少年時代の美しさを描いた超大作!男の子は必見です!!

セルジオ・レオーネ『Once Upon A Time In America』

 

 

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現行版はレオーネ監督が最終的にオーケーしたバージョンで、なんと、3時間50分もある大作です。

 

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ニューヨークのユダヤ人ゲットー中心としたお話しです。

 


セルジオ・レオーネは、『Once Upon A Time In〜』という映画をもう一本撮ってまして、日本では、昔、『ウェスタン』という、なんとも味気ない邦題がつき公開された、『〜The West』です。


こちらは、タイトル通り、西部劇でして、チャールズ・ブロンソン主演で、ヘンリー・フォンダが悪役という、コレも3時間の大作です。


この2つの映画は、イタリア人監督セルジオ・レオーネアメリカへの愛に満ち溢れた作品なのですが、どちらも映画会社側がカットを加えて公開しており、しかも、本作は時系列を少年期、青年期、老年期に編集し直し、なおかつ大幅にカットを加え、130分ほどの映画にしてアメリカでは公開されたため、惨憺たる評価で、レオーネは大変失望したそうです。


ただ、海外では3時間ほどのカットを加えたバージョンでの公開だったので(日本もそうです)、アメリカでの評価とは違ったのですが、トータルの興行収入は、膨大な制作費を回収するには至っておりません。


完全版。とされる、現在、一般的に見ることのできるバージョンは、レオーネが次回の準備中に急死してからかなり経ってからです。


ただ、インターミッションの入るタイミングを考えると、後半はもっと長かったのでは?と推測されますね(前半2時間40分、後半70分)。

 

 

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最近の映画はインターミッションが滅多に入らなくなりました。

 

 

ちなみに、『〜The West』も、監督の意図した通りのバージョンに現在は戻され、再評価されています。

 

この2作に『夕陽のギャングたち』を加えて、三部作と現在では考えられています。

 

さて。

 

オーソン・ウェルズ黒い罠』に匹敵する無残な編集を受けた本作ですが、死後、ようやく再評価を受け、今日ではレオーネの代表作の一つとなってますけども、なぜ、こんな無残な編集を受けてしまったのか?というのは、多少気持ちはわかります。

 

1920年から1968年という大変長い時間軸を描いている事と、そのための伏線の引き方とその収束が、4時間近い上映時間もあり、見ている側が分からなくなってくる可能性がとても高かったからでしょうね。


コレは映画館で一回見たくらいでは、圧倒的な映像の凄さだけがわかるけども、ストーリーが今ひとつわからなかった。になりかねません。


しかし、VHSの時代になって繰り返し見ることができるようになる事で、コレが解消され、レオーネ監督の言いたい事がようやく伝わってきたんだと思います。


私もコレで3回目ですが、再発見がとてもありました。

 

長大な作品ですが、軸は明確であり、ユダヤアメリカ人のギャングである、ヌードルス(デイヴィッド・アーロンソン)とマックス(マクシミリアン・バーコヴィッツ)の友情を描いた大河ドラマであり、その2人の間にいるデボラという女性が重要です。

 

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ヌードルスとマックスの友情物語です。


メインの登場人物は『ゴッドファーザー』ほど多いわけではなく、ただ、後述しますが、監督が意図的にぼやかして描いていたりしているところがあるので、そこが分かりにくさになると思われます。

 

ですので、本作を説明する上で、2つの観点にわけてみたいと思います。


一つは2人の友情物語とデボラを巡る恋愛物語であり、もう一つがアメリカの暗黒史の一つである、ジミー・ホッファーです。

 

まずは友情物語と恋愛物語ですが、時間軸が3つありまして、少年期(1920年)、青年期(1920年代後半〜1933)、老年期(1968年)に分かれています。


お話しは1968年、老年期から始まります。


すっかり老いぼれ、とっくにギャング稼業も足も洗ってしまったヌードルスが何者かから手紙を送られて、35年ぶりにニューヨークのユダヤ人ゲットーに戻ってきました。

 

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偽名を使い、別人として生きていたヌードルス


彼は幼なじみのファット・モーの店にやってきました。


ファット・モーとは、禁酒法時代に密造酒を飲ませる秘密クラブを共に経営してきたのですが、これまで姿を完全にくらましていたヌードルスが戻ってきて驚きます。


「カネを持っていったのは、テッキリお前だと思っていたんだよ」

 

と、モーは言いますが、そのカネとは、ヌードルスたちが儲けの半分を駅のコインロッカーに入っているカバンにずっと入れて、全員の財産としていたんです。

 

このカネは、実はヌードルスが持ち出して逃げようとした際に既に消えてました。

 

この逃げようとした時、即ち、1933年にヌードルスの仲間が全員死しました。

 

モーを含めて、仲間しかカネのありかは知らないのに消えている。

 

この謎が解けないまま、35年が経った途端に突然の手紙。

 

偽名を使い、別人ととして姿をくらましていたにもかかわらずです。


手紙は墓の移動についてのものであり、彼のギャング仲間であった、マックス、パッツィ、コックアイの移動された墓をヌードルスは見に行くと、墓場には見覚えのある鍵がかかっていました。

 

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左から、パッツィ、コックアイ、そして、マックス。

 


なんと、その鍵が駅のコインロッカーの鍵であり、その中にはカバンがあったんです。


そして、その中には殺人の依頼のための前金がギッシリと入っていたんです。

 

とんでもない大金でした。

 

一体コレはどういう事なのだろうか?というところで回想になり、1920年(ハッキリとでてきませんが、禁酒法1920年に施行されているので、そこから推測できます)、つまり、ヌードルスが少年時代になります。

 

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のぞき穴を「タイムマシン」に使う演出のにくさ!


