なななななななな(笑)。
画面の情報量の多さが尋常でない(笑)!!
ロバート・アルトマンの映画の登場人物がものすごく多いとか、もうそういうレベルではなくて、1つのショットに必ず全然違うベクトルに動いている人たちが常に画面のあちこちにいて、それらはワザと引いたショットでどこにもフォーカスしていないんです。
なので、いつも画面が異様なまでにせわしなくて脱中心的(笑)。
しかも、空港なわけですから、みないそいそとしているんですよね。
日本赤軍がテルアビブ空港で無差別にマシンガンを撃ちまくるという、バカげた事をする前の空港なので、荷物チェックがものすごく甘いですね、今見ると。
タチが空港や自動車、高速道路を撮ると、全部がタチが作ったセットみたいに見えてきて、何か現実感がなくて、男の子がレゴブロックで作ったおもちゃの世界みたいに見えてくるのが、ホントに不思議です。
ホントに不思議な作家だと思いますね、ジャック・タチという人は。
ユロ氏は、空港のシーンでチラッと出てきて、ようやく、12分頃にバスから降りてきたところから本格的に登場です。
およそ、トーキー映画以降に確立した文法というものが、タチには一切なくて、完全に自分の文法ですよね。
そこから独自に組み立てていく映画監督って、世界的に見ても、あとはセルゲイ・パラジャーノフくらいなのではないでしょうか。
今回の舞台は超モダンな、というか、もうほとんどSFというか、ディストピアックなビルでのユロ氏がいつまでも約束している男性と会う事ができない様子を延々とやるんですね(笑)。
とにかく異様なビルでして、外面がほとんどガラス張りで全部丸見え。
一体何の機械なのだろう。。
ユロ氏が座る椅子のクッションのへこみ方がなんだか薄気味悪かったり(他の人たちはなぜかそれが当たり前だと思ってます)。
全く落ち着きのない待合室。ディストピア感満点笑)。
『ぼくの伯父さん』で出てくる工場でのあの「ブーン」という音がもっとエゲツなく入っていて、あの妙に響いて気になる靴音も出てきます。
構図がほとんどSF映画。キューブリックです。
ある意味、『ブレードラナー』よりコワイ世界です。
ガラス張りはあまりにもピカピカに磨き上げているので外と内の区別が全くわからなくなるような錯覚にすら陥ります(一部のシーンはホントにガラスがなかったりします・笑)。
オフィスはとにかく病的に整然ときていて、小津映画もビックリです。
『未来世紀ブラジル』でもここまではやってないという非人間的なオフィス。
このユロ氏がビルを彷徨うのと同時に、アメリカからの団体旅行客がこのビルでの展示を楽しんでいる話しが同時進行していきます。
なにやら、最新デザインのお掃除用具やら、メガネやらを見てご婦人たちは喜んでます。
ユロ氏の視点は、明らかに他所者の視点で都会の便利なものをトコトン揶揄にしていますね。
でも、画面を見ていると、タチ自身はそういう超モダニズムがものごく好きそうにも見えるんですよね(笑)。
『トータルリコール』にしか見えない街並み。
ホントに病的なものを感じますねえ。
ユロ氏もいつの間にか、ビルの展示イベントに巻き込まれてます。
『ぼくの伯父さん』でのユロ氏は、目立った格好をしている人物として描かれていますが、本作ではよく間違えられます。
『ぼくの伯父さん』でのおなじみの格好。はっきと主人公であることがわかります。
バスから降りるシーンもユロ氏のようなコートを着た人ばかりがバスから降りてきて、ユロ氏が登場したこ事にすぐに気づかないくらいにワザとしているんですね。
この、主人公の動きがほとんど映画を推進していくための駆動力になっていかないという点は、本作は徹底しています。
コレは物語を見るための定点がないということでもあり、その事を、最初の空港のシーン(ユロ氏はホンの少ししか出てきません)でわからせるんですね。
出会わなきゃいけない人とは出会えないのに、なぜか道端では旧友と出会うことが出来、彼のこれまた「超モダン」なマンションに案内されます。
この友人、ユロ氏に「戦友」と呼びかけますが、まさか、ユロ氏は従軍経験(第2次世界大戦?)があるのでしょうか?
ユロ氏のような人が入れるフランス軍というのは、アカン所のような気がしますけども(笑)。
友人宅シーンもとても変わっていて、なぜか完全にガラス張りで丸見えで(多分、実際はガラスもないと思います)、このガラス越しに撮ってます。
で、会話は一切聞こえず、外を走る車の音と外にいる人の会話が聞こえるという異様なシーンです。
しかも、ユロ氏の友人の部屋を写しつつ、隣の家の部屋も写しているんですね。
結局、あの超モダンなビルで会おうとした男性は、夜になってから偶然会う事ができます。
カメラがいつもボーッ眺めているような視点しか持ってない映画というのは、この映画しか見た事がないです(笑)。
ものすごくたくさん登場する人物にほとんどに名前すらなく(ユロ氏とアメリカ人観光客のバーバラくらいです)、ほぼ、団体旅行客、ビルで働く人々、街を歩く人々です。
話によると、この空港とビルのシーンをトコトン自分のイメージ通りに撮影するためにとんでもなく巨大なセットをものすごいお金と時間をかけて、タチは作ったのだそうです。
しかし、この余りにも斬新な映画は興行的には大敗北して、タチはしばらく映画が撮れなくなってしまいました。
タチがとても寡作なのは、余りにも完璧主義である事と、本作での失敗が大きかったのです。
本作は、21世紀になってようやくタチの意図に最も近い状態に修復したもので、彼の無念はようやく晴らされました。
個人的にはてんやわんやのレストランの風景がとても好きです。
なんで、みんな踊り狂っているのだろう。レストランなのに。
ユロ氏が出くるまでのフリに凄絶なまでに時間とお金かけてるところも素晴らしいですが、全員がボケみたいな状態を黙って見つめるジャック・タチの怖さですね。
ラテン調の音楽がものすごくいい調子なのも素晴らしいです。
ジャズコンボの演奏シーンは、フェリーニもびっくりな当て振りです(笑)。
このユロ氏による店の破壊をやりたいが為に、この豪勢なセットと大勢のエクストラを使うという感覚が尋常ではない。
表面的なオシャレ感(全シーンのセット、小道具のデザインだけで一冊の本が書けるほどすごいです。『ぼくの伯父さん』が普通に見えるほどです)だけでなく、タチのもつ、桁外れの狂気とホンの一滴の愛を体験下さいませ。
しかして街はまたクルクルと回るのである。
追伸
バーバラがレストランで演奏していたのは、この曲です。
https://youtu.be/THZcptcvfs0