変化とは単線的には起こらない。

ジャ・ジャンクー賈樟柯)『長江哀歌』

 


自らの故郷である、山西省黄河中流域)を描くことの多い賈監督が、タイトル通りに長江の、しかも、なかなか中国では取り上げにくい題材と思われる、三峡ダムの建設によって水没していく事運命の町を舞台とした傑作。

 


お話しは、「煙草」「茶」「飴」という、小津安二郎のようなタイトルから内容が一切想像できないような三部構成になっていて、1と3が離婚してしまった奥さんに16年ぶりに出会うためにやってきた韓三明(ハン・サンミン)演じる男の話しで、その真ん中に単身赴任で2年も帰って来ない夫に会いに行く趙濤(チャオ・タオ)演じる妻の話が挿入されるという構成になっており、この2人は一切出会わないですし、何のつながりもありません。

 

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16年前に別れた妻と娘を探しに来た、サンミン。

 

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仕事で2年も自宅に帰ってこない夫に会いに来た妻。

 


ただ、2人とも山西省から春節を利用して同じ頃に三峡ダムの水没予定の町にやってきた。という共通点があります。


趙濤がたまたま出会った少女が、恐らく、韓三明の娘と想像されますが、たまたま出会った程度。というですね。

 

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サンミンの娘なのでしょう。


この二人の視点から、見えてくる急激に経済成長していく中国を見せていこうというのが、監督の意図であり、この「中国の厳しい現実」を見せるというモチーフそれ自体は、彼の前の世代の監督から中国でもよく見られますけども、賈監督は、彼ら彼女らをなぞるのではなく、より歪で、時にシュールですらある現実をしかし、淡々と撮るところがとても面白いですね。

 

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水没するので取り壊される建物。

 


魯迅の短編小説の風景とほとんど変わらないような風景の中なのに、皆携帯電話を持っていて、それ自体がものすごい違和感を与えてますけども、そこから少し離れた街になると、突然、ビルかたくさん建造されていているような近代的な風景になります。

 

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このような奥地でも近代化が急速に進みます。

 


しかも、そのビルはすぐに爆破してまた新しく立て直すんですね。


しかも、UFOすら飛んでいるのです(笑)。


日本の高度経済成長期も相当なものだったと思いますが、中国のソレは桁が違っています。


結果としてですが、この作品のロケ地は今では三峡ダムの完成により水没している。という事実も衝撃的です。

 

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単に厳しい現実を示すのではなく、その変化の途方もなさをかなり大胆な手法で見せてしまう本作は、中国が単に経済的に豊かになったというだけではなく、その内実も伴って来ている事を示しているわけでして、日本映画はホントに今のままでいいのだろうか?と思ってしまうです。

 

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