リオン・ギャスト『モハメド・アリ かけがえのない日々』
原題は、『When We were Kings』。私たちが王だった時。ですね。
直訳の方がカッコイイです。
すでに歴史的事実なので書きますが、ヴェトナム戦争の徴兵を拒否した事でWBAヘヴィ級チャンピオンを剥奪されて逮捕もされたので、試合もできなくなっていたモハメド・アリとジョージュ・フォアマンのWBA, WBCの統一ヘヴィ級タイトルマッチ戦でアリが勝利して、復活どころか一挙にWBAとWBCの統一世界王者となった、いわゆる、「キンシャサの奇跡」に関するドキュメンタリー。
ちなみに言うと、復帰できたのは、連邦裁で無罪が確定したからです。
前夜祭として、アメリカとアフリカのミュージシャンが一同に集結したライヴが行われ、その後に統一世界戦を当時のザイール共和国の首都キンシャサでやろうという空前のイベントでした。
モブツ大統領がファイトマネー1000万ドルを用意したそうですが、独裁者というのは、豪快ですな(笑)。
ちなみに、モブツ大統領の悪行三昧を伝えるWikiはこちら。
モブツ大統領。
閑話休題。
実際は、フォアマン側が練習中にケガをして万全でなくなったため、試合は延期となり、音楽祭のみ行われましたが、この模様は同じ監督の『ソウル・パワー』という作品となっております(これも必見!)。
さて、延期された試合はやはりキンシャサで行われまして、それが本作なのですが、記者会見からアリは絶好調で、ずっとビックマウスでのパフォーマンスです。
ほとんどラッパーですよ。
実際のアリは、もう全盛期のスピードを失っているのですが、それでもクレバネスが尋常ではないのと、自身の身体の限界を踏まえつつ、そのための工夫と努力を一切惜しまなかった事が、とにかくすごい。
天才が自在に舞っていられるのは、せいぜい5年ですからね。
アリの考えた方法は驚異的で、フォアマンの驚異的なパンチをコーナーのロープを使って受け流してムダに打たせることでスタミナを奪っていくというもので、ヘタするとメッタ打ちになりかねない戦術でした。
その模様が練習シーンでも出てくるのですが、ちょっと唖然としますね。
とにかくですね、艶々とした黒人たちの祭典を見ているだけで、もう最高ですよ。
アリとマルカムX
アフリカの人々の輝きがこれまた素晴らしい。
ザイールの人々のアリへの熱狂的な空港での歓迎からしてもうすごいですよ。
ジョージュ・フォアマンのサンドバッグを打つ姿の恐ろしさ(笑)。
フォアマンはそんなにテクニカルなボクサーではありませんでしたが、一発のパンチがバケモノじみていて、コレでチャンピオンにまでなった、ある意味、典型的なヘヴィ級ボクサーでした。
コレに対して、戦略で勝とうというアリの闘い方は、ヘヴィ級のボクシングを変えましたね。
全盛期を過ぎたとはいえ、アリのように動けるヘヴィのボクサーなど世界には皆無でした。
しかも、アリは190cmあったので、身長も高いです。
そんな大男がものすごい素早く動いてカウンターをキメるというのは、ものすごいインパクトです。
結局、6週間も試合は延期となりましたが、アリは元気に画面の前で「アリ劇場」をやってます。
合間合間に挿入される、音楽フェスの映像がこれまた。
何しろ、JBにBBキングですよ(笑)!
アリに負けず劣らずビッグマウスなJBがカメラを向けられたら面白いに決まってるわけで。
『ソウルパワー』ではJBの映像はもっと多くなるので、コレを見た方は、コッチも見なくてはなりません。
また、このイベントを提唱したドン・キングとザイール政府のそれぞれの、文字どおりの「黒い思惑」がギラギラとしている場面も必見です。
モハメド・アリ、ジェイムズ・ブラウン、モブツ、ドン・キングが同じ映画の中に出てくるという、この、すごさですよ、畢竟(笑)。
それを見てると試合の事がどうでもよくなりそうになりますが、やっぱりすごいですよ、この試合。
偉大なボクサーでした。合掌。