今こそイマヘイ作品のバイタリティを!

今村昌平『赤い殺意』

 

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動物をメタファーとして使うのが実にうまいですね。

 

 

1960年代の今村昌平の映画はすべてオススメですけども、たまたま見返した本作は、やっぱり凄かったです。

 

今となっては、ソープオペラ的な題材でしかないかもしれませんが(事実、何度もテレビドラマでリメイクされてます)、やはりオリジナルの持つ迫力はものすごいモノがあります。


大学の図書館職員である西村晃演じる夫吏一が出張中に、強盗にレイプされた貞子は、もう何年も妊娠していないのに、突然妊娠してしまった事から始まる、貞子の人生を描いていきますが、この貞子を通して見えてくる、戸籍制度という、21世紀になっても維持し続ける理不尽な制度、東北社会に根強く残る因習などを炙り出す、今村昌平の骨太な演出が本当に見事という他ないですね。

 

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熱したアイロンを凶器にするというリアルさ!


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敢えて暑苦しいアップを多用し、見る者に圧迫感を与えています。

 

自分がなぜ不幸なのかすらわからないどころか、不幸である事すらわかっていない貞子が、次第に自分の人生を取り戻していくわけなのですけども、今村は、大島渚のように、戦後民主主義の不徹底やイエ制度への呵責なき怒りを叩きつけるような描き方はせず、善悪にジャッジはつけずにあくまでもリアルを見せますね。

 

貞子を演じる春川ますみの見事な演技、一切の綺麗事を排したコールタールのような暗さを強調した絵作り、敢えて距離感を持ってキャメラを固定しての長回しのワンショットの多用など、コッテリ感とクールネスが同居する今村演出は冴えまくってます。

 

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ロケーションも見事ですね。

 

『にっぽん昆虫記』と双璧をなす、今村昌平の全盛期を示す傑作であり、韓国の映画監督、イ・チャンドン、ボン・ジュノらにも確実に影響を与えているであろう事を知ることにもなります。

 

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