青春群像の王道を描いてます。

F.ギャリー・グレイ『Straight Outta Compton』

 

 

f:id:mclean_chance:20161121230033j:image

 

ギャングスタ・ラップ」というスタイルとその人気を全国区に広げた伝説的なヒップホップグループ「N.W.A」を描いた、ハードコアな青春群像。

 

f:id:mclean_chance:20161121230152j:image

N.W.Aのメンバー。

 

アイス・キューブ、Dr.ドレー、イージーEと言ったスターが在籍していましたが、突然入ってきた莫大な大金の配分や、マネージャーによは不正な帳簿操作などによってアイス・キューブ、ドレーが相次いで脱退した事で短命に終わってしまったグループですが、本作はエイズによって31歳という若さで亡くなったイージーEを主人公としており、それにキューブ、ドレーが準主役としてお話しが進んでいきます。

 

f:id:mclean_chance:20161121230243j:image

左から、Dr.ドレー、アイス・キューブ、イージーE。ちなみにイージーEはホンモノの麻薬の売人でした。。

 

ストーリーは、大金を得る事で没落していくイージーE、そして、脱退してソロとして大成功の後、俳優に転身したアイス・キューブ、そして、独立してレーベルを立ち上げ、スヌープドック、2PACをスターダムに押し上げ、自らのソロも大ヒットさせるDr.ドレーという、対照的な姿を描いていきますが、多分、事実そのままを特に劇的に盛り上げる必要もなく、そのまま描いても充分に劇的なのがすごいですよね。

お話は、いわゆる東西抗争寸前のいいところで終わるのですが(ドレーがカッコよすぎるのがズルいです)、なんだか、2PACとビギーを主人公とした作品もこの後あるのか?と期待させてくれる終わり方で、イージーの死という悲劇にも関わらず、前向きな終わり方なのがよいですね。


残酷な物言いかもしれませんが、イージーEのヒップホップにおける役割はもうすでに終わっていたのであって、すでに西海岸は2PACやヌープたちが活躍しつつある時代になっていたので、彼の余りにも若い死は残念ですが、ちゃんと仕事はやり遂げた方であると思います。

 

f:id:mclean_chance:20161121230505j:image

2PAC

 

f:id:mclean_chance:20161121230538j:image

Snoop Dogg

 

 

それにしても、警察のアフリカ系に対する過剰な取り調べは、2016年現在もまったく変わってないのがすごいですよね。。

 

f:id:mclean_chance:20161121230631g:image

突然、道端で白昼堂々と地面に伏せなくてはならいというのは。。


本作の通奏低音には、1991年の、アフリカ系アメリカ人のロドニー・キングへのロサンジェレス市警の過剰な暴行とその裁判(なんと、無罪でした)、そして、アメリカ各地での暴動があるのですが、実は、この現実は、何も変わっておらず、故に、N.W.Aの名前を全米に轟かせた名曲「Fuck The Police」の中で告発される警察官の横暴は、残念ながら、今でも有効なのですね。

 

f:id:mclean_chance:20161121230824j:image

コンプトンの厳しい現実をラップするアイスキューブ。ちなみに息子さんが演じてます。そりゃ似てるよ(笑)!

 

この映画が全米で大ヒットしている最中にも、丸腰のアフリカ系アメリカ人が射殺されたり、窒息死したりという痛ましい事件がアメリカ各地で連続しましたが、アメリカは、そろそろ、銃と麻薬犯罪をなんとかしないといけない時が来ているのではないでしょうか。

 

f:id:mclean_chance:20161121230048j:image

彼らのデビュー作。映画のタイトルはここから取ってます。

「何が始まるのですか?」「第三次世界大戦だ」

マーク・L・レスター『コマンドー

 

f:id:mclean_chance:20161116112311j:image

こんなに丸太が似合う役者はいない。

 

 

シュワちゃん映画の最高傑作は、だれがなんと言おうとコレなのだ!

しかも、フジテレビの土曜日の『ゴールデン洋画劇場』のバージョンと決まっている。

 

f:id:mclean_chance:20161116112413j:image

シュワちゃん」の名付け親は、淀川長治先生です。

 

日本語吹き替え版史上に燦然と輝く名訳と声優陣の素晴らしさ!

