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『仁義なき戦い』の原型。

ジッロ・ポンテコルヴォ『アルジェの戦い』

 

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ヴェネツィア国際映画祭でフランスの映画関係者のフランソワ・トリュフォーを除いた全員が激怒して退席したという、伝説の映画。

これが映画館で上映されるのは一体何年ぶりなのかわからないくらいですが、ようやく見る事ができました。

本作は、アルジェリアが1962年にフランスからの独立を勝ち取るまで描く、一大叙事詩でありまして、映画が上映されたのは1966年です。

しかも、撮影したのは、フランス空挺師団と独立運動組織FLNが死闘を繰り広げたアルジェで実際に撮影してるんですね。

要するにですね、出演者の人たちやそれを見ているフランス人には、ほんのすこし前に起こった歴史的な大事件で、実際、抵抗運動に参加していた人が、エキストラには、相当数いるんですよ(エキストラとしてアルジェリアの人々が6万人ほど参加したと言われています)。

イラク戦争の直後に、『バクダッドの戦い』などという映画を同じ手法で作ってカンヌ映画祭で上映したら、アメリカは大激怒しますよね。

それをホントにやってしまったのが、本作なのです。

 

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映画の全編に漂う、異様なまでの緊張感は、そういう事なんですね。

お話のスジはシンプルでして、『仁義なき戦い』のように1958年〇月〇日〇時まで特定するような時系列で、抵抗組織である、FLNの抵抗運動と組織の壊滅を極めて冷徹なタッチで描くのですが、この映画の手法に『仁義なき戦い』はものすごく影響受けてると思いますね。

 

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警官を無差別に暗殺!

 

ドライに主要な登場人物が死んでいくところや、FLNがしばしば行ったフランス人居住区を狙った爆弾テロの生々しさや、キャメラを敢えて粗っぽく撮影する手法などなど、直接的に本作の影響なのではないかと推察されます。

 

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幹部の1人、アリ。菅原文太のキャラクター造形に影響与えてると思います。

 

FLNの運動に対し、当初、フランス政府の対応は甘く、治安問題として、警察に対応させたんですね。

しかし、FLNは巧妙にネットワークを形成し、無差別に警官を暗殺するという作戦を行いました。

これに対して、警察は、FLNの根城も目されるカスバに時限爆弾を仕掛けて報復。

これに対して、空港、カフェなど三ヶ所にに爆弾を仕掛けて無差別にフランス人を殺害します。

警察は検問などを行って「テロリスト」を検挙しようとしますが、ザルザルな検問によって全く組織の構成員を検挙できません。

ついにFNLがゼネストを計画するに及んで、フランス政府は、エリート集団の空挺師団を派遣し、凄腕のフィリップ・マチュー中佐の指揮のもと、徹底して組織の構成員を解明し、そこから幹部の存在を明らかにして、存在の壊滅を開始します。

 

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フランス帝国主義の象徴、マチュー中佐。

 

この、マチュー中佐の狡猾で非情な作戦が功を奏して、組織はすこしずつ壊滅していくんですね。

スジとしてはシンプルであるし、歴史的事実として私たちはアルジェリアの独立を知ってますから、この話しが独立万歳!で終わる事も知ってます。

 

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 組織壊滅を目指す空挺師団!

 

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無駄な抵抗をやめて投降せよ!

 

しかし、問題は、この出来事が単なる「過去のお話し」ではない事は、近年、ヨーロッパの各地で起こっている無差別テロ(最早、テロと呼べるとだろうか?というのはものも含めてですが)の構図と、このアルジェリアで起こった植民地戦争は、あまりにも似ているんですね。

この映画にチラチラと出てくる、フランス人によるアラブ人への露骨な蔑視。

被植民地人として、アルジェリアの人々を明らかに「二級市民」として見なしています。

 

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容赦のない捜査!!

 

マチュー中佐が、マスコミに「貴方の捜査手法の過激さ(つまり、拷問を容認しているという事です)を批判する人たちもいますけども、どうなのですか?」と質問させるのですが、

アルジェリアにいることに『イエス』だと思うのなら、私の手法をとやかくいう筋合いなどないのだ」

極めて冷酷に答えています。

イラク戦争において、アメリカ軍がアルカイダに関係しているテロリストとして容疑者を大量に検挙し、なんと、キューバグアンタナモ基地の収容所まで護送して拷問を伴う尋問をしていた事が後に明らかになりますが、フランス軍がアルジェリア人にしていた事もコレだったわけです。

すでに、仏領インドシナで屈辱的な敗北をして、ヴェトナムなどの独立を許してしまい、国際的な地位を低下させていたフランスは、何が何でもアルジェリアの独立を阻止したかったのでしょうね。

何しろ、アルジェリアは石油が産出しますのでね(フランスが原子力発電に約70%依存するのは、アルジェリアを失ったからです。如何にアルジェリア独立がフランスにとって大きな出来事なのかわかりますでしょ?)。

 

空挺師団の容赦ない捜査に対し、FLNのテロもますます過激になっていき、とうとう、機関銃で無差別にフランス人を殺害するところまでエスカレートしてしまいます。

 

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追い詰められるFLN。左から2人目は、「アルジェの戦い」のホントの生存者です!

 

この抜き差しならないところになっている内乱状態に国連安保理があんまり機能していない事は、暗に批判されます。

1957年に主要な幹部は死去し、1954年11月から始まったFLNの抵抗運動は敗北します。

しかし、1960年に、アルジェの民衆が独立のための暴動を起こし、ついに本格的な内戦に突入してしまいます。

 

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民衆の怒りの爆発! 

 

映画は、その民衆の暴動を描くところで終わりますが、まあ、ものすごいド迫力に今見ても圧倒されますよ。

 

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異様な迫力です!

デモというのは、これくらいの決死の覚悟がないといけないのか。という事が映像からビンビン伝わってきます。

監督のジッロ・ポンテコルヴォはイタリア共産党に入党して、レジスタンス活動をしていたという、ホンマモノの闘士で(共産党は後に脱退してますが)、本作はこの凄惨な戦いの生存者であるヤセフ・サーディの記録に基づいており、かなり事実に忠実に再現している点に凄みがあります。

チラッとしか出てきませんがサルトルアルジェリア擁護の論陣を張ってある事を、マチュー中佐が密かに恐れている事が描かれているのも鋭いですね。

サルトルは、「五月革命」の擁護者にもなっていきます。

9.11のアルカイダによるテロ以降の混乱を考える上でも大変重要な作品であると思いました。

フランスの屈辱の歴史にして、アルジェリアの栄光の歴史であり、実は、そのキズは未だに癒えていない。という事実こそが更に恐ろしい事に気づかされる、今こそ見直すべき傑作。

 

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 「テロとの戦争」などに勝利することなどできない事を歴史が証明している。