『男はつらいよ』に接近した異色作。

鈴木則文『突撃一番星』

 

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『トラック野郎』の第7作目。

実は結構異色作でして、今までは必ず、ボルサリーノや子連れ狼のようなライバルのトラック野郎が出てくるんですが、この回は出てきません。

 

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 せんだみつお(笑)。

 

その代わりに、せんだみつおや川谷拓三がその役に近いことを分担して行います(2人ともトラック野郎ではありません)。

 

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なんと、真珠の研究をしている川谷拓三!

 

マンネリを打破しようとしているのでしょうか、冒頭にUFOが出てきます(笑)。

 

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飛びます!

 

当時、『未知との遭遇』大ヒットしたり、多分、ユリ・ゲラーの超能力ブームだったこともあり、鈴木則文は、とにかくサービス精神の塊なので、すぐに飛びついて、本作に取り込んでしまったのでしょう(笑)。

マドンナ役は、イルカの飼育員の原田美枝子ですが、圧倒的存在感愕然あるのは、樹木希林です(一応、イルカを研究しているのです・笑)。

 

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樹木希林は若い頃から異彩を放っていた。

 

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 健康的なエロスを放つ原田美枝子

 

当時の彼女はかなり若いと思うのですが、もうすでに怪優としての存在感は生半可ではありません。

今回の舞台は三重県の志摩と岐阜県の高山です。

全体的に人情話のトーンが強く、いつもよりおとなしめですけども、そのかわりドラマがとてもよくできていて驚きます。

とはいえ、相変わらずのお下品なエロと笑いは健全です。

この路線をやり続けていたら、もしかすると、『男はつらいよ』のような長期シリーズになった可能性もあった、ある意味、転換期となった作品。

 

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雑な作りが返す返すも残念!

山口和彦『女必殺拳』

 

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志穂美悦子の名を世に知らしめた、「女必殺拳シリーズ」の記念すべき第1作。

監督が鈴木則文と思っていたら、彼は脚本のみで参加してるんですね。

千葉真一率いるJACの名の名声を「サニー千葉」とともに世界中に轟かせたの功績は決して小さいものではありません。

志穂美悦子のアクションがガチですごいのは、もうオープニングで充分証明されてますので、是非とも。

 

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それにしても、中国に返還される前の香港はいいですよね、怪しくて。

『Gメン75』の特別番組でも、やたらと香港ロケがあったような気がしますけども、そういう、「エキゾチズム」を身近に感じさせる都市でした。

ただし、本作では香港ロケは一切ございません!残念!

志穂美悦子の兄は、「セントラル貿易」という会社が行なっていると思われる麻薬密売の捜査のためにGメンとして東京に行ったのですが、行方不明になってしまいました。

 

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 兄の行方不明を伝えられる志穂美悦子

 

なぜか、拳法の使い手をたくさん養っている貿易会社なのが不思議なんですけども、昔の娯楽映画は、そういう敢えて脇が甘くできているところが素晴らしいですよ。

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ご覧ください!このバカ煽り!!

 

ストーリーはですね、どうって事はないんですよ(笑)。

それは悪口ではなくて、そこにそんなに力点はないんです。

もう、志穂美悦子の素晴らしいアクションを見て欲しいんです。

 

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ヌンチャクの見事なさばきを見よ!

 

身のこなしが生半可でなさすぎて、もう振り切れてます。

中国人と日本人の混血という設定も要するに拳法の使い手。という事にしたいが為のご都合主義なのであって、特に意味もありませんし、演技もさしてうまいわけではない(後に、アクションから演技派にシフトしていきますが)。

というか、そこを千葉真一鈴木則文も求めていなくて、その初々しさ、演技ではないアクションの純粋な素晴らしさを彼女に体現してもらいたかったんだと思います。

彼女の身体能力は、ちょっとやそっとの特訓などで身についたものではなく尋常なレベルではありません。

ちょうど、フレッド・アステアダンスをトコトンまで極めたのと似ています。

当然の事ながら、千葉真一のアクションも出てきますので、ご安心を。

 

