イングマール・ベルイマン『魔術師』
ベルイマンの初期の作品。
イングリット・チューリン、マックス・フォン・シドウという常連がすでに出ていますね。
白黒のハイライトを強調したかなり濃い画面作りが素晴らしい。
内容もそれに準じてかなり濃いです。
表面上のテーマは、「科学と魔術」という事になるのでしょうが、実際のテーマは「権威と権力」です。
「磁力」を使った興行をしているフォーグレル博士の一座に興味を持った地方の有力者たち(科学者や警察署長)が、この一座を連行して、「お前またちのやっとる事はどうせインチキだろう」を圧迫をかけてくるんですね。
しかし、ベルイマンの映画は今見ても結構ギラギラしていて、なかなかにエグい。
人間への眼差しが冷たくて容赦ないですね。
溝口健二も容赦ありませんが「神様が見ておるぞ!」というようなコワサがある。
人間というのは、もう、本当にどうしようもないね。と。
『野いちご』でも、老人が自らの老いを恐れおののく様をかなり辛辣に描いてますが、この頃のベルイマンはキツイ。
しかし、ここまで突き抜けているからこそ、ある意味で清々しいというか。
テューバルという、一座を事実上コントロールしている、もみあげの長いオッサンの下品なこと! 俗物そのもの!
インチキ薬を作っているバアさん(笑)。
しかし、マックス・フォン・シドウが演じる、言葉を話すことのできない魔術師がすごいですね。
フランケンシュタインの怪物のような姿です。
お話は、たったの2日間の人間模様を中心に描かれ、人間を容赦なく観察し、翻弄される様を冷徹に描いていますね。
さて、メインとなる、「魔術」の興行。
権力によって、弱い立場の一座をトコトン馬鹿にしつくす醜さ。
しかし、ここから事態が変わってくるのですが、ここは見てのお楽しみです。
ベルイマンの真骨頂ですぞ。
彼もまた映画という「魔術」を生業にしているわけですから、どういう立場で描かれるかは、見ていてだんだんとわかってきますよ。
ギターやハープを基本としたシンプルなサントラが、当時を考えると斬新です。
とにかく、最後までオチが読めない作品です。