アダム・マケイ『Don’t Look Up』
もし地球に巨大な隕石が100%の確立で衝突し、地球上の生物を残滅させる事がわかったとしたら?
と、なんだかどこかで見たことがあるような設定ですが(笑)、マケイ監督は、「絶対に人類は団結しない!そんなのはウソ!」という観点から描く、SFの傑作であり、『マネーショート』、『ヴァイス』と続く、「政治3部作」とも言える、トランプ政権批判にして、リベラル批判でもあります。
主人公のレオナルド・ディカプリオはややザナックス依存症になっている、中西部、ミシガン州立大学の天文学の教授です。
いつものように天文観測をしていたら。。
いつものように、助手や大学院生たちと天文観測をしていると、ジェニファー・ローレンス演じる大学院生の女の子が偶然、彗星を発見しました。
この彗星の大きさを分析すると、直径10kmにも及ぶ巨大なものである事がわかりました。
ディカプリオ演じる大学教授は、彗星の軌道計算の専門家であり、直ちに彗星の軌道を計算してみたところ、何度やり直しても、半年後の地球に衝突する結果に。
慌てた彼はNASAに連絡し、大統領にこの深刻さを直接伝える事に。
しかし、メリル・ストリープ演じる大統領は、間近に迫っている中間選挙の事でアタマがいっぱいであり、ワイトハウスのスタッフも全く本気にしていません。
ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンが融合されたような大統領を演じる、メリル・ストリープが最高です!
やむなく、新聞に記事を書いてもらったり、やテレビのモーニングショウに出演してこの危機を訴えるのですが、反応はほとんどなく(笑)、むしろ、ジェニファー・ローレンスが生放送でブチ切れした映像がネットでミーム化して、違った意味で盛り上がってしまう羽目に(笑)
アホアホワイドショーはディカプリオたちをネタとしてしか見てません(笑)
そんな彼らは、FBIに逮捕され、またしてもワイトハウスに連れて来られます。
マスコミに機密を漏洩したという容疑ですが、大統領は、念のために、天文学の優秀な学者たちにディカプリオたちが示したデータを検証させていて、その結果は、100%巨大な彗星が地球に衝突するという結論に至ったんです。
ディカプリオたちは、大統領が対策を立ててくれる!と、ようやく安心するのですが、実はお話はココからが大問題なのです(笑)。
スタンリー・キューブリックの凍りつくような傑作『博士の異常な愛情』は、米ソの核戦争による、人類の滅亡を描いていますが、ついに、この傑作を更新したのが本作であると思います。
一人で三役をこなす、ピーター・セラーズの才能が爆発した傑作、『博士の異常な愛情』。
「事件は会議室で起きている映画」の古典でもありました。ジョージ・C・スコットが演じる将軍はカーティス・ルメイがモデルだと言われてます。
ネタバレさせてしまいますが、要するに、「人類は最期の最期まで団結する事なく、実にしょうもなく争い、そして死んでいく」という事を、キューブリックはトコトン人間への不信の根底に置いて、凍てつくようなラストで終わりますが、同じような人類滅亡を描きながらも(ああ、バラしちゃった!)、マケイ監督には、キューブリックのような人間不信と徹底したニヒリズムはなく、どこかそんな人間を愛おしむ心があり、ラストは散々なのですが、それでもヒューマニズムとユーモアを持ち合わせています。
この映画を一月に見てから、ウクライナとロシアの関係がみるみる内に悪化し、まだCovid-19 が両国で大問題のはずなのに、ついにロシアの大軍が全面的に侵攻を開始し、戦争となりましたが、まさに本作の最大のメッセージである、人類はもっと平和のために団結できないのか?」というテーゼが、現実世界でとてつもなく痛切になってしまったのは、なんともですね。。
優れたフィクションはリアルを穿つ。という事を見事に証明した、人類必見の傑作。
コレだけのためにNetflixに入る価値がございます!