ガス・ヴァン・サント『グッド・ウィル・ハンティング』
主人公のウィル(Will)があのような環境で良い意志(Good Will)を得る(Hunt)のは難しい。というダブルミーニングのタイトルです。
ガス・ヴァン・サント監督は、どうも題材が苦手で見ていませんでした。
あと、ロビン・ウィリアムズが出演者するという事は、感動作!みたいな方向に安易に向かいがちで、どうもイヤだったんですね。
しかし、本作は、マット・デーモン、ベン・アフレック自らが脚本を書いてコレを映画会社に売り込み、出演まで勝ち取った。という経緯を後から知り、是非とも見てみたくなったんです。
で、見てみると、やっぱり、感動作なんですけども、脚本が実にうまいですね。
本作の重要なキャラクターである、心理学者ショーン・マグワイアを演じるロビン・ウィリアムズの登場のさせ方です。
主人公、ウィル・ハンティングは、とてつもない数学の才能を持ちながらも、掃除夫や解体業のような事をやり、傷害事件を何度も繰り返すような人間なのです。
彼の仕事場である、MITの黒板にフィールズ賞を受賞した、ランボー教授が掲示板に書いた、数学の難問がいつの間にか解かれていたのですが、コレを書いたのがウィルである事を知るんですね。
数学視野すら手玉に取ってしまう、脅威の子、ウィル・ハンティング。
しかし、ウィルはまたしても暴行事件で警察に逮捕されていたんです。
ランボー教授は、彼の才能を惜しみ、身元を引き受け、週に2回、研究室に来て日常を報告する事と、週1回のセラピーを受ける事を条件としました。
ウィルの才能に気づく、ランボー教授。
実際、ウィルの才能はとてつもなく、もはやランボー教授すら超えていました。
しかしながら、問題はセラピーを受けさせても、そのものすごい頭脳を使って、決してセラピストが内面に入ってこれないように守っているんですね。
遂にランボー教授は、同じ大学の同期で心理学者のマグワイアに久しぶりに会い、「コイツはとんでもない奴なのだが、人間的に問題がありすぎる。なんとかしてくれないか」と頼むのです。
ランボーとマグワイアにはかなり長い確執がありました。コレもこのお話のテーマです。
ここでようやくロビン・ウィリアムズが登場するんです。
ウィルは「コイツもうまいことやってカウンセリングなんてさせまい」と、彼が描いた絵を揶揄し始め、そこから「アンタの奥さんは不倫でもしたのか?それが絵に表れているのではないか」とやり始めると、マグワイアはいきなりウィルのクビを押さえつけ、
「今度、妻の事を言ったら、殺すからな!」
と激怒するという、およそ、カウンセラーと患者の出会いではありません。
本作のユニークなところは、問題児の設定が桁外れの才能を持った青年であるのと、この手に負えないモンスターのカウンセリングをするのが、妻を病気で亡くしてしまい、そこから立ち直る事ができていない心理学者との交流と同時進行で、ランボー教授がなんとかマトモな企業に就職させ、そのとてつもない才能を活かそうと、前のめりになっている事と、相変わらずのウィルの悪友たちとの交流、そして、MITに通っているイギリス人の女性との恋愛を巧みにリンクさせながら、展開していく事ですね。
父親の遺産を相続し、MITに留学した、スカイラー。
ウィルの悪友を演じるのが、共に脚本を書いたベン・アフレックで、アイルランド系の労働者階級を見事に演じております。
ベン・アフレック演じるチャッキーがなかなかいいですね。
特にラストシーンの彼の嬉しさと寂しさが入り混じったような、なんとも複雑な表情は、私は全編のベストです。
過去の麻薬とアルコールへの依存がアカデミー賞の会員から問題視され、なかなか受賞できなかったロビン・ウィリアムズは、とうとう本作で助演男優賞となりました。
この2人の交流を丁寧に描いていていきます。それはマグワイアにとってのセラピーでもありました。
この心理学者の役はウィリアムズ以外はちょっと考えられず、ウィルのよき「父親」でした。
この作品で、これまで無名であった、マット・デイモンもベン・アフレックは一挙に注目される事となり、今ではハリウッドスターです。
ガス・ヴァン・サントの、どうも陰鬱になりがちな作風が、この2人の無名俳優の脚本とロビン・ウィリアムズ、そして、恋人役のミニー・ドライヴァーという素晴らしいキャスティングによって、非常に前向きな作品となったのも好ましいと思います。