ボン・ジュノは最初からボン・ジュノだった!

 

奉俊昊(ボン・ジュノ)『ほえる犬は噛まない

 

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グエムル』でも活躍するぺ・ドゥナ

 

奉監督の長編デビュー作であり、彼の作品は見たものはすべて好きなのですが、私はコレが一番愉快で好きですね(笑)。


韓国のとある団地で起こる珍事件を描いた、一体どういうジャンルに分類したらいいのかわからない感が、彼の作品の中で群を抜いていて、ホントにどう形容したらいいのかわからない怪作にして快作。


原題を直訳すると『フランダースの犬』なのですが、直訳の方がパンチが効いててよいです。


とはいえ、「このどう分類したらいいのか?」という感覚は決して不快ではなく、見事に「映画という快楽」と直結していて、何度でも見直したくなるんですね。


しかも、奉監督はそれを難解なアート作品としてではなく、アクションやサスペンス、独特のブラックなユーモアとで見せてくれるのが嬉しいです。


そんな彼の作品に一貫する不思議な味わいは、長編第1作から濃厚でして、ロケーションをかなり限定した低予算にもかかわらず、いい味わいのキャラクター(彼の作品は脇役がとても充実してますね)

 

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友人と食べるインスタントラーメンがチープなのに妙に美味そうなのだ。

 


主人公は団地の管理会社の事務員の女の子を演じるペ・ドゥナ(裵斗娜)と、大学教授になるために学長になるために頑張っている青年の2人です。

 

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韓国社会ではほぼ接点がない2人を引きつけるのが、子犬なのでした(笑)。

 


この、現実にはほとんど出会う可能性のない2人を結びつけるのが、タイトルにある犬なんです。


本作には犬が3匹の飼い犬が出てきてます。


日本でもそうですが、団地で犬を飼うことは原則禁止なのですが、事実上、住居者は勝手に飼ってまして、実はその事がお話の起点になるんです。


最初の1匹目は、隣の住民の飼っている小犬です。


吠えてうるさいので、大学院生は屋上からほうりなげてしまおうとするんです(笑)。  

 


大学教授の職がなかなか得られない事にイライラしているとはいえ、余りにも飛躍している行動なのですが、屋上で切り干し大根(正確にいうと違うんですが、日本で似ているのもというと、コレになりますね)を作っているおばちゃんがいるので諦めてしまいます。


怒りのやり場が変な形で削がれてしまい、そのままボイラー室のある団地の地下に何となくきてしまい、小犬を閉じ込めてしまいます。

 

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ちょっと小林克也っぽいボイラーおじさんの語る「ボイラーキム」は爆笑モノです。

 


その小犬を探している子供が管理事務所にやって来て、飼っていた小犬がいないので、ビラを貼りたい。とやってきたので、ペ・ドゥナ演じる事務員は、団地の敷地内で貼り紙をしても良いための許可のハンコを押してあげます。


ここから、犬を通じて2人がだんだんと近づいていく事になるのですが、とにかく、なんでそうなるの?の連続と、なんなのその人?が絶妙なタイミングで出現して、話が絶妙に横滑りしつつ、面白い方に転がっていきます(笑)。

 

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見ていて、「よくこんな展開考えられるよね」の連続でして、全くオチというものが全く見えてこないです。


切り干し大根おばちゃんもいいのですが、ボイラーおじさん、地下室に住んでいるホームレスのおじさんなどなど、とにかく、クセの強いキャラクターが登場してきまして、この一筋縄ではいかないお話に絶妙にからんでくるんですね。


もちろん、犬がもう2匹出てきます。

 

それにしても、奉監督はロケーションがホントにうまいですね。


団地という、特殊な環境を屋上から地下室までを使って表現される韓国の下層社会のリアル。

 

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そして、彼の作品で一貫して描かれる賄賂社会としての韓国。


学歴によって露骨に経済的社会的にポジションが決まってしまう、厳しい学歴社会(しかし、大卒が幸せでもない)。


コレらを拳を上げて怒るのではなく、愛すべき個性的なキャラクター使って、彼ら彼女らのアクションで語らせるのが実に巧みです。


奉俊昊は最初から奉俊昊でした。必見。

 

 

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なぜ『フランダースの犬』なのかは見ているとわかります。