パッツィ、コックアイ、ドミニクという悪ガキとつるんで、スリなどの犯罪をしていました。

 

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新聞売りの露店に放火する悪ガキ集団!

 

そこにブルックリンからやってきた、マックスという少年。

 

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マックス。悪ガキ集団のリーダーとなります。


ヌードルスたちはいつしか彼と意気投合して、やがてギャングスタになっていきます。

 

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左から、パッツィ、ドミニク、コックアイ、ヌードルス

 


しかし、このユダヤ人ゲットーをシマとして牛耳っているのは、バクジーという男であり、彼らの跳ね返り行為を常に監視していたのでした。


ヌードルスたちは、密造酒業者に接近して、密造酒が警察に絶対にバレないように輸送する方法を思いつき、コレを提案します。

 

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禁酒法が悪ガキ集団をギャング団にしていきます。


コレで見事に運び出した、彼らは一挙に羽振りがよくなります。

 


そこでマックスはある提案をします。

 


「コレからは仕事の儲けの半分は常にこのカバンに入れて、全員の共有財産として、カバンはこのコインロッカーにしまう。そして、ロッカーのカギは、ファット・モーの店に何のカギかは教えずに置いておくこと」

 

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なんと、少年時代に決めていた事だったんですね。

 

しかし、そんな羽振りのよいヌードルスたちをバグジーが許すはずがなく、銃を持って襲いかかり、ドミニクが射殺されてしまいました。

 

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バグジー

 

コレに怒り狂ったヌードルスは、バグジーをナイフでメッタ刺しにして殺してしまい、コレを止めようとした警官まで殺害し、殺人罪によって服役する事になってしまいます。

 

コレが少年期なのですが、ここだけで映画一本分ほどの時間をかけてじっくりと語られるんですね。

 

つまり、本作の一番重要な部分はこの少年時代なんです。

 

ココにエンニオ・モリコーネの胸が一杯になってしまう、あの甘く切ないメロディがタップリと流れるんですね。

 

思春期の少年あるあるが満載で、実はそのディテールが一番見どころなんですよね。

 

後にマックスやヌードルスの一味となるペギーとセックスするために、パッツィが彼女の好物のケーキをアパートメントのドアまでくるのですが、彼女を待っている間にどうしても我慢できなくなってケーキを全部食べてしまうシーン。

 

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本作の名シーンの一つですね。性欲よりも食欲です!


ファット・モーの妹でツンデレ美女のデボラを覗き見するヌードルス

 

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ヌードルスが覗いていたのは、デボラでした。

 

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映画初出演だったという、ジェニファー・コネリー。なんという美少女!

 

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ヌードルスが唯一愛した女性、デボラ。ファット・モーと全く似てません!

 

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デボラは女優を目指します。

 

青年期は、ヌードルスの出所から始まり、マックスたちは、禁酒法という、奇妙な状況を利用して大儲けをし、同時に強盗、恐喝、殺人などの犯罪も行うという、文字通りのサグ・ライフを生きる姿を描きますが、マカロニ・ウェスタンで磨き上げた、リアルなアクション、バイオレンス描写は凄まじいものがあります。

 

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密造酒を飲ませる秘密クラブの経営が彼らの資金源です。

 

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拷問されるファット・モー。

 

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至近距離から射殺などの容赦ないバイオレンスはマカロニ・ウェスタン仕込みです。

 

しかし、この第一次大戦戦勝国としての空前の好景気を背景としたサグ・ライフにおいて、マックスとヌードルスの考え方の違いがだんだんと明確になってきます。

 

ニューヨークで最大の力を持っている犯罪集団はなんと言ってもイタリア・マフィアです。

 


マックスはフランキー・マノルディというマフィアのボスの庇護のもとで仕事をしていくべきであると考えていたが、ヌードルスはフランキーなど信用できない。いずれ、取り込まれ、殺されてしまうと考えていました。

 

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マフィアの大物、フランキー。ジョー・ペシはこういう役がピッタリです。

 

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宝石強盗の依頼のシーンの卑猥なトークがすごいですね。名優たちのうまさが光ります。


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フランキーの兄弟分でシカゴを拠点とする、ジョー。バート・ヤングは頭の悪い下品な役がやらせると天下一品ですね。

 

 

ココに2人のミゾが次第に出てくるんですが、彼らの繁栄は長くは続きません。


1933年に禁酒法は終わってしまいます。


マックス一味の収入のメインである秘密クラブが閉店せざるを得なくなります。


そこでマックスはとんでもない計画を考え出すのですが。


さて、もう一つの論点は、アメリカ暗黒史です。

 

