑のために本国にいられなくなり、国籍も名前も偽り、とんでもない場所に潜伏せざるを得なくなるんですね。
その冒頭がもうものすごいんです。
それぞれがもう映画一本になってるんじゃないの?というくらいにシビれるほどカッコいいんです!
もう、スッカリ、フリードキンの演出にハマってしまうんですね。
そこから、南米のジャンルの中にある、油井の近くにできた町の落差!
なんて小汚い(笑)!
刑務所以下(笑)。
とにかく、ドロ沼の中にある感じで、住民も最下層なんてものではない。
事故と石油会社の無策に怒り狂う住民!
遺体は黒焦げ!
ちょっとやり過ぎ感はないではないです。。
ロイ・シャイダーが一応、オリジナルのイヴ・モンタンになるんだと思いますが、こういうどうしようもない境遇に追い込まれた感じがホントに出てますね。
さすが、アメリカの川谷拓三。
『ジョーズ』よりも更に素晴らしい!
ここから、4人がトラックに乗ってニトログリセリンを運ぶという、メインになっていくんですが、まあココは一切何も言えません(笑)。
まあ、ホントにコワイ。
こんな所に舗装された道なんてあるわけがなく、とにかくハラハラ、ドキドキの連続なのでございます!
ひゃー!コワイ!!
熱帯雨林特有の滝のような雨がドライバーたちをトコトン苦しめ、人間が入ってはいけない、完全なるアウェイを進む自分たちでなんとか動くように修理したトラックが、まるで不気味な巨体生物のように見えてきます。
ジャジャーン!
驚いたのは、ラストシーンにチャーリー・パーカーの晩年の名作『Charlie Parker with Strings』の『l’ll Remember April』がちょっと流れまして(全体の音楽はタンジェリン・ドリームが担当してます)、コレが絶品なんですよ。チャーリー・パーカーをサントラに使ったのは、イーストウッド『バード』を別とすれば、たしか、ルイ・マルの作品にあったくらいだと思いますが、コレはとても珍しい。
超天才アルトサックス奏者、チャーリー・パーカー。
『フレンチ・コネクション』の、あの、ナタでドカンと切ったような編集、そして、具体的な物量と無茶な動きで作り出されるダイナミックなアクションは、昨今のCGを駆使した映像では絶対に味わえないゴツさであり、フリードキンのフィルモグラフィーのベスト3に間違いなく入る、それはすなわち、映画史に残る傑作である事が間違いない作品です。