イングマール・ベルイマン『仮面/ペルソナ』
冒頭のアヴァンギャルドな映像の積み重ねからしてベルイマンの絶好調ぶりが伝わる作品。
「お芸術」や「お勉強」にベルイマンを祭り上げではなりません!
今見ても、どの作品もビックリするようなエグリが効いてますよ。
本作は、60年代らしいアヴァンギャルドな表現にベルイマンが果敢に挑戦したものですが、やっぱりベルイマンは格が違うという事がわかりますね。
いきなり、アニメーションの断片とかまで見せつけます。
この辺のセンスに脱帽ですね。
舞台は病院。
寒いぐらいに殺風景なセットが、とても不気味です。
美術が優秀ですね。
登場人物はたったの3人。
女優のエリザベット、看護師のアルマ、院長だけです。
公演中に言葉が出なくなってしまって、精神病院に入院したのですが、検査の結果は特に異常はない。
つまり、自分の意志でダンマリになってしまったのです。
『魔術師』という映画では、興行のハッタリのために、人前では口をきかない。というキャラクターをマックス・フォン・シドー(ベルイマン作品の常連ですね)が演じていましたが、今度は問題が深刻です。
ベルイマンの現代劇は、とても冷たい視点で描かれますが、この日作品はとりわけ寒いですね(笑)。
テレビ画面に映る南ヴェトナムの混乱。僧侶がアメリカに抗議をしての焼身自殺が思い切り写ってます。
これはRage against The Machineのアルバムのジャケット
アルマを演じる女優さんはほぼノーメイクですね。
それを解像度の高い白黒で撮影するので(スヴェン・ニクヴィストによる撮影です)、皮膚の表面が容赦なく映し出されます。
なかなかというか、完全にドSですね、ベルイマンは(笑)。
ペルソナ。というタイトルがこの辺りから示唆されますよね。
仮面を剥いで暴いてやるぞ。というベルイマンの意気込みですね(笑)。
女優を演じるリブ・ウルマンと看護師を演じるビビ・アンデションのアップ、アップ、アップの連続。
患者と看護師なので、ノーメイクです。
タフな現場ですね。
院長さんの判断から、彼女の別荘で過ごしたら?という事になり、エリザベットとアルマは別荘で生活する事になりました。
エリザベットはみるみるうちに、元気になっていきますが、沈黙は続きます。
要するに、延々と看護師さんが一方的にしゃべるわけです。
それで画面がダレないというすごさ。
ベルイマンは、やっぱり只者ではない。
もともと、登場人物を絞り込んで短い時間でまとめるという、凝縮的な作品はベルイマンは得意なのですが、本作は、それをトコトンまで行ってしまおうと。
見ていると不思議なのですが、延々としゃべってる看護師さんが患者に見え、それを黙って聞いている女優さんが医者に見えてくるのですよ。
コレ、事実上、看護師さんのカウンセリングになってるんですね。
面白い逆転ですねえ。
なかなかエゲツない思春期のセックストークまで出てきます。
「スウェーデン女性はエロイ!」という都市伝説は、まさか、この映画に源流があるわけではないですよね(笑)。
そんな思春期の自分の行いに罪悪感を持っていることを告白する場面は1つのまさかヤマ場です。
ペルソナ。の問題にいたるわけですね。
リブ・ウルマンの初セリフは、この看護師の告白の翌日に唐突にあるのでお楽しみに。
そこからですね、リブ・ウルマンという女優の凄みが出てくるのは。
この看護師の何気ない告白から、2人の人間関係がこじれてきますが、ココをシッカリと見据えてジックリと撮るのがベルイマンですね。
これに応える女優さんの2人もすごい。
コワイ事に、この2人、だんだん似てくるんです。
お話しの後半でエリザベットのダンナさんが別荘を訪れますが、アルマの事を、エリザベットと間違えてしまいます。
ココからは核心部分になるので書きませんが、人は誰しも「自分」という
「ペルソナ」を演じて生きることから逃げる事ができないというジレンマをココまで突き詰めて見せる映画もありますまい。
最後の2人のセッションは、とうとう自分と自分の対話となっていき、冒頭に出てくる少年の意味がここでようやくわかってきます。
コレがベルイマン作品初登場にして主演ですが、ベルイマンは、彼女を見た時にすぐに惚れ込んで、起用したそうですけども、ホントにすごい女優ですね、リブ・ウルマン。
ベルイマン組はみんな芸達者で驚きますけども、リブ・ウルマンは、マックス・フォン・シドーと並ぶ際立った存在ですね。
そして、それを支えるスタッフの優秀さ!
ベルイマンの白黒の美しさは、もう、別格!!
VHSの低い解像度の映像では、なかなかこの良さがわかりづらかったですけども、DVDになって、ベルイマンの映像のすごさがようやくわかってきましたね。
『第七の封印』や『野いちご』にも匹敵するベルイマンの傑作です。