圧倒的な大作!!
内田吐夢『飢餓海峡』
最近スッカリ見なくなりましたね、こういう字体。
水上勉の代表作と言ってよい小説の映画化。
始めた見たのは、VHSで、一般公開版のかなりカットしたバージョン(167分)でしたが、現在出ているDVDは、3時間バージョンでして(内田が完成させたのは192分)、改めて見直した次第です。
ものすごく全体が暗くてザラついた白黒に撮られていて、特に前半はまるで、オーソン・ウェルズの作品のようです。
SLのシーンとトランスしてるイタコの映像は、白黒映画芸術の粋ですね。
内田吐夢はサイレント時代から活躍する大巨匠のはずですが、白黒を反転させたりして、結構、サイケな映像にしたり、戦後直後の東京の歓楽街でのシーンを延々とクレーン撮影したりと、恐ろしくチャレンジングな映像を連発していて、驚いてしまいます。
内田はこの作品に全身全霊を捧げた。と言ってよいでしょう。
当時の東映の基本はプログラム・ピクチャーですから、90分くらいの映画が普通なのに、内田は、べらぼうなお金と時間をかけて、3時間越え(つまり、東映の感覚では三本だてを作ってしまったという事です)の大作を作ってしまって、東映内部は大変な事になったようです。
とまあ、余談はともかく、とにかく、圧巻としか言いようがない作品です。
今回見直して、更に感銘は深まりましたね。
日本映画というものを堪能するというのはこういう事だな。というのモノをトコトン味わわせてくれました。
本作への出演は相当な覚悟があったそうです。
特に伴淳三郎は、東北弁丸出しの喜劇役者として大人気でしたが、本作で演じられたしがない刑事役は、本当によかった。
ウザくて頭の悪い役をやらせたら天下一品の左幸子。
ホントにうまいですね、左幸子。
どこか人間的な弱さや陰を持ったキャラクターが見事な三國連太郎。
三國連太郎は戦後のあらゆる名監督に愛されましたね。
サスペンスの巧みさみたいな面白さを追求した作品ではなく(伴淳の刑事は特にキレ者でもありませんし、知能犯たちが完全犯罪やってるわけでもありませんので)、あくまでも、人間ドラマが主軸なのも本作の特徴で、そこが生々しいんですよね。
途中から、刑事として高倉健も出てきます。若いです。
なんということのない平凡な3人の奇妙な運命。
ストーリーは一切説明いたしません。
罪とは何か?悪とは何か?を考えされられる、とてつもない作品ですね。
三國連太郎は名前を変え、実業家として成功する。
前半のドロドロの映像、人間描写がすごいですが、やはり、見どころは後半ですね。人間ドラマの真髄でしょう。
こういうの見ると、映画を堪能したなあ。と心底思います。