80年代のアメリカ映画なので、悪役のファッションが恐ろしくバブリーでチャラいのも見どころです(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161116113031j:image

グリーンベレーのクック。

なんなのだ、このやたらといいスーツ(笑)。

 

まあ、シュワちゃんのプリップリの筋肉の素晴らしさ!

丸太やロケットランチャーを担いでこんなに絵になる人がいるでしょうか。

 

f:id:mclean_chance:20161116113159j:image

昔から肩に装着されていたのでは?と言いたくなるほどのフィット感。

 

スタローンとシュワちゃんはよくアクションスターとして並び称せられますが、スタローンは、カーター大統領、すなわち、民主党時代にスターになってますから、心の闇とか痛みとかが肉体で表現されるんですけども(80年代になるとそれがダンダンなくなっていくのですが)、シュワちゃんには、全く陰がないです。

 

あらゆる行動に迷いとか躊躇がない。

コマンドーとして、世界各国でめちゃくちゃやってきているはずなのですが、そういうものがすべてない事になってます(笑)。

 

中米にある架空の国、バルベルデ共和国のベラスケス大統領をシュワちゃんに暗殺させて、大統領に復帰しようとしている、アリアス(ノーベル平和賞を取ったコスタリカの元大統領から名前取ってるのでしょうね。アメリカから見ると、中南米の大統領はみんな汚職まみれの悪人ばかりなのでしょうな・笑)と、その手下になっている、昔の部下のベネットをボコるためのシュワちゃん迷いのなさは半端ではない(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161116113541j:image

前大統領のアリアス。ラスボスだが、特に重要ではないのがミソ。

 

f:id:mclean_chance:20161116114030j:image

拉致された娘。アリッサ・ミラノなのですね。

 

レーガン政権下の理想の男性像なのでしょう(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161116113435j:image

こんな和むシーンもありますよ。家族が大事。

 

f:id:mclean_chance:20161116114434j:image

なにが入っているのか謎のサンドウィッチ。 

 

結論から言えば、アリアス一味は、シュワちゃんたった1人に皆殺しにされ、米軍は一切動く必要なし。というね(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161116112553p:image

秒殺

 

f:id:mclean_chance:20161116142354p:image

秒殺

 

あと、ベネットのキャラクター造形が素晴らしい(笑)。

一応ラスボスのアリアスそっちのけでマッドなキャラなのですが、風貌が完全にフレディ・マーキューなのもツボです(絶対に参考にしてると思います)。

 

f:id:mclean_chance:20161116114158j:image

 メイトリクスvsベネット

f:id:mclean_chance:20161116113758j:image

名シーンの1つ、「ぶっ殺してやる!」

 

コレだけてんこ盛りのサービス満点映画なのに、100分にも満たないという素晴らしさ。

まだ見てない貴方。

トランプ支持者のバカな白人男性の頭の中はどんななのかを知るためにも、本作は必見です!是非!!

 

f:id:mclean_chance:20161116113901j:image

見ない人には、レイ・ドーン・チョンのロケットランチャー攻撃です!

 

f:id:mclean_chance:20161116114320j:image

娘も担ぎます。

 

 

 

 

こんなワイダをもっと見てみたかった。

アンジェイ・ワイダ『夜の終わりに』

 

f:id:mclean_chance:20161115223602j:image

 

2016年に90歳で大往生した反骨の作家、アンジェイ・ワイダの若き日の作品。

フランスのヌーヴェルヴァーグは、世界中に多大な影響を与えましたが、かのワイダもモロに影響を受けていたんですね。


音楽はクシシュトフ・コメダ以下、ポーランドのジャズの名手が参加。

 

f:id:mclean_chance:20161115223628j:image

コレ、ホンモノのジャズメンなのでしょうかね。妙に雰囲気があるんですよ。どなたが教えてください。

 

ジャズメンがサントラに全面参加。というコレ自体がまさにルイ・マルの手法です。

『地下水道』『灰とダイヤモンド』という社会派の映画を作っているイメージから本作は大分かけ離れますけども、まだ、こういう事が出来る自由が当時のポーランドにはあったんでしょうね。

主人公は若いお医者さんのバジリで、ボクシングの試合前の学生の診察を行なっています。

 

f:id:mclean_chance:20161115223831j:image

バジリ。ポーランド裕次郎です?

