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ほとんど奇跡のような名作

ヴィクトル・エリセミツバチのささやき


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同じスペインでも、ブニュエルとはえらく作風が違うものですが(笑)、多作のブニュエルに対して、長編をわずか3作品しか撮っていない(21世紀になってからは、短編を数作しか撮っていない)稀代の寡作家である、ヴィクトル・エリセの長編第1作。

独裁者フランコが年老いて力を失いつつあった1970年代前半に、厳かに本作は発表されたが、エリセの語り口は、実に慎ましく、繊細で、セルバンテスからの伝統と言ってよい、虚構と現実の境界の危うさをやはり見事に表現しておりました。

スペイン内戦のキズを仄めかしながらも、それはあからさまには描かず、敢えて深入りしないことで、キズの深さを伺われせるという手法は見事ですね。

フランス映画社のBOWシリーズのVHSで見て、リバイバル公開でも見て、とにかく好きでたまらない作品が今度はブルーレイでも見られるというのは、この上ない喜びだが、この作品がうまいなあ。と思うのは、映画の使い方。

田舎は娯楽が少ないですから、子供にとって、映画の上映会というのは、今では考えられないくらいの楽しいイベントであったと思いますが、あのボリス・カーロフが怪物を演じている、『フランケンシュタイン』というのがいいですよね。

子供たちが見ることを想定しているのでしょう、スペイン語の吹き替え版になってますよね。

狂気の科学者が生み出してしまった人造人間。が、権力というもの、それが生み出す戦争などの暴力を暗示しているようですが、エリセは、一切断定しません。

この『フランケンシュタイン』を必死になって見ている子供たちの顔を映し出すエリセのやさしさ。

アナ・トレントの目の余りに澄んだ美しさに驚いてしまう。

あれはもはや演技というものではありませんね。

子供たちの姿が余りにも自然に撮られていて、本当に驚いてしまいます。

カメラというものを子供達にほとんど意識させないようにするまで、どういうことをエリセはしたんでしょうね。

それにしても、ロケーションが素晴らしい。

この極端に孤立した村は、何だか現実感を見るものに乏しくさせますが、あたかも、フランケンシュタインの怪物が住んでいる不思議な村であり、そういうおとぎ話である事を仄めかしているようです。

不幸そうな家族には見えないのですが(結構な資産をもった地主のように見えます)、妙にガラン。としていて、家族が和気藹々としているシーンが全くなかったり、他の子と遊んでいるシーンがないというのも、とても示唆的ですね。

村の中でなぜかこの一家が孤立しているのです。

エリセは、なぜそうなのか。という肝心な事を一切語りません。

おねいちゃんのデマカセが、女の子の妄想を膨らまし、独裁政権における弾圧という現実と映画中の怪物という虚構が、女の子の中でないまぜになっていくという語り口のうまさ。

自然光を生かした映像の素晴らしさも特筆すべきものでしょう。

実にユニークかつ慎まし一切語り口をもった名作。

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