タランティーノ流ハリウッド、ひいてはアメリカ史への鎮魂作品。しかも多幸感満点!

クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 

 

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ディカプリオとブラピが冴えないハリウッド人を演じます。

 

 


面白かったですねえ。

 


またしても3時間近い大作ですが、今回は『デス・プルーフ』のような二部構成になっていて、第1部が伏線で第2部が「シャロン・テイト事件」の顛末となっており、それぞれの一日(正確には3日間)を非常に丹念に描いています。

 


まず驚くのは、全編を横溢する、多幸感ですね。

 

 

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1969年というと、ヴェトナム戦争が泥沼化し、ロサンジェレスやサンフランシスコなどの西海岸はヒッピーだらけみたいな陰鬱な描き方がこれまでは多かったと思いますけども、タランティーノは、タイトル通りの「古きよきハリウッド」の甘い物語として描いています。

 


その多幸感の象徴するのが、シャロン・テイトなんですよ。

 

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マーゴッド・ロビーの素晴らしさ!

 


彼女を演じるマーゴット・ロビーが見事に演じきりましたね。

 


登場シーンはそれほど多くないんですけども、ホントに印象に残りますね。

 


アカデミー助演女優賞取れるかもしれません。

 


タランティーノはカンヌでパルムドールを受賞してますので、オスカーが取りにくくなってますけども(コッポラはどちらも獲ってますが、アカデミー作品賞が先ですし、1970年代で、アンチ・ハリウッドが元気だった頃ですから、ちょっと特殊です)、コレは助演女優賞いけるかもしれません。

 


作品賞、監督賞はノミネートされるかな?どうかな?というところでしょうか。

 


この時代を描いた映画は、1970年代にオルトマンやチミノなどありますけども、時代が近すぎてどうしても苦い味わいになってしまいます。

 


それは、別に悪い事でもダメな事でもないんですけど。

 


この時代でしか出せない苦味が画面にちゃんと焼き付いていて、それが時代の証言となってます。

 


タランティーノは、この時代のもつ苦味をようやく甘い思い出に昇華したんですね。

 


それはヴェトナム戦争という苦悩への1つの供養なのだと思いますし、コレだけ時間がかかったんですね。

 


コレは奇しくも2019年現在放映中のNHK大河ドラマ『いだてん』にも言える事かもしれません(本作を2020年の東京オリンピックのプロバガンダと見るのは誤りです)。

 


マクインやイーストウッドのように、テレビドラマからハリウッドスターになれず、映画で悪役ばかり引き受けて、低迷している俳優をディカプリオ、彼の専属スタントマンをブラピが演じ(実際、ハリウッドにはそういう人がいるんだそうです)、この2人が映画を駆動させているんですけども、オルトマン作品のように、中心からはズレたところにいます。

 

 

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イタリア映画に出演しないか?と話を持ちかける、アル・パチーノ演じるプロデューサー。

 


何しろ、やや落ち目の役者とその専属スタントマンですかね。

 


シャロン・テイトはまるで天使のようにお話しの中で空を舞っているような存在でそこにブルース・リーも絡んでくるんですね。

 

リーのシーンに遺族がクレームをつけているんですけども、当時のハリウッドでアジア人が生きていくには、相当大変な事だと思うので、あれくらいビックマウスだったのではないかなあ。

 

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ビックマウスを叩くだけの実力が実際にありましたし。

 

さて。

 

やはり、本作はこのことに触れざるを得ませんね。チャールズ・マンソンです。

 

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劇中のチャールズ・マンソン。実際のマンソンは、獄中で2017年に亡くなりました。

 

 

1960年代アメリカの暗部であり、日本で言えば、オウム真理教による一連の事件とも対比できるような、チャールズ・マンソンとその信奉者、すなわち、マンソンズ・ファミリーによる、1969年に起こった、シャロン・テイトの惨殺事件(これは史実ですから、ネタバレではありません)は、ある程度は知っておいた方が本作は楽しめます。

 

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マンソンズ・ファミリーをハリウッド映画で描いたのはコレが初めてでしょう。

 


手法としては既に『イングロリアス・バスターズ』で行われてはいますけども、シャロン・テイトへの供養という意味で、本作の持つ意味はより深いものがあります。

 


ロマン・ポランスキ監督(当然ながら本作に登場します)も本作を見て喜んでくれているのでは(注・怒ってるらしいです・笑)。

 


タランティーノ作品はある意味、何らかのオマージュだと思うのですけども、本作はそれが彼の個人史とアメリカの歴史の接合と昇華という形に深化した作品であると思いました。

 


また、それほどヤマがあるわけでもないにもかかわらず、3時間近い長さをシンドく感じさせない作りも、作家としての成熟を感じられます。

 


是非、映画館でご確認を。

 

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