 

で、趣味でジャズドラムをやってるのですが、役者さんは完全に当て振りでして(ジャズドラムなんて、そんな簡単にできるモンじゃないですので)、完全に「チンだ!ボディだ!ボディだ!チンだ!」状態です(笑)。

と言いますか、この映画のトーンは多分に「オレたちまヌーヴェルヴァーグだ!」という意気込みなのでしょうけども、どこか垢抜けなくて、どっちかというと、日活映画っぽくて、私にはとても好ましく思えます。

ワイダ、もっとこういう映画、撮って欲しかったなあ。

ホロコーストとかポーランド共産党の圧政とか、やっぱりシンドイんですよね、ワイダは。。

灰とダイヤモンド』世界的な大スターになったスビグニエフ・チブルスキが、バジリの友人役として、出番多くないですけども出ていて、コレがまたいいんですね。

 

f:id:mclean_chance:20161115223936j:image

うまいですよ、チブルスキは。

 

ストーリーはそれほどでもなくて、夜中のバジリとペラギアという女の子の会話が中心で、要するに、ゴダールをやってるんですね。

 

f:id:mclean_chance:20161115224048j:image

ペラギア。

 

ただし、会話がいささか大島渚っぽいのが、ワイダの味で、ある他愛のないゲームに、政治的な意味を持たせていますね。

 

f:id:mclean_chance:20161115223532j:image

 

こういう、「日活映画」が世界中でたくさん作られたのだと思いますが、本作はその中でも非常に優れた一作だと思います。

ワイダは、こういう肩の力の抜けた作品をもっと作って欲しかったというのが、偽らざるホンネではあります。

まだまだアタマで映画作ってる感じが否めない作品ですけども、ここで描かれるどうでもいい会話は、誰でも共感できるのではないでしょうか?

若い頃って、こうやって無意味に時間を浪費してるだけ。という感じがとてもよく描けているんですね。

クシシュトフ・コメダがカメオでちょっぴり出てきます。

 

f:id:mclean_chance:20161115224227j:image

なかなかの名シーンです。

素直にストレート投げたら見事なストライクでした。

ライアン・クーグラー『クリード

 

f:id:mclean_chance:20161112233053j:image

アポロの隠し子で、やんちゃすぎて更生施設に入れられていました。

 

まさかのスピンオフ作品。

アポロの息子、アドニスがプロボクサーになり、とっくにボクシング界から引退しているロッキーがコレを育てるという話しです。

正直、申し上げて、最近のハリウッド映画にはほとんど愛想が尽きていて、もうこんな企画しか出てこないのか?と、何の期待もしてませんでした。

しかし、やたらと『クリード』ものすごくいいよ!という声がチラホラと出てくるんですよ。

スタローンがすごくいいんだと。

事実、スタローンはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされてしまいました。

驚きです。

で、見てみたんですね。

映画はある意味全然ひねりなし。

真っ向勝負です。

そこがよかったですね。

面白かったのは、アドニスがかなりのおぼっちゃまという設定ですね。

『はじめの一歩』の鷹村もおぼっちゃまの設定ですが、そのまんまです。

で、これまたそこがいいんですよね。

 

f:id:mclean_chance:20161112233417j:image

エリートビジネスマンの生活を捨ててしまう。

 

ロッキーとアポロの試合をyoutubeで見たり、歌手志望のガールフレンドとのラブラブシーンとか、いい塩梅なのです(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161112233329j:image

 ガールフレンドもなかなかよいです。

 

ハングリーがないわけではなくて、ロッキーの言うことはとてもよく聞いて一生懸命練習します。

そう言うところが何か一歩くんと鴨川会長のような微笑ましさがあるんですね。

 

f:id:mclean_chance:20161112233507j:image

ロッキーとミッキーは最初ケンカばかりでしたけど。

 

スタローンは、ホントに素晴らしいです。

オレがオレがと画面に出てこなくて、引いた演技が見事ですね。

うまいという感じではないですけども、存在感がもう素晴らしいです。

アクション映画以外のオファー来るんではないでしょうか。

ストーリーはホントにヒネリ一切なしの正攻法です。

しかも、全然力みとか空振りが全くなくて、とても的確なんですよね。

驚きました。普通にいい映画なんで。

アドニスもまたロッキーと同じように「かませ犬」としての試合がストーリーのメインになるんですが、相手選手も実は追い込まれているところが、無敵のチャンピオン、アポロ・クリードとの違いがあります。

