うまい!

ホン・サンス『よく知りもしないで』


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ホン監督のオープニングはいつもパステルカラーをバックにハングルですね。

もう、世界的な評価を受けている監督なので、英語との両表記にするのかと思いきや、そうしない。

どこか小津安二郎ほワンパターンなオープニングタイトルを思い出します。

前回余りに面白くてコーフンしてしまい、指摘しそこないましたが(笑)、韓国は自動車が左ハンドルなんですね。

あと、男性は基本的に喫煙家ですね。

独特の、高くも低くもないテンション、一筆でスッスッと進むようなタッチは同じですね。

主人公ク・ギョンナムは映画監督です。

とはいえ、そんなにホン監督自身が投影したキャラクターとも思えません(ちょっと、おぎやはぎの小木に似てます)。

どこか、いろんな登場人物を観察するための定位点に置かれているような存在です。

そういう意味では、『81/2』のマルチェロ・マストロヤンニですが、あんなに躁病的な展開ではなく、あくまでリアルですので。

韓国ではかなり評価されている監督らしく、海外にも知られているようですね。

舞台は映画祭。監督は、審査員としてきております。

地方都市の小さな映画祭で、なんというか、微妙な感じです。

その微妙な映画祭でのコレまた微妙な人間関係が、実にうまい。

ほどほどに嫌らしい感じなんですよ。

この微妙なヒダがなかなか文章になりませんが。

この微妙な空気をお互いに読みながらの社交辞令をし続ける場所というのは、どこに行っても同じ感じなんですなあ(笑)。

審査員として、ヤル気もそれほど起こらず(どうやら、つまんない映画ばかり集まった映画祭らしい)、何だかボンヤリしている。

と、なんとも煮詰まったところに、かつて映画会社を一緒に立ち上げた後輩が、偶然にも映画祭の行われている街におり、バッタリと出会うところが転換点に。

ホン監督って、奇を衒わない、オーソドックスなストーリーテリングをしているのに、決して陳腐になったり、くさい感じがないんですよね。

コレはホントにいそうでなかなかいない。

物語は解決しないまんま、観光地として有名な済州島へ。

映画監督という、ヤクザな稼業をしているため、いろんなところに呼ばれて仕事をしなくてはならないあたりが結構リアルですね。

この辺はホン監督の経験が反映しているのでしょう。

この作品を見ていると、韓国社会の「先輩」「後輩」という関係がかなり厳格に存在することがよくわかりますね。

日本ともまた違った人間関係があるようです。

この辺は、前近代の李朝時代の歴史がある程度わかっていないと(両班などなど)なかなか理解しにくいところだと思いました。

前回書いた『3人のアンヌ』もそうでしたが、本作も(というか、こっちの方が先に作られてますけども)、デジャヴなシチュエーション、セリフが出てきます。

『3人のアンヌ』は、ほとんどそれだけで構成された、いわば、「永遠に終わらないお話し」になってますけども、本作はまだそこまで大胆ではありません。

本作は、「2つのお話し」であるけれども結局は1つのお話が2つの展開しているにすぎないという構造を持っています。

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ホン・サンスはどうもテクストの中でウロウロする人を描く事にこだわりがあるみたいですね。

作品の中で主人公が、貴方が一番大切なものは何ですか?と、たずねられると、「それは自由だ」と答えるシーンがあるのですが、それは結構、お話しの中の核になっている気がします。

ホン・サンスの作品が提示するのは、人間は、自ら作り上げてきたテクストから逃れることはできませんよ。という事なのだと思うのです。

それでは何もかもがんじがらめで、自由なんてないではないか。という事になりそうですが、彼はそうではないと言っているのでしょう。

それは、恐らくは、テクストを乗り越えるような事は、できないかもしれない。しかし、そうである事を受け入れた上での自由はあり得るのだと。

なぜなら、全く同じ話の反復が延々と続いているのではなく、何かが少しづつズレており、決して単なる反復にはなっていません。

単なる堂々巡りをしているんではなく、まるで変奏曲のように人生は変化し得る。という意味において、即ち、どう変奏するかは自由なのではないですか?と言ってるのでしょうね。

別な作品も見てみたくなりました。

それにしても、ゴダール大好き、トリュフォー大好き、ロメール大好きな国である日本から、どうして「ホン・サンス」が未だに出てこないのかが不思議ですねえ。

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