パク・チャヌク『お嬢さん』
原作は19世紀のイギリスですが、日本植民地下の朝鮮のお話に置き換えられています。どこかヴィスコンティ的な発想ですね。
ド変態監督(褒め言葉ですよ、念のためですが)、パク・チャヌクがまたしても変態ぶりを爆発させた大作。
詐欺師「藤原伯爵」が日本の華族の財産を奪う計画を持ち込む。
まだ、公開してる最中ですので、ネタバレは最小限にいたします。
なんというか、この所の韓国映画な質と量は、ちょっとすごいですね。
映画は三部構成になってまして、最初の2部はなんと同じ事を違う視点から描いておりながら、同じ所で終わるのに、その感じ方がガラッと変わります。
召使いとして上月家に入り込むスッキ。
こういう作り方で思い出すのが、デイヴィッド・リンチ『マルホランド・ドライブ』なのですが、本作は、2人の主人公のそれぞれの視点からという描き方なので、どちらかというと、タランティーノ的な「なんでこうなるのかを説明しましょう」の超ロングバージョンみたいに思えます。
上月家の財産を相続している秀子。
ド変態の上月。
そういう意味で、タランティーノの傑作『デス・プルーフ』や『ジャッキー・ブラウン』に近い作品だと思いました。
本作の舞台の大半は、日本人の華族と結婚した事で大金持ちとなった朝鮮人(要するに、バリーリンドンですね)となった完全なる変態である上月と実際に財産を相続している秀子の屋敷が住んでいるとてつもなく巨大なお屋敷で繰り広げるのですが、そのセットがとにかくすごい。
美術は特筆すべきものがありますね。
調度品がウソっぽくなく、質感がズシンと伝わってくる映像が、それこそ、ルキノ・ヴィスコンティ並みに見る側に迫ってきて、題材がどこか『地獄に堕ちた勇者ども』のような下世話スレスレを狙っている辺りがどこが、晩年の絶好調なヴィスコンティを思われる意図的に安っぽいキャメラワークを頻発させるところも何か似たものを感じます。
上月家の大邸宅。洋館と日本建築を合体させた異様な作り。
遺産の詐取は果たしてうまくいくのか?
閉鎖的空間内でドラマが繰り広げられるのも、ヴィスコンティ的です。
総じて、イタリア映画のもっている、ゴージャスと下世話が同居したような作品なんですよね。
上月。という、江戸時代のエロ小説を買いあさってコレクションして、変態華族たちを邸宅に招いて朗読会をやるという設定は、かなりクローネンバーグしています。
変態朗読会をくり開げる書庫。秀子を子供の頃から仕込んでいるのだ。
なんというか、世界の名だたる変態監督からの、ほとんどあからさまとも言える引用をしながらも、それをまとめ上げたものは、パク・チャヌクとしか言いようがない、エゲツない濃厚で、剛腕な映画になりますね。
それにしても、これほどまでの映画を作りあげてしまう韓国映画界の底力は並大抵のものではないでしょうね。