 

f:id:mclean_chance:20161112233706j:image

試合の後に刑務所行きが決まっている、悪童チャンピオン、コンラン。

 

アドニスが強くなるのが、トントン拍子過ぎる気がしないでもないですが、フィラデルフィアのゴンタクレとLAの素直なおぼっちゃまの違いでしょう。

素質のある人が素直に言うこと聞いてトレーニングしたら、強くなるという事なのでしょう。

さて、肝心のボクシングシーンですが、これがすごいです。

1つのキャメラで延々ノーカットで追い回します。

 

f:id:mclean_chance:20161112234011p:image

こんなにキャメラ近いのに、ワンショットなんですよ、コレ。

 

クリードのプロとしての第一戦(実は、コッソリとメキシコで試合をしていて、無敗でしたが)の2RKOまでをワンショットで撮るというすごい事をやってます。

キャメラの動きが余りにもスムースなので、すごい事に気づかないほどすごいです。

『バードマン』がなかったら、これがアカデミー撮影賞だと思います。

 

f:id:mclean_chance:20161112233822j:image

試合前の記者会で、ビーフをしかけるチャンピオン。

 

ボクシングシーン自体も、『ロッキー』とは比べものにならないほどリアルです。

 

f:id:mclean_chance:20161112233935p:image

淡々としてますが、結構すごいですよ、このボクシングシーンは。 

さすがに世界チャンプとの戦いは、編集が入りますが、これとて、ホントにリアルなボクシングです。

『ロッキー』と言えば、あのビル・コンティが作曲し、メイナード・ファーガスン・オーケストラが演奏したあのテーマ曲ですが、余りにも絶妙なシーンで使うので、もう泣けてしょうがないです。

久々にハリウッド映画堪能できました。

 

f:id:mclean_chance:20161112234213j:image

 

撮影、大変だったでしょうね。。

アレハンドロ・ゴンサーレス・イニャリトゥ『レヴェナント』

 

f:id:mclean_chance:20161107181857j:image

 昭和っぽいポスターがナイスです(笑)。

 

 

ビーバーの毛皮を獲っていた男たちがネイティヴ・アメリカンの部族のアリカラ族たちに襲撃を受けて大半が死にました。

ビーバーの毛皮を狙われたんですね。

生き残った一行は命辛々船で川を下りましたが、安全策をとって途中から山道で逃げる事にしました。

相当な回り道になりますが、アリカラ族たちは船を降りたとこを再び襲撃する危険性がありした。

彼ら彼女らのテリトリーなのですね、この流域は。

毛皮を上陸した場所に埋めて、後で取りに来る事にしてここから徒歩で移動です。

その生き残りの1人が主人公のヒュー・グラスこと、レオナルド・ディカプリオで(オーソン・ウェルズに妙に似てますね)、奥さんはネイティヴ・アメリカンのポーニー族で、2人にはホークという息子がいます。

ディカプリオはネイティヴ・アメリカンの部族の言葉を話すことができ、ホークとはポーニー族の言語で話します。

現在のアメリカを見ると、「白人」と言われる人々のかなり割合で、このような家族が実際にいたものと思われます。

有名人でも、ケヴィン・コスナーキム・ベイシンガーという役者さんやロックバンドのパールジャムのリーダーのエディ・ヴェターは、先祖にネイティヴ・アメリカがいることを公言しています。

カナダ人ですが、シンガーソングライターのニール・ヤングもそうです。

 

なので、「白人」などというのは、かなりいい加減な概念なのだなあと思うのですが。

閑話休題

19世紀のアメリカ。を舞台とした映画はそれこそ山のようにあって、それらの多くは、「西部劇」という一大ジャンルになってますが、本作は動物を山の中に追い回して毛皮を獲っている連中の話しなので、およそ西部劇のマナーではほとんどお目にかかることのない世界であり(賞金首も保安官も出てきません)、かなり異色なシチュエーションです。

敢えて近いものを考えると、ジム・ジャームッシュ『デッドマン』ですが、こちらはファンタジーです。

またしても横道にそれましたが、この山道を進んでいると、ディカプリオが熊の家族に遭遇してしまい、熊に襲われてしまいました。

 

f:id:mclean_chance:20161107182024j:image

 うわー!

f:id:mclean_chance:20161107182006j:image

すごいキャメラアングル!

