B級感覚が戻ってきたイーストウッドの痛快作。

クリント・イーストウッド『運び屋』

 

※公開直後ですので、写真はナシです。

 


現在、88歳のイーストウッドが久しぶりに自作の主演に復帰して撮ったのは、90歳の麻薬の運び屋。をモデルとした作品。

 


イーストウッドは、昔から大学教授や写真家という、どう見てもそんな職業やってそうもない役を演じる事がしばしばあるんですけども、今回も、園芸家。という、あり得ないような役なのでした(まあ、今回は実際に逮捕された園芸家なのですが)。

 


まあ、オチはもうわかった上でのお話ですし、最近のイーストウッドは、そういう作品ばかり撮ってますけど、最近はそこに昔のB級感覚が戻ってきていて、大変うれしいです。

 


中西部イリノイ州の田舎町で家族そっちのけで1日しか咲かない「デイリリー」というユリを育て、とても高い評価を受けているイーストウッドは、妻や娘からも愛想を尽かされているのですが、インターネット通販におされてなのか、自宅と農園が差押えられてしまいました。

 


そんな彼にメキシコ系の若者が声をかけるんですね。

 


「クルマを運転するだけでカネが儲かる仕事があるからやってみないか?」

 


何の事かわからないイーストウッドは、教えてもらった場所に行くんですけども、そこはマシンガンなどで武装したマッチョなメキシコ系のおにいさん達がいるんですね。

 


「コレを言われた場所に運んでくれ。中身は見るなよ」

 


明らかにヤバいブツの運び屋をやらされるのは誰にでもわかりますが、朝鮮戦争の従軍経験者でもある彼は(なぜか、イーストウッドの自作自演作には、朝鮮戦争従軍経験者が多いんですよね)、そんなものは意に介さずに「ああ、わかったよ」と返事をして、テクサス州からシカゴまでブツを運ぶんですね。

 


運び終わると、クルマに信じられない大金が。

 


ここから、イーストウッドは、差押えられた自宅を取り戻したり、退役軍人会の施設を守るためなどのために、運び屋をやりつづける事になるんです。

 


運んでいるブツに最初は無関心でしたけども、つい気になって中を見てしまい、自分がとんでもない量のメキシコからやって来たコカインを運んでいる事を知ってしまいます。

 


しかし、その事実を知っても、あまりにも呆気なく大金が入ってくるので、やめられなくなってしまいました。

 


DEA(麻薬取締局)は、メキシコの麻薬カルテルがシカゴに大量のコカインを流がしている事は掴んでいたのですが、その肝心の人物が全く特定できずにいたんですね。

 


と、ここまで書いていると、なんだかクライムサスペンス感が満点なのかと思いますが、運んでいるのは、90歳のジイさんが安全運転で、カントリーを聴きながら、途中でハンバーガー食ったりの寄り道しながらなので(要するに、言われた通りのルートで走ってないんですね)、ほとんどスリルがありません。

 


時々、保安官に「何を運んでるんです?」と、職質されるシーンなんかはあるんですけども、まさか、こんなおじいちゃんが200kgを超えるコカインを運んでいるとは誰も思いませんので、ちゃんと調べられないんです。

 


DEAも、運んでいるのはメキシコ系であると思い込んでいて、容疑者像からイーストウッドが完全に漏れてしまっているんですね。

 


また、本作の嬉しいところは、イーストウッドがほとんど、ハリー・キャラバンを思わせる、口の悪いキャラを演じていて、メキシコの麻薬カルテルの連中がかなり霞んでしまう事でして、カルテルのボスを演じる、アンディ・ガルシアは、クレイ射撃が大好きなただのデブのおっさんでしかないんですね。

 


ちなみに、イーストウッドの娘役は、実の長女が演じていて、子供の頃、女優のサンドラ・ロックと同棲生活をしていて、家庭を一切顧みなかった事実と、完全に重なります。

 


それにしてもこの映画、共和党支持者として有名で、トランプ支持を早くから表明しているイーストウッメキシコからやってきた麻薬は、ヒスパニックやチカーノが持ってきているのではなくて、そのウラをかいた白人の老人がとんでもない量の麻薬を運び続けていた事実を、恐らくはイーストウッド流に大胆に改変して作られたというのは、誠に痛快ではないですか。

 

トランプさん。アメリカをドライブしてみなよ。アンタが思っているほど、アメリカは簡単じゃないですよ。と言っているフシがあります。

 


本年のアカデミー作品賞を取った『グリーンブック』もとても良かったんですけども、私には、こっちの方がより好感を持ちました。