単なるモンスター映画どころか韓国映画を代表する傑作!

奉俊昊(ボン・ジュノ)『グエムル

 


『パラサイト』によって、アジア人で初めて、アカデミー作品賞、脚本賞という主要部門を受賞しただけでなく、カンヌ映画祭パルム・ドールまでも受賞してしまったポン・ジュノですが、彼の名が、世界規模となったのは、本作からと見て良いでしょう。

 

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カンヌ、アカデミーを受賞し、今や世界の巨匠となったポン・ジュノ李明博朴槿恵政権のブラックリストに載っていたという、反骨の士でもあります。

 


『パラサイト』はソウルの厳しい経済格差を描いたことが注目されていますが、本作のテーマの一つです。


ソウルには漢江(ハンガン)という大きな河が流れていまして、ちょうど南北に街が分かれます。

 

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このように、ソウルの常に中心地が遠景です。

 


主人公である、朴一家は、その河岸で売店しており、その3人の兄妹と父親パク・ヒボンがメインキャストでして、ソン・ガンホ演じるカンドゥは、奥さんにも愛想を尽かされてしまうほどの男でうだつが上がりません。

 

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貧しくとも明るく生きる一家を、怪物が襲いかかる!


娘ヒョンソは中学生です。

 


次男ナミルは家族の中で唯一大学は出たものの、活動家だった事が災いきてか、フリーターです。


長女ナムジュはアーチェリーの選手です。

 

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唯一の戦力(?)ナムジュ。

 


本作はタイトル通り、怪物映画なのですが(グエルムとは韓国語で怪物の意味です)、舞台のほとんどが漢江の周辺のみで、ソウル市内はほとんど出てきません。


大事件のはずなのですが、パニックが起こっているのがどこか他人事のように見えます。


ソウルの中心部は朴一家の住む反対岸であり、高層ビルが遠くに見える。という構図で一貫して見せています。


この構図が既に、ソウルの厳しい経済格差そのものを視覚的に印象づけ、また、市内全体のパニックの様子が全く出てこないところに、制作費の問題で見せていないというよりもポン監督の演出意図を感じます。


また、コレはもう映画の冒頭で出てくるので、ネタバレでもありますから呆気なく書きますが、この怪物は、在韓米軍基地が、危険な化学物質をなんの処理もせずに漢江に流してしまった事が原因で誕生してしまいました。

 

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ゴジラが水爆実験によって誕生した。に比べるとインパクトはありませんが、明らかな在韓米軍批判ですね。


日本にも日米地位協定に基づいて米軍基地が日本の各地にありますけども、在韓米軍はなんと、ソウルの中心部に本部があります(現在は京畿道平沢市にある、ハンフリーズ基地に本部が移転しました以下は、映画公開時のソウルに本部があった話としてお読みください)。

 

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かつてソウル市内に広大な敷地を誇っていた、在韓米軍基地の本部。

 

 


ソウルは北朝鮮との国境近くにある事が原因であるのと、朝鮮戦争が未だに講和条約が締結していない事が本部がソウルにある根本原因ですが、つい最近まで、韓国軍の最高司令官は韓国大統領ではなく在韓米軍の司令官でした。


日本よりも遥かに米軍が存在する意味が重く、冷戦構造がほとんどそのまま温存されているのが朝鮮半島の現実です。


そんな米軍が生み出した怪物に翻弄される人々の話しという点が、明らかな米軍批判である事は明らかです。


しかし、ポン監督はそんな米軍に唯々諾々と従っている韓国の人々への批判がより強く、ワイロが常態化している役所への批判も込められいます。


と、本作の背景を書いていると、なんだかとてもシリアスな作品であるように思えてきますが、本作はむしろかなり喜劇として描いているところが見事ですね。


ポン監督は、シリアスな場面こそ笑えてくる。という事を描いている監督でして、コレは、彼の代表作の一つと言ってよい『母なる証明』でも一貫しています。

 怪物が何らかのウィルスを持っているらしいのですが、パク・カンドゥは無謀にもコレに襲いかかり、返り血を少し浴びてしまい、コレによって、カンドゥは感染者扱いされてしまうのですが、このあたりのドタバタぶりの描き方のうまさ。

 

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コレはコワイ!!しかしウマイ!

 


しかも、そんな状況で娘のヒョンソが怪物に食い殺されていたと思っていたら、カンドゥの携帯電話に微弱な電波ながらヒョンソから電話がかかってきました。

 

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ヒョンソが生きていた事から話が展開していきます。

 


朴一家は、この事実を政府機関の人々にも医者たちにも信じてもらえなかったので、病院を脱出して、自分たちで救出しようとするという、どう考えても無謀なお話しです。


シン・ゴジラ』が事件が会議室で進行していく話しであるのに対して、本作はドロドロの現場であり、しかも、ウィルスが蔓延しているという事で、誰も近づけない場所になってしまっています。


この、韓国の役所こそが信頼できない。自分の力で解決するしかいないという、ハリウッド映画にしばしば見られるような考えは、どうもポン監督作品に一貫してあるようです。

 

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ゴーストバスターズ』よりも無謀な装備です。

 


怪物のデザインはそんなにすごくはないんですけども、見せ方は本当にうまいですね。

 

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こうやって全体を見せない構図!『エイリアン』からの基本です!

 


ホラーというのは、舞台がものすごく限定されていた方が面白いです。


私は、『シン・ゴジラ』よりもこちらを強く推します。

 

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