今見ると、むしろ現実がこれに近づいている気が。

マーティン・スコシージ『タクシードライバー』

 

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このオープニングの映像が素晴らしい!

 

久しぶりに見ました。

最近のスコシージの作品は特に見る気は起きませんが、コレはホントにインパクトのある作品でしたたな。

今考えてみると、ヴェトナム戦争によるPTSDを描いた作品なんですよね、コレ。

冒頭の雨降る中をタクシーか真夜中のニューヨークを写した映像の美しさが素晴らしいですね。

ココにアルト・サックスソロがフィーチャーされた曲がかぶるのですが、ココがヘタすると1番好きかもわかりませんね。

恐らくは戦争体験が関係していると思いますが、不眠症になってしまったロバート・デニーロ演ずるトラヴィスは、夜も平気なので、ニューヨークでタクシードライバーになります。

 

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 ヴェトナム戦争から帰還した現実は厳しかった。

 

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休みの日にポルノ映画に行くくらいがトラヴィスの楽しみ。

 

26。という設定が今ではオドロキですよね。もっと年齢が上に見えます。

20代前半であの地獄を味わうという事は、もう一生忘れる事はできないでしょう。。

大統領選挙に立候補したパランタイン上院議員の事務所で働いている女性、ベツィ事が気になって、ヴォランティアしたいとかなんとかでまかせを言って、彼女に接近します。

 

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しかし、いかんせん、高校をドロップアウトしたような海兵隊出身者と選挙事務所で働いている大卒の女性では会話が今ひとつ噛み合うはずもなく。

 

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しかも、映画に誘うのですが、ポルノ映画(しかもイタリアのとりわけエグイやつです)に誘うという感覚。

まあ、どうしようもないですよね。。

スコシージ監督が黒人と不倫をしている奥さんを殺す。とトラヴィスに告白する男を演じているのですが、コレがイイですね。

 

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左がスコシージ監督。

 

とにかく、当時の荒んでいるニューヨークがやや戯画化されてスケッチ風に描写されているわけですけども(通りに売春婦がめちゃめちゃいますよ。多分、ホンモノを撮っているのでしょう)、そこで出会った、当時13歳のジョディ・フォースター演じる売春婦との出会いがこのお話しをあらぬ方向に変えていきます。

 

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 天才子役であったジョディ・フォースター。

 

ジョディ・フォースターは後にアカデミー主演女優賞を受賞しますが、もうこの頃からものすごい才能を発揮していますね。

70年代後半にニューヨークはパンクなどの強烈な音楽が生まれる事になりますが、この映画は、そういうエネルギーが弾ける直前を見事に表現していて、そういう意味で、本作は、パンク映画と言ってよいのではないでしょうか。

スコシージ本人は、ブルースとザ・バンドみたいなロックやジャズが好きな人なので、パンクなんて大嫌いでしょうけども、この頃のニューヨークを舞台にアタマのおかしくなった男が暴走する映画を撮れば、それはどうしたってパンクになってしまいますよね。

音楽がバーナード・ハーマンというヒッチコックとのコンビなどで大変見事な仕事をした人が担当しているんですけども、あのヒッチコック作品のイメージからすると、名前を伏せたら彼音楽とは分からないかもしれません。

正直、もう「過去の人」になりつつあるハーマンを起用したのは、スコシージが熱狂的なシネフィルで、ヒッチコックを溺愛していたからなのだと思いますが、ハーマンの仕事は、全盛期に匹敵する見事な仕事ぶりで、これが遺作です。

なんと、サントラをスタジオで録音して数時間後に亡くなったそうです。

ハーマンお得意の分厚いストリングスが作り出す不協和音が、アルトサックスの美しいソロへとつながっていくサントラは、70年代の映画でもベスト3に確実に入る傑作で、私はついついサントラも買ってしまいました。

この映画のコワいところは、なぜ、トラヴィスが突然たくさんの拳銃を購入して、身体を鍛え始めるのかが余り明確に説明していないことですね。

 

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妙に生き生きしだすトラヴィス

 

身体を鍛えて銃を撃つ訓練を始めたトラヴィスがこれまでのドンヨリとした表情から、妙に生き生きしてきているのが、なんともコワいですが、ニコニコしている人がコワい。というのは、デニーロが後に得意とするところではあります。

You talkin' to me ? と言いながら、自宅で袖に仕込み銃を隠しているのを何度も出すシーンはまことに異様です。

 

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You takin' to me ?

 

この映画、今見ると、突然単独で自爆テロや無差別に銃を乱射するテロリストの心理を描いているようにも見えますよね。

ハッキリ描いてませんけども、ヴェトナム戦争海兵隊員として戦い、名誉除隊しているにもかかわらず、彼がやっている仕事はしがないタクシードライバーです。

その不条理と社会へのルサンチマンは、現在の欧米に生活するムスリムの人々と変わらないでしょう。

それがなぜか、三島由紀夫もビックリな肉体改造になっていくのが、トラヴィスの異様さです。

軍隊生活の緊迫感がないと落ち着かなくなっているのでしょうね。

そういえば、顔色が良くなっているということは、不眠症も改善しているのでしょう。

 

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こんなデカい拳銃が手に入るというのはどうなんでしょうね。。

こういうトラヴィスのような男は、イラク戦争でも生み出されているらしく、多くの殺人事件が実際に起こっているという、ショッキングな報告があります。

奇しくも、本作も大統領選中のお話しというのが、これまたコワいわけですが。

このトラヴィスの暴走ぶりというか、パンクぶりが本作のヤマ場なのですが、それは見てのお楽しみです。

それにしても、70年代の最も治安の悪い頃のニューヨークのロケーションがとにかく見事で、これとバーナード・ハーマンの全盛期を思わせる素晴らしいサントラが本編の価値を相当に高めたことは、間違いないでしょう。

今見直すと、アメリカがこの頃から今日に至るまで、ドンドン荒んでいってることがよくわかる作品です。

 

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 脚本を担当したポール・シュローダーは後に『Mishima』を撮ります。

ミシマも身体をムキムキに鍛えて自衛隊の駐屯地を襲撃したわけですが。。