皮肉の効いたラストがヒステリックになっていた米国人を怒らせるキッカケとなったのは、今もって残念。

チャールズ・チャップリン『殺人狂時代』

 


製作、監督、脚本、主演、音楽をこなす、チャップリンの戦後初の映画にして、赤狩りの直接のきっかけともなってしまった作品(ちなみにチャップリンは1930年代からFBIに危険人物として、すでにマークされています)。


なんと、放浪紳士チャーリーのキャラクターを完全に捨てて、重婚と殺人を繰り返す、アンリ・ベルドゥーというフランス人を演じているのがまずもって驚きです。

 

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チャップリンのファッションセンスの良さはなかなかの見どころです。

 


従来の巻き込まれ型のスラップスティックなキャラクターではなく、自ら意思を持って犯罪を犯しているキャラクターですから、全くの真逆です。


しかも、ボロボロの格好をしている(しかし、プライドは持っている)チャーリーではなく、大変にお洒落な格好をしており、チャップリン本来の洋服を着こなすセンスが伺えるのも特筆すべき作品です。


時折目につくサイレント期を思わせるような演出は、流石に当時でも既にオールドスクールだったと思いますが、その芸風に衰えというものが全く見られないところはさすがというほかありません。

 

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汽車に乗ってフランスの各地にいる愛人たちのところにいろんな偽名や職業を名乗って、べらぼうな早口(チャップリンの早口はハンパではないです)でだまくらかすテクニックは余りにも流麗で、呆れてしまいますよ(笑)。

 

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毒を調合して殺人を計画するが。

 


意図的に大時代的にし、自分をやや自虐的に表現しているところが、やはり、チャップリンがイギリス人である事に改めて気がつきます。


とは言え、チャップリンはサービス精神のあるひとですから、往年のファンを置き去りにするような、ブラックな犯罪劇のみを見せたりはしてません。


アナベラという女性を殺そうと画策する場面でのおかしさはやはり、チャップリンファンをホッとさせますね。


殺人事件なのに、ホッとするというのも何ですが(笑)、ボートのシーンのバカバカしさ。

 

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本編の白眉の一つはやはりボートのシーン!チャップリンはトコトンうまいです!


途中からヨーデルが聞こえるがホント爆笑モノです。


この殺人に失敗してしまう、ちょっと京唄子を思わせるアナベラという女性を愛人にしてしまったのが、チャップリン演じるベルドゥーの運のツキでして、この女性が出てくると、彼の計画はことごとく壊れていきます。

 

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どう壊れていくのかは見せ場ですので、是非ともご覧ください。

 

しかし、この映画の真骨頂はそこではないんです。

 

この作品、1929年が舞台となっています。


なぜわかるのかというと、ニューヨークのウォール街の株価の大暴落が始まり、コレが欧州に押し寄せ、やがて、ファシズムの台頭が描かれており、ベルドゥーはコレによって経済的に破滅してしまうんです。


そんなに丹念には描いてませんが、1920年代と1930年代の勝ち組がガラッと変わる姿を結構冷徹に見せてますね。


この辺が赤狩りにかかってしまう原因となったものと思われます。


後半の描写がやや唐突で、もしかすると、当時の表現としては際どかったのか、カットしているような気がしないではないですが、ベルドゥー氏が自分の「運命」を受け入れるキッカケとなったものは一体なんだったのか。を実際にご覧になってお確かめください。

 

こういう皮肉の効いた作品をもっと見てみたかったですねえ。

 

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なぜ、この様な犯罪を繰り返すのか?が本作の核心です。

 

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死刑判決後の短い演説は為政者への痛烈な皮肉です。『独裁者』と合わせて見たいですね。