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都合のよいタイミングで現れる千葉真一


なので、撮影もアクション以外はかなりボヤッとしていて、テレビの『仮面ライダー』くらいのクオリティではあります(笑)。

その点で、ジャッキー・チェン主演のカンフー映画と比べると、見劣りする所があります。

未熟な拳法家のジャッキーが老師匠にしごかれて敵討ちをするという決まりのストーリー展開ではあるんですが、その話しのディテールの詰め方が、シッカリしてるんですよね。

この点が、スッカリ斜陽になってしまった、当時の日本映画の厳しい現実ではあるんですけども、それでも藤田敏八などはそれを逆手に取った映画を撮ってますからね。

しかし、彼女を後継するようなスターは未だに日本には存在しない事を考えると、志穂美悦子の日本映画史における凄さがわかるというものです。

現在は、長渕剛の奥さんとして、芸能界を引退してしまいました座が、その決して長くはない芸能活動において、刻印した強烈な映像は今以て強烈なインパクトを与えます。

鈴木則文が自ら撮っていたら、もっと長くて面白いシリーズになった可能性があるんですけども、当時、「トラック野郎シリーズ」があったので、ホントにもったいないですね。

 

追伸

この作品に出てくる「少林寺拳法」は、日本で生まれた拳法です。念のため。

 

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鈴木則文が今ほど求められている時代はない。

鈴木則文『桃次郎男一匹』


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テーマ曲は阿木燿子と宇崎竜童のコンビ

https://youtu.be/S2X0P4TuE44


おなじみ、『トラック野郎』第6作目。

以前も同じ事書いてますけども、このシリーズはどこから見てもいいですし、全部面白いです(笑)。

今回の舞台は佐賀、鹿児島が中心。

マドンナは、なんと、夏目雅子!まだ20歳です!!

 

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毎度おなじみの桃さんの主観から見たマドンナ(笑)。


唐津藩の剣術師範の家柄にして、の剣道の腕前という設定になっており、相変わらず桃次郎と釣り合いが全く取れておりません。

桃さんは調子こいてマドンナと剣道の稽古したら(地質学者です!とか、またしてもデマカセを言ってますが・笑)、夏目雅子にシコタマ打ち込まれると、桃さんはなぜか山に篭って剣術修行をして悟り(?)を開いたのですが、遭難します(笑)。

 

 

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若山富三郎に襲いかかろうとする菅原文太。自分たちのやってきたやくざ映画すらギャグにしてしまう素晴らしさ!

 

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若山富三郎菅原文太が殴り合うとか、なんちゅうおおらかな時代でしょうか。

それを偶然助けたのが、同じトラック野郎の若山富三郎で、あだ名は「子連れ狼」(笑)。

ちなみに彼は夏目雅子の義兄という無茶な設定です。

もう、いちいちサービスが満天で、笑わせ、泣かせのタイミングがもう絶妙です。
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当然、ト◯コのシーンもございます。


ベタなフィルムと音楽の早回しとか、若山富三郎の当たり役をそのまんまあだ名にしてみたり、チョイ役がいちいちツボ。

 

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マチャアキもチョイ役。桃さんを30日免停にしてしまう。


ギャグ、ラブコメ、アクション、人情もの、ホームドラマがたったの90分にぶち込まれた、いわば、遊園地(もう死語に近づいてますが)のジェットコースターに乗っているような楽しさです。

 

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ジョナサンの大家族も今回は出番少ないですが出てきます。桃さんの隣にいる女性が誰なのかは見てのお楽しみ。

明らかに『男はつらいよ』のアンチテーゼとして作られた、お下品映画なわけですが、「男はつらいよみたいに長く続けるのはよくない)との菅原文太の一声でシリーズは10作という区切りの良いところで終わってしまったんですが、だからこそ、レギュラー、スタッフ陣の全盛期を遺すことができたのは、むしろ、幸いであったでしょう。

 

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唐津くんちのシーンもあります!

 

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そして危険きわまりない、モチの早飲み競争!


もう、こんな痛快な映画を日本は作ることができないのでしょうか?