 

コレ、一体、どうやって撮ってるのでしょうか。

CGと組み合っているにしても、余りにもよくできていて、すごいのですが(笑)。

なんとかナイフで急所を突いて熊を殺すことができましたが、ディカプリオは重症です。

なんとか応急処置をしましたが、歩くことすらできないほどです。

仲間は途中まで運びますが、もう限界にきてしまいました。

グラスを連れているとこの山道を超える事に支障をきたしてきたのです。

止むを得ず、グラスを置いていくこととし、亡くなるまで3名が残って面倒をみる事にしました。

ここからが問題になります。

ディカプリオをラクにしてやろうと、殺そうとする者が出てきました。フィッツジェラルドトム・ハーディ)です。

これを目撃したホークがとめたのですが、ホークをナイフで刺して殺してしまいます。

グラスは重症の上、縄で縛られており、首を負傷して声もほとんど出ませんからどうすることもできません。

 

f:id:mclean_chance:20161107182208j:image

すごいですね、ディカプリオ。。

 

食糧を確保するために離れていたブリジャーが戻ってきて、ホークの居場所を聞きますが、フィッツジェラルドはトボけます。

 

f:id:mclean_chance:20161107182312j:image

マッドマックスの面影を全く感じさせないのが脅威的なトム・ハーディ。しばらく気がつきませんでした。

 

程なくしてアリカラ族が迫ってきてしまい、2人はグラスを置き去りにせざるを得なくなりました(実はフィッツジェラルドがでっちあげたウソであることがわかりますが)。

 

f:id:mclean_chance:20161107182447j:image

這いつくばってでも生きる!

 

脚を骨折して歩くこともできないグラスは一体どうなってしまうのか。という、途方ない絶望を描いているのが本作のメインテーマです。

 

f:id:mclean_chance:20161107182540j:image

またしても、アリカラ族の襲撃!

 

要するに、ここからはディカプリオの一人芝居とフィッツジェラルド、ブリージャーのトンズラ劇、本隊のトンズラ劇、そして、アリカラ族のフランス系カナダ人(映画を見ている限りではハッキリしませんが、多分そうなのでしょう)への追跡という4つが同時並行で進行していきます。

 

f:id:mclean_chance:20161107182629j:image

だんだん装備が良くなっていきます。

 

こういう複数の話が同時進行するという手法はイニャリトゥの得意とする所ですが、本作は今までよりもずっとたくみで有機的につながっていきます。

『バードマン』以前はどこかアタマだけで映画を撮っていたフシのあるイニャリトゥですが、本作で彼の才能の開花がホンモノである事は証明されましたね。

それにしてもトム・ハーディはタフですね。

『マッドマックス』はアフリカの砂漠で撮影しているんですよ(笑)。

その後に冬山です。

よくやりますねえ、ホント。

とにかく、本作は凄絶というものを通り越していますよ。

ここまでの極限状態と映画としたという例は、あまりない。

ロベール・ブレッソンの不朽の名作『抵抗』はレジスタンス活動をしていたオトコがいかにして独房から脱獄するのか?という映画でしたが(実際は成り行きで2人で脱獄するのですが)、監獄の外にはスグにシャバの生活があるわけです。

こっちは、何もない冬山です。大自然のど真ん中です。ある意味究極のエコであり、そこにいる人間はむしろバグですが(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161107182734p:image

 このディカプリオとポーニー族との出会いは本作の数少ないホッとするシーン。

 

身体が不自由で口もきけず、極限状態の環境にいる。という、アカデミー会員が査定を上げやすい設定の中で全身全霊をかけてディカプリオが実在の人物(コレも査定がよくなるポイントだと思います)を演じての、念願の主演男優賞は、ここまでやんなきゃアカデミーって獲れないのか。と、少々ぼくは途方に暮れました(笑)。

ロバート・デニーロが激ヤセ激太りで驚かせた『レイジングブル』すら、もはや稚戯にも等しくすら思わせてしまいますね。。

前作『バードマン』もそうでしたが、まあ、キャメラがすごい。

 

f:id:mclean_chance:20161107182913j:image

とにかく、映像のクオリティが信じられない水準!