そんなに多くのシーン出てきませんが、労働組合のリーダーである、ジミー・オドネルという男が出てきます。

 

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アンマリ印象に残らないキャラですが、実はアメリカ暗部を代表する大物になっていきます。


彼は、1968年にもヌードルスが見ているテレビのニュースにチラッと出てきます。

 

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全米トラック協会の委員長となった、オドネル。

 


このお話しはフィクションですが、このオドネルは明らかに実在の人物をモデルにしています。


それは、全米トラック運転手組合のリーダーとして、絶大な権力を振るった、ジミー・ホッファです。

 

ホッファが組合のリーダーとなるために多くのマフィアなどの犯罪組織が支持したと言われています。

 

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ホンモノのジミー・ホッファ。フィクサーとして政財界に君臨しました。


アメリカの物流の中心であったため、この組合を通じて政財界へ絶大な影響を発揮したましたが、ケネディ政権の司法長官、ロバート・ケネディが、マフィアやラスベガスのカジノ経営者たちとの癒着を暴くべく行動を起こし、長きに渡る法廷闘争に及びましたが、1975年に行方不明になり、1984年に法的に死亡となりました(遺体は未だに見つかってません)。


このジミー・ホッファをモデルとしたのが、ジミー・オドネルと思われます。


ヌードルスの回顧で、ジミーは経営者に果敢に戦う労働組合として出てきます。

 

経営者が雇ったギャングがジミーを拷問してストをやめさせようとしているんですが、経営者は呆気なく折れてしまい、ギャングは拷問をやめて去ってしまいます。

 

なぜかと言いますと、経営者もまたギャングに恐喝されていたんですね。


その仕事をしていたのが、なんと、マックスたちだったんです。


お話ではハッキリとは言ってませんが、民主党の大物議員がギャングを使って、労働組合運動を推進していた事をにおわせるんです。


つまりですね、民主党ルーズヴェルト政権は、労働組合AFL-CIOの支持を受けて樹立しましたが、そこには、マフィアなどの犯罪組織が大きく絡んでおり、それは、1968年のジョンソン政権も変わらないというの事を暗に示しているんですね。


マックスたちは、民主党の大物議員に接近して、労働問題を組合側について解決する役割を担っていた事が想像されます。


ヌードルスは、マックスのこのような政治への接近に反感を持っていたんです。


当人たちの思惑をはるかに超えた巨大な権力闘争が本作のバックボーンにある事をレオーネは匂わせてます。


しかし、オドネルやマックスたちを手下扱いしていた、マフィアの大物フランキーが何をしているのかを敢えてハッキリとは描いてないんです。


フランキーとオドネルが急速に接近したであろうことはチラッとだけ出てきます。

余談ですが、21世紀に入ってから、「私がホッファを殺した」という衝撃的な告白本が出版され、マーティン・スコシージがコレを原作とした映画がNetflixで『アイリッシュマン』というタイトルで公開されました。

 

主人公の殺し屋はデニーロが演じており、ジョー・ペシも出演しているので、明らかに本作へのオマージュがあるものと思われます。

 

閑話休題

 

とはいえ、本作はヌードルスとマックスの友情物語があくまでもメインであり、そちらには立ち入らないのが本旨ですね。

 

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そして、そこに、デボラという美少女/美女が絡んでくるという、ある意味、ベタと言っていいほどのドラマを大仕掛けに、見る側はトコトン酔いしれるわけです。

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青年期以降は、エリザベス・マクガヴァンが演じます。最近だと、『ダウントン・アビー』でグランサム伯爵夫人コーラ役が良かったですね。


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ヴィスコンティのような豪華なシーンがすごいですなあ。

 


正直申しますと、本作のサスペンスの部分は圧倒的な回想シーンによってそれほどたいした問題ではなくなっていって、途中でオチはある程度見えてしまいます。


そういう甘さがある作品なのですが、レオーネが見せたいのは、やはり、「かけがいのない、輝かしい少年時代の思い出」なんです。


ですから、青年期のサグ・ライフは一見豪華で、エロとバイオレンスの嵐ですけども、少年期よりも見劣りがします。

 

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マカロニ・ウェスタンのりありすてぃなバイオレンス、ヴィスコンティの豪華絢爛とデカダンス、そして、ベルトルッチマジックリアリズム的な表現、トルナトーレの『ニューシネマパラダイス』のような美しさ。という、イタリア映画のホラー映画以外のものが全部詰め込まれた、セルジオ・レオーネの人生の総決算のような作品です。

 

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チョイ役ですが、ダニー・アイエロ演じる、腐敗しきった警察署長が良いです(笑)。


ヴィットリオ・ストラーロと並びに称せられるイタリア人撮影監督、トニーノ・デリ・コリのクレーンを多用した移動撮影は映画という贅沢を存分に堪能させてくれますし、レオーネとは何度もコンビを組んでいる、音楽のエンニオ・モリコーネの音楽は彼の最高傑作の一つと言って良いでしょう。

 

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本作はDVDで最低2回は見て、映画館で酔いしれたいものです。

 

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