菅原文太とキンキンがのびのびと大暴れしている姿を是非ともご覧ください。

 

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復活の日

片渕須直『この世界の中心に』

 

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楠公飯を食す名シーン。

 

見てから読むか、読んでから見るか。

は、角川映画が生み出した最高のキャッチコピーであるが(そして、どれだけの人を失望させたのか)、私は、「読んでから見る」を実践しました。

よって、本作の評論は必然的に原作と映画の双方について論じることとなります。

こうの史代の原作である、「大正/昭和〇〇年〇月」という、1話完結のスタイルは、とはいえ、時間は不可逆的に、ある意味冷酷に悲劇に向かって進んでいくのだが、その原作のテンポ感は、映画に於いてはかなり損なわれていると感じられました。

なんとなくせわしなく、情報過多なのですね。

原作のもつ、豊富な時代考証などを取り込みたかったのと、できうるだけ原作のエピソードを取り込みたかったの事が見ていて痛いほどわかったが、私はもっとカットすべきであったと思ったし、情報ももっと捨てるべきであったと思いました。

本作の決定的な問題は、映画という放映の仕方が、原作のあえて、現実のすずたちの日常のホンの一部をかいつまんで、まるで日記を垣間見るように淡々と描かれた味わいが決定的に削がれていると思いました。

私は、できる事なら、1話完結のドラマ形式に作り変えたら、本作の感銘はもっと上がると思う。

あのラストに登場する子供の出現が、どうしてもわかりづらいのが、私にはとてももどかしかったのです。

とはいえ、このような瑕疵をはらみながらも本作クオリティは、近年見た映画の中ではトップクラスです。

この映画を見ていて思い出されたのは、ヴィクトル・エリセミツバチのささやき』という傑作ですが、少女がスペインの内戦と映画『フランケンシュタイン』というフィクションがごっちゃになっちゃになっていくという、厳しい現実を人がなかなか受け入れられないという事を実に繊細に描いていたのですね。

本作で際立つのは、やはり、すず。という、ファンタジックな事にアタマを奪われがちな少女(結婚しているとはいえ、内面はほとんど少女のまんま。というのが、本作のキモです)の声優を演じたのん(aka能年玲奈)の存在が大きいでしょう。

 

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 この、主人公すずのほのぼの感が見事。

 

戦争。という厳しい現実を描きながらも、どこかファンタジックで、水木しげるのマンガのようなとぼけたユーモラスさに満ちているのは、その優れた作画や美術のスタッフの力によるところが大きいでしょうけども、そこにのんという画竜点睛があったればこそだったのではないでしょうか。

 

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このすずの生き方をポジティブ。と見るのは、あまりに表面的であろう。

 

奇しくも彼女が大スターになるきっかけとなったのは、東日本大地震の前後を描いた素晴らしいファンタジーである、『あまちゃん』でありましたが、その後の諸事情による活動の停滞を遂に打ち破ったのが、まさかの本作だったというのは、驚くほかありません。

原作と大きく違うのは、兵器や戦闘シーンの描き方で、やはり、男性の監督ですので、ここがリアリズムになりますね。

 

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戦艦大和を精緻に描く。

 

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原爆投下前の広島を再現した美術も秀逸。

 

原作はここをそんなにリアルには表現していません。

その代わり、ラストの伏線になるすずが妊娠できない原因や遊郭で働く女性との交流とその悲劇が丁寧に描かれています。

また、連載ならではのいろいろな原作に於ける脱線は、どうしても映画で表現することは困難であったと思われます。

インターネットの情報によると、現在公開されているものは、止むを得ず30分ほどのカットしてしまったもののようで、今後の興行収益如何では、ノーカット版の上映もあるかもしれないそうです。

あまり、映画の原作を読むようなことはわたしはしませんが、本作は何よりも原作がものすごく傑作ですので、両方ご覧になる事を強くオススメいたします。

できうれは、1話完結のアニメに作り直していただけると、完成度が100倍ほど上がると思われるのですが、ご再考願えないものでしょうか。

 

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2人は結婚しているはずなのに、原作以上に青春恋愛ものを感じさせる

 

 

 

 

今見ても驚いてしまう傑作アクション西部劇

ハワード・ホークスリオ・ブラボー

 

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すごい。

冒頭4分間一切セリフなしで、お話しの構図を全部説明しつくしてしまう圧巻の編集とカメラワーク!

