オーソン・ウェルズのシェイクスピア劇の集大成!

オーソン・ウェルズオーソン・ウェルズのフォルスタッフ』

 

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愛すべき怪人、フォルスタッフ。


シェクスピアのいくつかの戯曲に出てくる、架空の巨漢の騎士、サー・ジョン・フォルスタッフを主人公とした、ウェルズの主演・監督作。

 


お話しの大枠としては、ヘンリー4世からヘンリー5世という、15世紀初頭のランカスター朝のお話しで、まだ、フランスとは百年戦争の最中で、停戦中です。

 


王太子のヘンリーとフォルスタッフは放蕩仲間で、お話しの前半はそこが丹念に描かれています。

 

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王太子ヘンリーとフォルスタッフ。


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で、中盤は1403年に起こった、ウェールズの反乱に合流した、ノーサンバランド伯ヘンリーとその息子のヘンリー・パーシー(ヘンリーばかりでややこしいです)と、伯父のウスター伯トマスがイングランドに叛旗を翻したので、ヘンリー4世と王太子ヘンリーが迎え撃つお話しです。

 

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ランカスター朝創始者、ヘンリー4世。


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そして、後半は数々起こる反乱によって病気がちとなるヘンリー4世の跡を継ぎ、ヘンリー5世が即位するお話しです。

 


おおよそ、シェークスピアの『ヘンリー4世』の二部作に基づいた構成になっており、ここに『ウィンザーの愉快な女房たち』活躍するフォルスタッフの様子を加えての映画作品となっているのですが、素晴らしいのは、前半から中盤にかけての驚くほどスピーディで短いショットを積み上げていく、ウェルズ独特の編集とキャメラワークの凄さですね。

 


ウェルズ演じる、放蕩の巨漢フォルスタッフのうまさは、もう言葉が追っつかないですね。 

 

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愛嬌と凄みが共存する、人間というより、妖怪とか怪物に近いキャラクターで、それを極端にデフォルメした着ぐるみのような体型とメイクという、普通にやってしまったら、ほとんどキワモノになりかねないような事をウェルズの演技力によって、違和感なく映画の中に溶け飛んでいるというのは、脱帽という他ありません。

 


ヘンリー4世は、ジョン・ギールグッドですね。シェークスピア俳優として名高い人なので、冷徹なイングランド王を見事に演じております。

 


そして、もう一つ特筆すべきは、中盤のノーサンバランド伯とウースター伯の、いわば、パーシー一族によるイングランドへの反乱の戦いのシーンの凄さですね。

 

 

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写真のみだとわかりづらいですが、ものすごい戦闘シーンです!

 

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ご存知のように、ウェルズはデビュー作『市民ケーン』で、新聞王ハーストを激怒させてしまい、事実上、「亡命者」のようにいろんな国から資金援助を受けながら映画を撮り続けたのですが(資金難でいくつかのの映画が途中で挫折していますし、完成した作品が不当にカットされているものすらあります)、本作もスペインで撮影され、かなりの低予算なのですが、そういう資金難が微塵も感じられないほどの凄絶な戦闘シーンでして、白黒撮影の利点を見事に使ったどこか幻想的でもある映像で、短いショットの積み重ねの中で敵なのか味方なのかも定かではない殺し合いをひたすら写しだすという、とにかくもって凄まじい映像が展開します。

 


そこをファルスタッフが一切戦闘に加わらず、隠れたり、逃げ回っているシーンを何度もスッと見せるのがコレまたおかしいのですが。

 


王太子ヘンリーとヘンリー・パーシーの一騎打ちも、一切の虚飾なしの演出で描かれていますね。

 


しかし、このような目まぐるしくも華々しい展開が後半になると、急に重苦しくなっていきます。

 


この極端な対比がフォルスタッフの奈落の底に落ちていくような没落と相まって、ウェルズはこの後半をとても冷徹に描いております。

 

ウェルズは、シェークスピア作品として、『マクベス』、『オセロ』、そして本作を撮っていますがそのどれもが秀逸で、オススメできます。

 

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