 

相当機材が小型化して移動が楽になっているとはいえ、ここまでできるのかと、呆然とする凄さです(撮影監督は前作同様エマュエル・ルベツキで撮影賞を3年連続受賞)。

イニャリトゥも監督賞を2年連続受賞。

日本人には、白土三平矢口高雄の「自然の驚異」を描いたドキュメンタリータッチのマンガがありますが、コレに「北米大陸の白人の原罪」を加味して映像化したように見えてしまう、ガチ『デッドマン』& 復讐劇。

しかも、タルコフスキーのような崇高さすらあります。

コレを描いているのが、メキシコ人の監督と撮影監督なのですね。

イニャリトゥはコレで本物のアメリカ映画の巨匠になったのではないでしょうか

 

f:id:mclean_chance:20161107183132j:image

 毛皮商人たちが大量に殺害したバイソンの頭骨の山。現代文明の始まりである。

 

 

 

 

コレを見てると自分がいかにマトモなのだなあ。と思ってしまいます(笑)。

ジャック・タチ『プレイタイム』

 

f:id:mclean_chance:20161106140606j:image

 

なななななななな(笑)。

画面の情報量の多さが尋常でない(笑)!!

ロバート・アルトマンの映画の登場人物がものすごく多いとか、もうそういうレベルではなくて、1つのショットに必ず全然違うベクトルに動いている人たちが常に画面のあちこちにいて、それらはワザと引いたショットでどこにもフォーカスしていないんです。

なので、いつも画面が異様なまでにせわしなくて脱中心的(笑)。

しかも、空港なわけですから、みないそいそとしているんですよね。

日本赤軍がテルアビブ空港で無差別にマシンガンを撃ちまくるという、バカげた事をする前の空港なので、荷物チェックがものすごく甘いですね、今見ると。

タチが空港や自動車、高速道路を撮ると、全部がタチが作ったセットみたいに見えてきて、何か現実感がなくて、男の子がレゴブロックで作ったおもちゃの世界みたいに見えてくるのが、ホントに不思議です。

ホントに不思議な作家だと思いますね、ジャック・タチという人は。

ユロ氏は、空港のシーンでチラッと出てきて、ようやく、12分頃にバスから降りてきたところから本格的に登場です。

およそ、トーキー映画以降に確立した文法というものが、タチには一切なくて、完全に自分の文法ですよね。

そこから独自に組み立てていく映画監督って、世界的に見ても、あとはセルゲイ・パラジャーノフくらいなのではないでしょうか。

今回の舞台は超モダンな、というか、もうほとんどSFというか、ディストピアックなビルでのユロ氏がいつまでも約束している男性と会う事ができない様子を延々とやるんですね(笑)。

とにかく異様なビルでして、外面がほとんどガラス張りで全部丸見え。

 

f:id:mclean_chance:20161106140645p:image

一体何の機械なのだろう。。

 

ユロ氏が座る椅子のクッションのへこみ方がなんだか薄気味悪かったり(他の人たちはなぜかそれが当たり前だと思ってます)。

 

 f:id:mclean_chance:20161106141240p:image

 全く落ち着きのない待合室。ディストピア感満点笑)。

 

『ぼくの伯父さん』で出てくる工場でのあの「ブーン」という音がもっとエゲツなく入っていて、あの妙に響いて気になる靴音も出てきます。

 

f:id:mclean_chance:20161106140818j:image

構図がほとんどSF映画キューブリックです。

 

ある意味、『ブレードラナー』よりコワイ世界です。

ガラス張りはあまりにもピカピカに磨き上げているので外と内の区別が全くわからなくなるような錯覚にすら陥ります(一部のシーンはホントにガラスがなかったりします・笑)。

オフィスはとにかく病的に整然ときていて、小津映画もビックリです。

 

f:id:mclean_chance:20161106141059j:image

未来世紀ブラジル』でもここまではやってないという非人間的なオフィス。

 

このユロ氏がビルを彷徨うのと同時に、アメリカからの団体旅行客がこのビルでの展示を楽しんでいる話しが同時進行していきます。

なにやら、最新デザインのお掃除用具やら、メガネやらを見てご婦人たちは喜んでます。

ユロ氏の視点は、明らかに他所者の視点で都会の便利なものをトコトン揶揄にしていますね。

でも、画面を見ていると、タチ自身はそういう超モダニズムがものごく好きそうにも見えるんですよね(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161106141423j:image

『トータルリコール』にしか見えない街並み。

 

