イ・チャンドン『oasis』
2002年の作品で、『シークレット・サンシャイン』の前作です。
この監督は一作ごとの入魂の度合いがハンパではなく、それが寡作にならざるを得ない最大の原因ですが、本作の入魂度は、1960年代の今村昌平に匹敵する凄さがあります。
社会にうまく適合できない前科者の男と脳性麻痺の女性の恋愛。という、誰も思いつかないような、恐ろしく濃厚な人間ドラマですね。
ひき逃げ犯として2年半の刑期を終えたばかりのホン・ジョンドゥを演じる、ソル・ギョング(薛耿求)のアタマの悪く、かつ、ウザいキャラぶり!
ソルは、作品ごとにまるで別人のように違う役を演じる事で有名なようですが、このウザい男がホントにリアルで驚きますよ。
コレだけの役者、世界的に見てもそうはいないのでは。
ムン・ソリ(文素利)のあまりにもリアルな脳性麻痺の演技は、まさか、ホントに脳性麻痺の人を主演にしているのでは?とすら思ってしまうほどすごいもので(そうではない事が見ているとわかります)、本作での演技は高い評価を受けました。
この女性、実は、ホンが事故で死なせてしまった清掃員の娘なのです。
なぜ、この2人が出会うことになるのかというのが、ちょっとありえないようなジョンドゥの行動によるのですが、このような行動に出てしまう理由は、実は後半にわかってきます。
「洪景来将軍の末裔なんだよ!」「洪景来は叛逆者でしょ」
このような、シチュエーションは、ちょっと今村昌平でも思いつきませんね。
イ・チャンドンは、時にはマジック・リアリズムすら使い(タイトルが意味するところはこの表現に由来します)このユニークな恋愛をキレイごとではなく描ききってます。
後半、この話は予想しない、とんでもない方向に転がっていきます。
このドストエフスキーもびっくりなドロドロが、事もあろうに、ジョンドゥの母親の誕生日から展開します(まさに、ドストエフスキー的です)。
究極のKYであるジョンドゥとその一族の、文字通りの地獄絵図は必見(笑)。
文字通り、言葉で説明することのできない、怒りと悲しみ、そして、愛。
側から見ていると、どうしようもないし、救いがたいのですけども、それは当人たちから見ると全く違うものが見えてくるお話ですね。
とにかく、圧倒的な作品ですので、是非とも見て確認してみてください。