アラン・パーカー『バーディ』
もう、もらっててもおかしくない監督だと思うのですが。
本作は、戦争映画ではあるのですがとてもユニークです。
少々風変わりな青年、バーディを演じるのは、マシュー・モーディンで、その親友をニコラス・ケイジが演じてますが、当時、2人とも無名だったはずですよね。
この2人のおバカな遊びっぷりがホントに可愛らしいですね。
青春映画としても、ホントに秀逸です。
ケイジは顔を負傷し、モーディンは精神を病んでしまうのですが、メインは深刻なPTSDとなってしまった、バーディとの再会がメインなのです。
『ディアハンター』もPTDSがテーマでしたが、本作はよりその問題を正面から見据えた作品です。
なので、戦闘シーンはほとんど出てきません。
ハッキリとは言ってませんが、明らかにヴェトナム戦争のお話しです。
モーディンは、この後、『フルメタル・ジャケット』という、凍りつくようなヴェトナム戦争映画の主演となります(必見)。
軍の精神病院に隔離されているバーディ。
受け答えもせず、食事を自分で摂ろうともしなくなってしまった彼に具体的に一体何があったのかは、余り明らかになっていません。
この、ほとんど状況説明をせず、包帯で顔の大半を覆っているニコラス・ケイジと、「鳥」になってしまったモーディンの寓話のように描く事で、より問題が普遍的になり、単なるナム戦争批判ではなく、戦争そのものの招く悲劇への静かな抗議となっていると思います。
戦争映画にもかかわらず、映画の大半は戦争に行く前の楽しいハイスクールでの生活なのが、逆説的に悲しい。
私は『アメリカン・グラフィティ』よりもはるかに面白く見ることができました。
こんな話し、あるわけないだろ。とか、そういう了見で見てしまったら、この映画から得るものは少ないでしょう。
なりたいものになれない、自由に生きる事の難しさ。それを許さない大きな政治のうねり。友情すらもズタズタにしてしまう無情。
こういう問題をこれほどデリゲートに優しく描く事のできる、アラン・パーカーは素晴らしい作家です。
ピーター・ゲイブリエルの音楽も素晴らしいですね。