コレもよかった!
原恵一『百日紅』
杉浦日向子のマンガの映画化ですがとても不安でした。
杉浦の素晴らしい原作を台無しにしやしないのか。という不安ですよね。
しかし、監督の名前をちゃんと見てなかったんですね。
ファザコンのお栄。親を「鉄蔵」と呼び捨てにする。自分の作風を確立しようと悩んでいる。
原恵一。と言えば、あの『クレヨンしんちゃん』の映画版の名作、『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の監督です。
よほどの覚悟があっての杉浦作品への挑戦であるとすぐに思いました。
しかもその挑戦は全く無謀でもない。
杉浦作品の素晴らしさもまた、「細やかな日常描写」なのであり、まさに原が『戦国大合戦』で私たちに見せてくれた世界なのですよね。
原監督は、『クレヨンしんちゃん』での挑戦を更に深めるために、敢えて最も険しい作品に挑んだのでしょう。
それだけ、やり遂げたい意欲が満ち満ちていたのでしょうね。
葛飾北斎を中心とする人間模様。と、言って仕舞えばたったそれだけのことを浮つくことなく丹念に、しかし、重くならずに描けると言うのは、やはり、並ではありません。
北斎とお栄。ゴミ屋敷です。
北斎やお栄の「絵の世界」、盲目の少女、お猶(北斎の娘です)の「音の世界」をさりげなく対比させる巧さ。
決してベタベタやナアナアにならず、行きすぎてカサカサにもならない人間描写だけで全く飽きがこない。
北斎と離縁した元妻。北斎の余りにアナーキーな生活に逃げ出しただけで、交流はある。
そういうリアリズムと叙情の見事なバランスに、気持ちいいファンタジックな描写が生きるんですね。
監督の人間を見る目の優しさが一貫しています。
妹のお猶。
確かな時代考証も素晴らしい。
細かいところに行き届いた描写。
なんちゅうか、ホントにうまいですよ(笑)。
コレがお栄こと、葛飾応為の絵です。ものすごく凝った技法で描いてますねえ。
没年すら定かではなく、北斎研究が進んでいった事で浮上してきた北斎応為を主人公に据えた原作の素晴らしさをここまで、映画というものに仕上げてしまう原恵一の才能は、まさに日本の宝だと思います。