別に派手な動きは一切ないのに、なんですかね、このカッコよさ。

アル中で文無しフラフラのディーン・マーティン(なぜそうなったのかはお楽しみに)が酒場をフラついていて、コレを見た男がカネを恵んでやろうとするが、痰壷に放り込んでニヤニヤしている。

 

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アル中で萎えてしまったディーン・マーティン

 

それでも酒の飲みたさに痰壷に手を突っ込もうとするのだが、痰壷を蹴り飛ばす足が。

パッと見上げるようなショットで保安官のジョン・ウェイン

カネを放り込んだ男は、いきなりウェインを殴り倒し、男に襲いかろうとする者を早撃ちで射殺。

男はそのまま店を出て、何軒か隣の酒場に入って飲み直す。

そこにライフル銃を持ったジョン・ウェイン

「お前を逮捕する」

ここで初めてセリフ。

ほお、できるんですかい?と男は笑う。

彼のシマなのだ。客は全員彼の手下なのだ。

 

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写真ではこの素晴らしさが伝わらない!

 

そこにディーン・マーティンがスッと入ってきて銃を奪ってウェインをサポート。

ウェインはすかさず頭目をライフル銃で殴り倒して逮捕。

こうして、ウェインとマーティンのコンビが誕生(実際は復活)です。

この冒頭からシーンの手際の良さは余りにも神がかっていて、とても1959年の映画とは到底思えないです。

なぜ、ハワード・ホークスゴダールトリュフォーが熱狂的に擁護していたのかは、この冒頭だけでわかってしまいます。

さて。

この逮捕された男は、ジョー・バーデットといって、兄のネイサンは大地主です。

ネイサンはこの逮捕に一切抗議せず、手下を潜入されて街を遠巻きに監視しているのです。

このお話しが一筋縄ではいかないのは、このネイサンは広大な牧場を経営する金持ちなんですね。

要するに、カネの力にモノを言わせて、自分の言い分を通そうとしているんです。

およそ法治国家のありようとは思えないような実態ですが、20世紀の初頭まで、アメリカはこんな国でした(笑)。

『シェーン』にしても、土地問題を解決する手段は結局は拳銃による実力行使です(これはワイオミング州で起こった実話がベースになっているんですね)。

こういう世界において「正義」を確立するという事はどういう事なのか?というのが、アメリカの歴史であり、西部劇から刑事もののアクションに至る、アメリカ映画(最近だと、ジャック・バウアーという事になるでしょう)の普遍的なテーマです。

要するに、正義が行政組織とか、企業とかにないんですね。

オレが正義なんです。

 

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常に連発式のライフルで武装しているウェイン。

 

ここでは、ジョン・ウェインという保安官がそれを体現していて、誰がなんと言おうと、彼は自分の正義のために断固として行動するわけです。

コレをアメリカ人は、是。と考えるわけですね。

こういう一徹の人を使って、合衆国の理念を、各地域に徹底させたわけです。

アメリカ人の保守が銃規制に断固として反対するのは、こういう歴史があったからですね。

あくまでもできの悪い弟が殺人を犯してしまった。というキッカケではあったのですが、結局はこの大土地所有者であるバーデット一族と保安官は「正義」を巡って衝突せざるを得なかったと思われます。

この保安官と地主がトコトン癒着していけば、メキシコになっていくわけです、アメリカ合衆国は。

さて大幅に脱線しましたが(笑)、バーデット一味にずっと監視されているため、保安官たちは街から一歩も出られない。という状況を逆手に取った、ものすごく限定された空間でのみドラマが展開するという面白さ。

主要人物の見事なキャラ立ちと演技の素晴らしさが、笑いなどのアクセントになっているうまさ(ホークスはコメディ映画が得意でした)。

 

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ウォルター・ブレナンの巧みな演技がシリアスな話しの潤滑油になっています。歯が抜けてまくっているので、しゃべりがフガフガしてるのもよい。

 

アメリカのアクション映画に与えた影響は余りにも計り知れません。

 

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キレのいいガンアクション!

 

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ダイナマイトどんどん

 

ジョン・ウェインというと、ジョン・フォードとの一連の作品が有名ですが、『赤い河』と本作を見ると、ハワード・ホークスとの相性はフォードに決して勝るとも劣らない事がよくわかります。

 

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ちゃんとムフフなサービスもございます!