ホントに病的なものを感じますねえ。

ユロ氏もいつの間にか、ビルの展示イベントに巻き込まれてます。

『ぼくの伯父さん』でのユロ氏は、目立った格好をしている人物として描かれていますが、本作ではよく間違えられます。

 

f:id:mclean_chance:20161221131746j:image

『ぼくの伯父さん』でのおなじみの格好。はっきと主人公であることがわかります。

 

バスから降りるシーンもユロ氏のようなコートを着た人ばかりがバスから降りてきて、ユロ氏が登場したこ事にすぐに気づかないくらいにワザとしているんですね。

この、主人公の動きがほとんど映画を推進していくための駆動力になっていかないという点は、本作は徹底しています。

コレは物語を見るための定点がないということでもあり、その事を、最初の空港のシーン(ユロ氏はホンの少ししか出てきません)でわからせるんですね。

出会わなきゃいけない人とは出会えないのに、なぜか道端では旧友と出会うことが出来、彼のこれまた「超モダン」なマンションに案内されます。

この友人、ユロ氏に「戦友」と呼びかけますが、まさか、ユロ氏は従軍経験(第2次世界大戦?)があるのでしょうか?

ユロ氏のような人が入れるフランス軍というのは、アカン所のような気がしますけども(笑)。

友人宅シーンもとても変わっていて、なぜか完全にガラス張りで丸見えで(多分、実際はガラスもないと思います)、このガラス越しに撮ってます。

で、会話は一切聞こえず、外を走る車の音と外にいる人の会話が聞こえるという異様なシーンです。

しかも、ユロ氏の友人の部屋を写しつつ、隣の家の部屋も写しているんですね。

結局、あの超モダンなビルで会おうとした男性は、夜になってから偶然会う事ができます。

カメラがいつもボーッ眺めているような視点しか持ってない映画というのは、この映画しか見た事がないです(笑)。

ものすごくたくさん登場する人物にほとんどに名前すらなく(ユロ氏とアメリカ人観光客のバーバラくらいです)、ほぼ、団体旅行客、ビルで働く人々、街を歩く人々です。

話によると、この空港とビルのシーンをトコトン自分のイメージ通りに撮影するためにとんでもなく巨大なセットをものすごいお金と時間をかけて、タチは作ったのだそうです。

しかし、この余りにも斬新な映画は興行的には大敗北して、タチはしばらく映画が撮れなくなってしまいました。

タチがとても寡作なのは、余りにも完璧主義である事と、本作での失敗が大きかったのです。

本作は、21世紀になってようやくタチの意図に最も近い状態に修復したもので、彼の無念はようやく晴らされました。

個人的にはてんやわんやのレストランの風景がとても好きです。

 

f:id:mclean_chance:20161106141805j:image

 なんで、みんな踊り狂っているのだろう。レストランなのに

 

ユロ氏が出くるまでのフリに凄絶なまでに時間とお金かけてるところも素晴らしいですが、全員がボケみたいな状態を黙って見つめるジャック・タチの怖さですね。

ラテン調の音楽がものすごくいい調子なのも素晴らしいです。

ジャズコンボの演奏シーンは、フェリーニもびっくりな当て振りです(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20161106141908j:image

このユロ氏による店の破壊をやりたいが為に、この豪勢なセットと大勢のエクストラを使うという感覚が尋常ではない。

 

表面的なオシャレ感(全シーンのセット、小道具のデザインだけで一冊の本が書けるほどすごいです。『ぼくの伯父さん』が普通に見えるほどです)だけでなく、タチのもつ、桁外れの狂気とホンの一滴の愛を体験下さいませ。

 

f:id:mclean_chance:20161106142101j:image

しかして街はまたクルクルと回るのである。

 

追伸

バーバラがレストランで演奏していたのは、この曲です。

https://youtu.be/THZcptcvfs0

とてもユニークなドキュメンタリー大作でした。

小川紳介『ニッポン国古屋敷村』

 

 

なかなかソフト化されることのなかった小川プロダクションが数多く制作してきたドキュメンタリーが、現在、続々とDVDとなって、ようやく本作を見る事が出来ました。

養蚕、炭焼き、米作りなどを生業とする山形県の山村、古屋敷村の1年を記録したドキュメンタリー。

小川プロダクションの得意とする、スタッフ全員が完全に村に住み込んでジックリと撮影された大作ですが、ユニークなのは、最初は稲の作付けについての様子が村人へのインタビューを交えながら非常に淡々と続きます。

