イェジィ・スコリモフスキ『エッセンシャル・キリング』
名前は知っているけど、作品は見たことないですね〜。の頂点に君臨すると思われる、スコリモフスキの今のところの最新作。
ロマン・ポランスキらと「ポーランド・ヌーヴェルヴァーグ」を担った気鋭の監督だったのですが、共産党の独裁体制に反対して亡命して、ジプシー監督になってしまった。という経歴が、彼をワイダ(ポーランドにとどまって反骨を貫く)やポランスキ(アメリカに亡命して、ハリウッドで大成功する)と比べてわかりにくい人にしてしまった感はあります。
残念な事に余程の好事家でないと、スコリモフスキの作品を隈なくみる。ということは、2016年の現在でもなかなか困難であるという事も由々しき問題です。
DVD-BOXをいきなり買う。しかも、よくわからない監督の作品の。というのは、いくら映画好きでも躊躇してしまいますね。
ということで、近年のTSUTAYAなどで容易にレンタルできる所から見てみようという次第です。
なんと、ヴィンセント・ギャロが主演なんですね(一切、予備知識なしです)。
しかも、タリバン政権と米軍の戦いとは。
タイトルからは、全く想像できない内容です(まだ、アメリカではイラク戦争とアフガン侵攻を総括できる状況ではないですね。『アメリカン・スナイパー』のような映画がバカ当たりしている所からして、まだまだだよなあ。と思いました)。
ヴィンセント・ギャロが演じているのは、なんと、タリバン兵。
ミサイルの爆音で鼓膜が破れてしまって、耳が聞こえなくなり(彼の主観映像になると終始、キーンという音が入ります)、よって、通訳付きで尋問されてもなにも答えられない、即ち、セリフなし。というかなり特異な役柄です。
捕虜として護送されているギャロの車がイノシシを避けようとして横転。
車から投げ出されて運良く逃げおうせてしまったギャロ演じる逃亡劇が本編の中心で、要するに登場人物はほぼ1人。
しかもセリフなし。というかなりの異色作です。
追跡している米兵たちには一切キャラクターが与えられていません。
そういえば、ポランスキが世界的に認められるキッカケとなった『水の中のナイフ』も、船の上という、極めて限定された空間と登場人物のお話でした。
話しの途中でようやく分かってくるのですが(人里に近づいているわけです)、ギャロがアフガにすたんから空輸で護送されていた場所は、ポーランドだったんですね。
ポーランドの雪山を逃げ回っていたと(笑)。
耳も聞こえず、一体どこかもわからず逃げ回るという、絶望的なお話しなのですけども、そこを耳の聞こえないアフガニスタン人が彷徨っているという、相当不思議なシチュエーションの凄さが勝っていますね。
ベテラン監督とは思えないチャレンジングな映画です。
コレ以上書くと面白くないと思いますので、ギャロがどうなるのかは見てのお楽しみということで。
ギャロの身体を張った演技は相当なものです。