 

 

蛇足ながら、「必殺シリーズ」テーマ曲は、本作のテーマ曲に着想を得たものであります。

 

 

 

 

 

濃厚です。

エミール・クストリツァ『ジプシーのとき』

 

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ベルハン一家。狭いながらも楽しい我が家。

 

冒頭から漂う、独特の可笑しみ。

いい映画というのは、始めの10分が面白くないとあとはもう全くダメですが、コレは合格ですね。

音と映像の量がとにかくすごい。

酔っ払ってひっくり返ってる新郎をどやしつける新婦。

その近くで博打に興じる男たち。

その男での場面に転ずると、何やらアメリカ制作の科学番組が放映させる中で体調が悪く呻いている女の子(どうやら妊娠しているらしい)。

コレを看病する孫のベルハンに七面鳥をあげる祖母。

これに怒るおじ。

唐突にアコーディオンの演奏。

この間にもテレビの音はうっすら聞こえていて、今度はそこに近所のおばさんが乗り込んできて、口論。

で、この間にもずっとアコーディオンの演奏が続いていて、外ではよくわからんカラテみたいな稽古しているベルハンのおじ。

この男の無節操をおばさんは抗議に来ているのだ。

で、外ではカラテ?の掛け声、中ではアコーディオン

そして、口論。

とにかくクストリッツァの映画はうるさいの笑)。

フェリーニと呼ぶには、なんとも泥臭くて野暮ったいし(それを監督はねらってるわけですね)、オルトマンと呼ぶにしてもあまり機能的ではない。

いつも画面で複数の動きがあるので、騒がしいのである。

で、1つの出来事に常に収斂しないように意図的に作ってるんですね。

コレを全編にわたってやり通すんです。

 

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名シーンの1つ。ジプシーのお祭り。

 

役者たちがみな生き生きとしてますね。

ゴラン・フレゴヴィッチの音楽がこれまた素晴らしい。

この映画の公開は1988年なので、まだユーゴスラヴィアが崩壊する前の平和な時代なのですが、ユーゴスラヴィアに住むジプシーは、ムスリムなのですね。

経済的に豊かとは言えないのようですが、独自のコミューンを形成していて、石灰を作って売ったりしてビジネスを成り立たせているようです。

さて、ベルハンの家族を紹介しましょう。

主人公のベルハンは、こころ優しい少年で、女の子のアズラと結婚する事を夢見ています。アコーディオンを弾く事ができます。

妹のダニラは脚が悪くてベッドで過ごしがちです。

おばあちゃん(名前が出てきません)は、いわゆるメディシンマンの能力があります。ベルハンにも多少その能力が伝わっているようです(スプーンを壁に貼り付けたりできます)。

 

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チャールズ・ロートンにそっくりなおばあちゃん。

 

ベルハンのおじさんのメルジャン はバクチに入れ込んでましまっていて、もうやってる事がメチャクチャで家を破壊したりとやりたい放題です。

 

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家を破壊してしまうメルジャン。

 

そして、ベルハンの飼っている七面鳥です(途中でおじさんに料理されてしまいますが・笑)。

この映画を見ていて感じるのは、ジプシーたちの情の濃さですね。

イタリア映画もすごいですが、その10倍といいいますか。

人間と人間の生のぶつかり合いが濃厚なんですよ。

カルピスの原液を更に3倍濃くしたような感じです(?)。

あとですね、いろんな映画の露骨な引用が結構あります。

アーメドが『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドーみたいに話したり、ベルハンが『勝手にしやがれ』のジャン=ポール・ベルモントになったり。

全体的な画面作りはホドロフスキー『エル・トポ』の第2部を意識してるんでしょうかね。

ジプシーのコミューンには、経済的な成功者のアーメドがいて、彼の息子をおばあちゃんが呪術で直したことがあり、その返礼としてダニラの脚をスロヴェニアの首都、リュブリャナの病院で診てもらう事になりました。

 

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ベルハンも病院までついていくのですが、手術が必要な事がわかり、滞在費を捻出できないため、アーメドについて言って、ミラノまで行く事になりました。

 

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アーメドのビジネスというのがすごくて、子供達をたくさん使って物乞いをさせると言うもので、よくそれでクルマとキャンピングカーが買えるよな。というものなのですが、ベルハンも空き巣を生業とするようになります。

アーメドが心臓の持病が悪化して、物乞いビジネスの地位をベルハンに譲ってしまうと、彼のサグライフが始まりまして、完全に『スカーフェイス』のアル・パチーノになりますが(笑)、ここから先は実際に見てのお楽しみに。

なかなか一筋縄ではいかない作品です。

 

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西部劇の終焉。

ジョン・スタージェス『The Magnificent Seven』

 

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白浪七人男、揃い踏み!