 

f:id:mclean_chance:20161106011519p:image

ドライアイスを使って、どのように冷気が村に降りてくるのかをシミュレート。

 

なぜ、冷害が起こるのか、これを防ぐためにはどうすればいいのか?だけでなんと、60分近くあります。

次はワリというおばあさんが古屋敷村に嫁いでからのお話し。

コレが驚異的です。

日本人のはずなのですが、字幕がなくては半分もいってる事がわかりません。

炭焼きと米作りの苦労話を小川監督が自らインタビューしながらおばちゃんが話します。

ここまでで前半です。

後半は村で唯一炭焼きを行う、養蚕を行なっている花屋家(石碑には花谷。とありますけど)とその分家のお話しが中心となります。

個人的にはここがとても面白かったですね。

f:id:mclean_chance:20161106011738p:image

花屋家は獣を鉄砲で獲ることを代々生業にきたが、祟りを恐れて熊の供養塔を建て、狩りをやめてしまう。

 

はじめは弘さんの行う炭焼きの様子です。

続いて、フィリピンとサイパンで息子2人を亡くしたお母さんのちうさんの話し。

祟りを信じて家業の熊捕りをやめてしまった五代前の與吉さんについて語る弘さん。

この與吉さんの孫娘のさきに婿養子となった清三郎で、この夫婦が分家して2人の間に生まれた子供がこれまた與吉といいます。

この與吉さんの奥さんのさださんが與吉さんについて語ります(與吉さんを「じじちゃん」と呼びます。かわゆす)。

この與吉さんは村のほとんどの人が行う炭焼きではなく、木炭を馬で運んで行商することを生業にしていたようです(冬に手があかぎれになるのがイヤだったみたいです)。

それから、村人のためにまとめて買い物をしていて、コレもいいビジネスになっていたようです。

このドキュメンタリーを撮る一年前に與吉さんは亡くなっていたので、炭焼きの行商やお買い物引き受け業についてのお話は聞けてません。

次はその分家の養蚕に話が移ります。

與吉さんは、商売が軌道にのると、土地を買って稲作を始め、養蚕も始めます。

しかし、これが、GHQ農地改革によって当時、たったの3000円(米一俵買えない値段だ。さださんは証言します)とで買い取られてしまうんですね。地主ですので。

本家もかなり土地を失ったようです。

その與吉とさだの娘がサヨさんで、婿養子に熊蔵さんを迎えました。

養蚕と稲作を行なっています。

 

f:id:mclean_chance:20161106011658j:image

 

熊蔵さんは志願して陸軍に入隊し、満州に旗護兵として行くことになります。

体格が良かったので、上等兵にまで昇進します。

主な任務は占領した鉄道を守ることでした。

反日ゲリラが線路を破壊したり列車を軍用襲撃するんですね。

熊蔵さんはその後満州事変に参加したりなどして、少尉にまで昇進して、最後はソ連に捕まってシベリアに抑留され、昭和23(1948)年に帰還します。

 

f:id:mclean_chance:20161106012050p:image

熊蔵さん。

 

そこから話しはニューギニアに兵隊として行った経験のある鈴木徳夫さんのユーモラスかつ残酷な軍隊経験が挿入されます。

 

f:id:mclean_chance:20161106012233j:image

徳夫さん。

 

靴の裏を舐めさせられて鉄拳制裁食らうという、なかなか、『フルメタル・ジャケット』なバイオレスも回想されますが、ニューギニアで、次第に飢えて兵士がドンドン死んでいく様は、やはり強烈ですが、この人の人柄もあるのだと思いますが、どこかユーモラスです。

この鈴木さんのラッパを吹くシーンは、本作の1つのヤマ場ですね。必見です。

まるで、リュシアン・フェーブルの大著『地中海』のような構成、すなわち、地理、社会経済、政治の順で、語られる限界集落からみた日本近代史。という、非常にユニークな映画。

3時間30分近い作品ですが、全然退屈せずに見る事が出来ました。

コレと『1000年刻みの日時計 牧野村物語』は、小川紳介の双璧ですので、是非ともご覧ください。

 

f:id:mclean_chance:20161106012322j:image