 

『荒野の七人』という邦題はちょっと今ひとつだなあ。

『誇り高き七人』という直訳で充分カッコよくないですか?

スタージェス、マクイン、バーンスタインという鉄壁の3人によるアメリカアクション映画の古典。

こういうおおらかなスケールで描かれるアクション映画の最末期でもありますね。

以後、マクインは『ブリット』でリアリズムをトコトン追求していく事になります。

メキシコのとある村に、やってきた山賊たち。

次の収穫期に、農作物をよこせという。

とんでもない事になってしまった!

長老は断固戦うべし!

村人3人がテクサスにやって来て、銃を手に入れにやって来ます。

原作である黒澤明七人の侍』では、ここだけでものすごい時間をかけるのですが、このリメイク版はサクサク進みまして、ものの10分もしたらもうユル・ブリンナーとスティーヴ・マクインが出てきます。

七人の侍』は、サムライたちが揃うだけで100分くらいかかってまうので、3時間半の超大作になってしまうのですが、ハリウッドはその辺をアッサリとカットしてしまうんですね。

こういう感覚が、黒澤明とハリウッドが全く合わないです。

それにしても、このほどほどの面白さとテンションを維持するスタージェス監督の塩梅が素晴らしいですね。

ユル・ブリンナー、スティーヴ・マクイン、ジェイムズ・コウバーン、チャールズ・ブロンソンと、どれもこれも惚れ惚れするような男しか出てきませんね。

まさに、男祭り(笑)!

 

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志村喬の役を務める、ユル・ブリナー

 

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稲葉義男、加東大介の役を務める、マクイーン。『大脱走』で更に大活躍です。

 

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宮口精二の役を務める、ジェイムス・コウバーン。ナイフの使い手です。

 

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三船敏郎木村功の役を務める、ホルスト・ブフホルツ。

 

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千秋実の役を務める、マンダム前のブロンソン

  

しかし、原作の黒澤作品と違うところもあるんですね。

もう古典作品なのでネタバレさせますが、農民たちが裏切ってしまいます。

七人の侍』でも、実は牢人たちは農民たちに疎んじられている事がところどころ描かれており、あのラストシーンは、用が終わったら、厄介者なので出て行ってもらいたい事を表現しているわけですが、本作では、露骨に山賊に寝返ってしまうんです。

農民たちにとって、ユル・ブリナーたちもまた外国人であり、厄介者でしかないんですね。

銃を奪われ、村の外へ全員追放されました。

要するに、山賊と農民は実は共存関係だったたんですね。

しかし、ユル・ブリナーたちは、農民たちを救うために村を襲撃して、山賊一味を倒してしまいます。

チラッと映りますが、山賊たちを寄ってたかって農具でみな殺しにするのですが、コレが1番コワいシーンでした。

七人の侍』では、野武士40人を数回の戦闘でジワリジワリと残りの13人を村の中に入れてみな殺しにするという過程をタップリと時間をとって、凄絶に描くんですけども、こちらはメインの戦闘二回でサクッとカタをつけてしまうところがハリウッドの流儀です。

 

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山賊の頭目があんまり強そうじゃないところもよくできてます。

 

黒澤のものすごい執念は敬服に値するしますが、このカラッとしたアクションも私はキライではないです。

こういう男の子たちがグループを作って団結して1つの目標に向かっていく映画。というのは、たくさんあって、ハズレが少ないんですけども、本作もまたとてもよくできた、まだ、ハリウッドの栄光が生きている頃の、男の子だったら絶対に楽しい事この上ない映画です。

エルマー・バーンスタイン作曲のテーマ曲は、映画史に残る名作。